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第4話 模型鉄道

バイトが終わった。


帰り際に、バイト先から駅まで寄り道。


この駅は、単線電化路線の鉄道路線が来ている駅で、単式・島式複合ホーム2面3線の列車交換可能な地上駅で、洋風木造建築の駅舎の駅だ。かつては、織物や生糸などの輸送のための貨物列車も来ていたらしく、側線が2本と、機回し線がついた貨物ホームもあるが、どちらも今はまったく使われていない。貨物ホームに至っては、分岐器のところに枕木の車止めが設置されてしまっている。


駅前のパン屋でおやつにツイストパンを買い食いする。このパン屋は、レンガ造りの建屋をリノベーションした店で、かつてはこの建屋のところに貨物ホームがあり、ここから貨物列車に織物や生糸を載せていたらしい。イートインスペースには、当時の写真が飾られている他、貨物ホーム跡には当時貨物列車を牽引していたEF15電気機関車が静態保存されている。


「来月、あの機関車のお掃除イベントやるよ。」


と、パン屋で働くバイトの女子大生が言う。


「そうですか。」

「詳細、また後日伝えるね。」

「ありがとうございます。是非参加させていただきます。」


このバイトの女子大生と自分はもう顔見知り。自分より年上だけど、何かと気が合い、仲良くしてもらっていて、偶にだが、売れ残りのパンをくれたり、或いはEF15に関連したイベントの事を教えてくれる。


話をしていくうちに、バイトの女子大生は食堂車と言う物に興味があると言う事も分かってからは、食堂車の面影を求めて一緒に出掛けるようになったほか、自分もパン屋のEF15に関するイベントの時はボランティアスタッフをやる事もあり、最近では、バイトをポスティングからこのパン屋にしようかなとも考えている。


そして、変な噂話が流れた時も、味方になってくれた。


「変な噂まだ言われてんの?バカじゃないそいつら。と言うか、SLやまぐち号にその噂流した奴が乗っていて、たまたま似たような人を見かけたとしたら、「この日、SLやまぐち号に乗っていた?」って聞くだけでいいでしょう?或いは仲良くなろうとしてそんな噂流したのかもしれないけど、それだと意味分からない。」


今日の事を話すと、バイトの女子大生は頬を膨らませながら言い、


「「銀河鉄道の夜が好きなら、SLに乗る」って勝手に決め付けて、君の趣味思想は聞かないって何それ。私は君から「銀河鉄道の夜」の列車の話を聞いた時は、「あぁなるほど!」って思って、新しい視点から物語を読むきっかけにもなったのに。」


と言った。

嘘だとしても、そう言われるのが嬉しかった。

嘘だとしても。


「それが面倒臭いのか、あるいは論破されて悔しいのか。物語はいろいろな人が読みますから、それぞれの感想が浮かびます。それは否定しません。ただ、同じ考えを押し付けるのは嫌ですね。大切なことは、自分がAならみんなもAだと言う誰が決めたわけでも無い定義を押し付けないことです。正解の無い問題の正解なんて、誰にも分かりません。人の数だけ答えがあるのです。」

「黙って今日の事聞いていたけど、それはアカハラだよ。録音して、警察に相談。教育委員はダメ。奴等はどいつもこいつもバカな理想主義者で、話聞かないから。警察持って行けば事件として扱われる。まぁとりあえずは、気分転換も必要かなぁ。ねっ!今度の週末、わたらせ渓谷鐵道のトロッコ列車乗りに行かない?神戸駅の電車のレストランでお昼とか、或いは列車の中でお弁当。」


遊びのお誘い。と言うより、気分転換にまた鉄道旅をようにも、1人で行ったら、更にまた変な噂を流されかねないから自分がボディーガードになるよと、彼女なりに気を遣ってくれたのだろう。


