悪役令嬢に転生したら、王子に転生した事がばれました。
「あら? ここはどこかしら?」
「エリサ様! お怪我はありませんか?」
「え、だ、大丈夫よ」
「立てますか?」
「ええ、ありがとう」
私は手を借りて立ち上がり、周囲をキョロキョロと見回すと、学校のような建物が目に入ってきた。
「あ! 思い出しましわ! 私、悪役令嬢に転生したんですわ!」
「エリサ様、どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもないわ。とりあえず、ユリは先に授業に行ってて、私もすぐ行くから」
「分かりました!」
ユリが教室に向かって行くと、私は一息吐く。
ここは乙女ゲームの世界だわ。
たしか、乙女ゲームの名前は『金の王子と銀の姫』。
平民のヒロインである、ユリの好感度が上がり続けると王子に気に入られる。
でも、私はユリの悪役令嬢。
ユリの好感度が上がってしまうと私は死んでしまう設定になっている。
「ここは確か、王都にある魔法学校。たしか貴族の子供が通う学校ね」
私は悪役令嬢のエリサ・ルーカスというキャラクターに転生した。
公爵家の令嬢だが、わがままで意地悪という、典型的な悪役令嬢だ。
「でも、ヒロインの好感度が上がれば、私は死んでしまう……。そんなのは絶対に嫌よ!」
こうなったら、何としてもヒロインの好感度を上げないでおこう。
魔法学校なんて行きたくないけど、そこは貴族のしきたりだと諦めてやるしかない。
よし、がんばりましょう!
私、悪役令嬢エリサ・ルーカスは死なないためにがんばるわよ!
私は決意を胸に、魔法学校へと向かったのだった。
◇
「今日は魔法測定の日です。順番に呼ばれますので、待っていてくださいね」
今日の授業は魔法測定。
ゲームのイベントでは、攻略対象の好感度を上げるために必要になるもの。
たしかこのイベントでユリは、王国の第一王子であるアルフ・メイナルドと出会う。
そこで、アルフはユリのことを好きになるが、私が現れる。
本来の私はユリの邪魔を色々とするんだけど。
それに失敗する、私が死ぬ流れでね。
「次の方はエリサ・ルーカスさん。前にどうぞ」
「はい」
名前を呼ばれ、私は前に出る。
魔法測定は水晶玉に手をかざし、魔力の量を測定するというもの。
この測定で高得点を取ると、その属性の魔法が強くなる。
逆に低いと、その属性の魔法が弱くなるのだ。
でも、私は知っているわ!
この測定で高得点を取ってしまうと私の死亡エンドに直結するということを!
たしか魔力が強すぎて、バラバラになった破片がユリに降り注ぎ、怪我をさせてしまう。
そこで王子の登場だ。
「ふふふふふ、絶対に弱い魔力を見せてやるわ!」
私は水晶玉に手を乗せた。そして、魔力を流す。
すると、水晶玉は光輝き、私の魔力を測定していく。
「これは……かなり低い魔力ですね、エリサ・ルーカスさん。一般貴族なら、もう少し魔力があるんですが」
「今日はちょっと調子が悪んですのよ。魔法はしっかり発動できるんですけど……」
「調子が悪いのでしたら仕方ありませんね」
よし! これで死亡フラグは回避したわね!
