第9話 食堂車オシ24
星空の下、月明かりが水面を照らし、風も無く、ないだ水面が、鏡の様に、夜空の星を反射させている。と言うより、水面の方からも僅かに小さな光が発せられている。
その水面に、DD51のヘッドライトの灯りや寝台車や食堂車の灯りを映しながら、列車は鉄橋を渡る。
まもなく、食堂車の営業時間が始まる。
給仕役の彼女はそんな景色に見惚れること無く、業務に付く。
今日もまた、影法師のような姿の旅客が疎にやって来た。
チラリと旅客を見回すが、人の姿の旅客は居ない。
光を発する木々や川の車窓に、流れ星が見え、DD51の汽笛と共に白鳥が舞ったと思うと、白鳥停車場の入換信号機の灯りが見えた。
単式ホームと島式ホームの2面3線からなる白鳥停車場を通過。旅客ホームには、イギリス製蒸気機関車3950「グリーンブリーズ」号がマッチ箱のような客車を牽引する、南十字線直通の普通列車が待避していた。あちらは蒸気機関車の石炭と水の補給のため20分停車するが、ディーゼル機関車の牽引する寝台特急列車であるこちらはその必要も無く、普通列車を押し退けるかのように通過してしまう。
いずれ、あちらの列車にもディーゼル機関車が投入されれば、蒸気機関車のように石炭と水の補給で長時間止まる必要もなくなるだろう。最も、足の速い優等列車や貨物列車に普通列車が追い越されるために長時間停車する必要はあるだろうが。
影法師は皆、それぞれの食事を済ませると、出て行ってしまう。何も話さずに。
次の駅は、アルビレオの観測所。一応、鉄板でできた1面2線の島式ホームを有する駅であるが、観測所の職員と観測所に行く貨物線のための駅。余程のことがない限り、優等列車は停車しない。最も、脱線事故はあるかもしれないが、ダイヤ乱れとは無縁のこの世界だ。
ほとんどの影法師がB寝台車の方に消えた頃、アルビレオの観測所の駅の場内中継信号機を通過した。その時、A寝台車の方から旅客がやって来た。
「いらっしゃいませ」と、給仕役の彼女は挨拶。それは、人の姿の旅客だった。
人の姿の旅客はどこに座ろうかウロウロして、B寝台車側のラウンジの方に座った。