「是非、ご一緒に。」


と、自分は答えた。


バイトの女子大生は年上だけど、一緒に出掛けたら楽しい相手だ。


ちなみに彼女は、銀河鉄道の夜の列車は、急行型電車の列車だと思っているらしい。更に、その列車には食堂車が連結されているだろうとも言う。

他の銀河鉄道の列車と混同しているようにも見えるが、それに対して自分は「なるほど」と、納得している。


パン屋を後に帰りの道すがら、今度は古くからある模型屋に立ち寄る。駅前のパン屋と違い、まるで人の気配が無くて薄暗い店。


隣の時計屋も同じく、まるで人の気配も無く、商売気の無い店で、看板たる柱時計の振り子の「カチッカチッ」と言う音だけが寂しく響いている。


けれども、道を挟んだ向かいのレンガ造りの洋館の写真館では、どこかの親子が記念撮影を終えて出て来ている。その隣の洋館のカフェからは、コーヒーを焙煎する良い匂いがする。道の反対側は活気があるが、この模型屋のある方からは人の気すら感じない。

店の奥からゴソゴソと、寄れた服を着た爺さんが出て来た。


「こんばんは。」

「あぁ。君ね。」


模型屋の爺さんも、パン屋の女子大生と同じく顔馴染み。

この模型屋には、看板代わりのような鉄道模型のジオラマがあり、レンタルレイアウトとして自前の鉄道模型を走らせる事も出来る。


15両編成のフル編成のブルートレインや新幹線を走らせても余裕がある程の大きさを持ち、木造の建物の通りに面した窓際の鉄道模型のジオラマは、行き交う人の目に止まるし、自分も蒸気機関車の観光列車が走る日に気が向いたら、自前の鉄道模型を走らせる事もある。その時は一応、空気を読んで蒸気機関車のD51が引っ張る列車を走らせることもあるが、後ろに続くのは鋼製荷物車スニ30等の荷物車や郵便車、或いは貨車で、D51に旅客列車を牽引させることはほぼ無い。


自分は、銀河鉄道の夜の銀河鉄道に蒸気機関車は居ない。引っ張っているのは電気機関車だと考えているから。

なので、メインで走らせるのはEF58やEF53が牽引する旅客列車だ。

そして、貨物列車でさえも、D51よりもEF15の登板が多く、蒸気機関車のD51はEF15のトラブルに備えた予備機のような扱い。まるで、無煙化を控えた国鉄のようだ。


「しかし、君のような世代で渋い趣味の人は珍しい。SLではなく、戦前戦後の電気機関車を主に集めるとは。そんな君の次の所望はDD51。またまた蒸気機関車を置き換えた、って言うより、こいつは、蒸気機関車を一掃したと言っても過言では無い存在のディーゼル機関車か。」

「そのDD51でさえ、今や絶滅危惧種。JR貨物のDD51は全て引退したと聞いております。DD51に関しては現在、車籍を有するDD51は、JR東日本に800番台が2両と、JR西日本に500番台が8両の計10両。一方で、現在車籍を有する蒸気機関車は、梅小路運転区等の園内運転の機関車も含めると計20両。DD51の2倍です。そして、旅客用の機関車はDD51に限らず、蒸気機関車を除き、今後引退して行く。皮肉な物です。蒸気機関車を置き換えた存在である電気機関車やディーゼル機関車が、蒸気機関車よりも先に姿を消そうとしているとは。」

「それは違うと言いたいが、JR西日本のC57-1や、全検こそ受けてはいないけどC62-2等のように一度も廃車、車籍抹消されることなく、今も活躍している例もある。貨物列車は抜きにして、旅客列車のみで考えると確かに皮肉だと言えるな。最も、旅客列車は機関車が引っ張る客車列車から、電車やディーゼルカーに取って代わってしまえば、機関車は用済みだがな。」