私は心の中でガッツポーズをするのだった。
そして、次はユリの番だ。
「次の方はユリ・ゾールさん」
「は、はい!」
ユリは水晶玉に手を乗せる。
そして、水晶玉は光輝き、ユリの魔力の強さを測定する。
「あ、あれ? 魔力の制御が……」
「ユ、ユリさん! 水晶玉から離れなさい!」
教師が叫ぶが、ユリは魔力の制御が出来ずに、水晶玉は割れて破片がユリに降り注ぐ。
「きゃああああ!」
「ユリ!」
私はユリの名前を叫びながら体に覆って、怪我をさせないよう破片から守ろうとする。
その直後だった、先ほど襲ってきた破片が浮いている。
この破片一つ一つにかなりの魔力を感じるのだ。
それが出来るのは一人しかいない。
「第一王子のアルフ・メイナルド様……」
「大丈夫かい? 2人とも」
アルフは空中に浮かんでいた破片を簡単に消すと、私たちに話しかけてくる。
その少年、アルフは金髪で赤い瞳をしている。
そしてゲームの設定では、この国の第一王子であり、攻略対象の一人で、ユリが攻略するキャラクターの一人だ。
「ありがとうございます。アルフ・メイナルド様……」
「君たちは確か……公爵家令嬢のエリサ・ルーカスと、特待生で入ってきたユリ・ゾールだったかな?」
アルフが私たちの名前を知っているのは、ゲームの設定通り。
この王子は平民のユリを気にかけている設定だ。
「そうです、私はエリサ・ルーカス、こちらは友達のユリ・ゾールです」
私はお辞儀をすると、ユリも慌てて頭を下げる。
「2人とも怪我はないかい?」
そう言って、アルフは私たちに手を差し出す。
私はその手を取ると、ユリも手を取り立ち上がる。
すると周りの貴族の女子生徒たちから、歓声が起こる。
「流石はアルフ様! 素敵ですわぁ!」
「アルフ様に手を差し伸べてもらえるなんて! 羨ましい!」
その様子を見ていたアルフは私の手を離すと、ニコリと笑う。
これは私が悪役令嬢エリサに転生した日、魔法学校で初めての授業であった。
◇
その日の夜、私は自室で鏡を見ながら、今日のことを振り返っていた。
「にしても、まさか私がとっさにユリの体を覆うだなんて。ふふふ、私って、なかなかやるじゃない!」
ふふふと笑い声がこぼれてくる。
そうよ! これが本来あるべき姿なのよ!
悪役令嬢エリサに転生したからには、死亡フラグをへし折って、私は生き延びてみせるわ!
そう思っているとコンコンとドアがノックされる。
「誰かしら? どうぞ」
「失礼する」
「って、ええええええ!?」
なんと入ってきたのはアルフ・メイナルドだった。
なんでアルフが!?
「突然来てすまない、実は一つ、エリサに聞きたい事があってね」
「聞きたい事って?」
「なぜ破片が降り注いでいる中、真っ先にユリを助けようとしたんだい?」
「当たり前じゃない! 友達が危ない目に遭っていたら助けるわ!」
私は即答で答える。するとアルフは驚いた表情をする。
たしかに私は悪役令嬢だけど、やっぱり私は悪役令嬢エリサじゃない。
私は私のまま、生き抜いてやるわ!
そう思っているとアルフは口を開く。
「貴族というのはどこか自分勝手で、自分の利益しか考えていないと私は思っていた。だが、君は違うらしい」
「そ、そうかしら?」
たしかにゲームのエリサは自分勝手で傲慢な性格だけども......。
それにしても、目の前のアルフはかなり饒舌だ。
ゲーム内だとそれほど喋る性格ではなかったような気がするけど。
「何か僕に出来ることはないか?」
アルフの言葉に私はドキリとする。
だってこれって……ゲームイベントにもある、アルフがヒロインを助けてくれる会話だ。
「出来る事……たしかにありますけど、信じてもらえないので……」
「言ってくれ、僕はエリサの役に立ちたいんだ」
「じ、実は私、転生したの」
私は観念して、自分の重大な秘密をアルフに話した。
この世界に来る前の記憶があること。
乙女ゲームという、別の世界があるということ。
そして私はその乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったこと。
「そ、そんなことがありえるのか!? だが、そんな嘘を付くような内容でもなさそうだしな……」
「やっぱり信じてもらえないわよね」
「いや、信じるよ。君の目を見れば分かる」
そう言って、アルフはスッと手を伸ばして、私の頰に触れた。
急展開についていけない私は息を飲み、目を見開いて動けないでいた。
あああ! なんで!? 何でこんなイベントが発生しているの!?
「僕がエリサを救おう。だから、安心してくれ」
そう言ってアルフは私の頰から手を離す。
これ以降、私の死亡フラグが完全消滅する。
理由は簡単だった。アルフが私を守ってくれるからだ。
そして私は、アルフとのイベントを無事にこなし、魔法学校を卒業するのだった。
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