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第8話 A寝台車オロネ25

気が付いた時、自分はA寝台個室の車内にいた。

先程まで居た、自分の部屋ではない。


「ゴトンゴトゴトン。ゴトンゴトゴトン。」と言う車輪がレールの轍を拾う音。どうやら走行中の列車の中だ。そして、やけにうるさく響いていることから、列車はトンネルの中を進んでいるらしかった。


「ピィーーっ」と、機関車が、ガラスの笛のような透き通った汽笛の音を響かせ、列車はトンネルを出た。

車窓は暗く、夜だった。だが妙に明るく見える。車内の灯りが窓に反射するので、個室の電気を消す。


「なっ!?」


と、自分は今、どこかも分からぬほどに綺麗で美しい世界を前に、息を呑んだ。


列車はカーブを進んでいるらしい。前の方を見る。


(先頭には、紅いDD51。客車は概算で4から6両編成。)


列車の編成を確認したのだが、その時、前方から淡い光が見えた。


その光はかなりの光力で、灯を消したA寝台個室の中をも淡く白い光で包み込んでしまう。


A寝台個室の窓の外には、淡く透き通る光を放ちながら、きらびやかな水面を浮かべる川が流れていて、その中洲に青白く後光が射す白い十字架が立っているのが見えた。そして、夜空には白く透き通る光を放ちながら、白鳥の群が飛び交っていた。


「ピィーッ!」と、DD51ディーゼル機関車のガラスの笛のような透き通った汽笛の音が夜空に響くと、前の方から白鳥たちが飛んで来る。線路にいた白鳥を追い払ったのだろうか?


(なんて、綺麗な世界を。まるでここは銀河鉄道ー。)


その時になって気付いた。

自分は、模型部屋で両親の乗った列車が大事故に巻き込まれたと知った後、突如として意識が遠のいて倒れ込んだが、その時、ジオラマの駅ではDD51ディーゼル機関車が牽引するブルートレインが、発車準備をしていた。そして、そのブルートレインの編成と、今、自分が乗っているブルートレインは同じ編成だと。


(まさかー!?)


個室を飛び出す。

旅客は誰もいないようだ。

後ろの車両は電源車。前の車両は食堂車でその前にB寝台車が連なる編成。


(B寝台車の方に行くのが厄介だ。)


と思う。


国鉄時代の特急や急行等の優等列車の食堂車は、基本的にA寝台車とB寝台車の合間、或いは三等車と二等車の合間に連結されている。

戦前から戦後間もない時代の国鉄の優等列車は、車両の等級制度がかなり厳しく、三等車の客が不正に二等車へ乗る事などもってのほかだった。また、食堂車が優等旅客を対象としていたことや上級車両を下級乗客が極力通り抜けないようにすると言う意味合いもあり、三等車と二等車、或いはB寝台車とA寝台車の合間に食堂車を連結していたのだ(ケースバイケースで必ずしもそれとは限らない物もある)。それで無くとも、B寝台車の様子を見に行くために、食堂車を通り過ぎるのはいささか気が引ける。


(さて、どうしたものか?)


と思うと、影法師が近付いてきた。


見ると車掌のようで検札らしいのだが、いきなりこの列車に乗っていたのだから切符など持っているはずも無い。


ゴソゴソとズボンのポケットを探ると、マルス切符。しかも、検印済み。影法師の車掌は物も言わず、足音も立てず、去って行く。


マルス切符を見てみるが、号車番号や個室番号は書かれているものの、列車名がボヤけて読めない。


(こうなりゃー)


と、自分はA寝台車の前の車両、食堂車に向かった。


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