爺さんは言いながら、NゲージのDD51ディーゼル機関車の鉄道模型を包み紙で包み、袋に入れる。自分は、一万円札を渡す。


つい先日、都会の駅のイベントに立ち寄った際、福引きをやったら運が良く24系寝台車5両と食堂車1両のブルートレインの基本的な編成のセットが当たった。


しかしながら、自分が狙って居たのはEF58やEF53に牽引させるのに似合うぶどう色の客車。どうするか考えた自分は、模型屋でこの客車を牽引させるに相応しい機関車を探したのだが、店に掲げられていたDD51が牽引する寝台特急「出雲」の写真が目に止まり、また、福引で当てた24系客車に「出雲」のテールマークが入っていたことを思い出し、DD51を買ったのだ。

模型屋を出ると、出張中の両親から連絡。本当なら今日の飛行機で四国から帰って来るはず。だが、「飛行機に乗れなかったので、寝台特急「サンライズ瀬戸」に乗る」と言う連絡。


出張の多い両親。帰宅したけど、今日も一人寂しく、米を炊き、有り合わせの惣菜で夕食だ。

炊飯器から米を茶碗に粧い、レンジで温めた惣菜の唐揚げと、出来合いのマカロニサラダにレタスをむしって夕食。食べる場所はリビングでは無く、自分の部屋のテーブル。だけど、テーブルの大部分は自分が作った理想の世界で埋め尽くされ、その片隅で勉強したり、夕食を食べたりするのだ。


食べながら、すっとスイッチを操作。


それは、あの模型屋の鉄道模型のジオラマと違い、その4分の3は銀河鉄道の夜の世界になっていて、残りの部分は待避線や留置線、貨物ホームに加えて小さな機関区がある駅が占めている自作の鉄道模型のジオラマだ。


今、目の前の駅から、マイネ40やオハユニ61に加えて食堂車や一等展望車も連結した堂々たる夜行列車が、EF53に牽引されて出て行く。


夕食を食べ終えると、食器を片付けて福引で当てた24系寝台車を広げる。


車内があまりに殺風景なのは、鉄道模型である以上仕方が無い。

しかし、貨物列車では無いのに旅客や車掌が居ないのはどうなのだろうか?


「汽車の音が聞えてきました。その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、その中にはたくさんの旅人がりんごを剥いたり、わらったりー」と、銀河鉄道の夜の本文にもある。


(少なくとも、食堂車には何かしよう。)


見ると、24系寝台車のセットにはこれに乗せる旅客の人形が付属していた。

食堂車オシ24の車体を外し、車端部に近いラウンジのような部分に、給仕役の女性を配置。そして、接客を受ける旅客を1人、座席に座らせるように配置。


(給仕役はそうだなぁ。パン屋さんの姉さん。お客さんは自分って感じかなぁ。あの人、食堂車ってのに興味があるらしいし。まっとりあえず、まずはこれで。)


と、思うと、車体を元に戻してジオラマの留置線に24系寝台車とDD51ディーゼル機関車を載せる。

駅のホームに、EF53牽引の夜行列車が入線する。

一旦、ホームに停車させると、対向列車として、EF15の牽引する荷物列車を発車させる。


EF15の後ろにスニ30 が1両と車掌車のヨ3500の編成。

発車させると、続いて扇形庫からEF58を出して、ホームに停車中の夜行列車のEF53と交換する。


扇形庫の中から、EF30やEF60、EF70、EF80等の電気機関車が、出庫するEF58を見送り、逆に扇形庫に入るEF53を出迎える。


直流電気機関車に混じって交直両用電気機関車のEF30やEF80が居るのは分かるが、交流電気機関車のEF70が何故かいたり、三電源式交直両用電気機関車のEF81が居なかったり、いろいろあるのだが、こうして、自分で作ったジオラマの世界を見ていると、嫌な事も忘れてしまう。


皆から冷かさられる日々を過ごして、最近は何をしても楽しく無い。


ただ一つ、鉄道模型をいじる時を除いて。

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