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第2話 学校


「私達の住む太陽系の外側。海王星より更に外側に存在する、天体。これを太陽系外縁天体と呼びます。太陽系外縁天体の内、海王星軌道付近の、いわゆるエッジワース・カイパーベルトにはかつて、惑星に含まれていたものがあります。これはなんと呼ばれていたでしょう?」


天文学の授業。

先生は太陽系の外側に存在する、太陽系外縁天体についての問題を出す。

真っ先に、自分が手を挙げる。

次いで、何人かが手を挙げる。


「ではー」


と、一番早く手を挙げた自分が指され、「冥王星」と答える。


「ふん。あの程度で。」


と、誰かがボソッと言ったのを、先生は聞き逃さなかった。


「なら君、「冥王星」を訪れた、世界初の探査機は?」


当てられた同級生は「ボイジャー」と答えたが、ボイジャーではない。ボイジャーは1号、2号とも冥王星には行かず、現在は星間ミッションとして太陽圏からの離脱に向けて航行中。


1号は2012年8月25日にヘリオポーズに到達。現在へびつかい座の方向へ飛行を続けており、約4万年後にはグリーゼ445から約1.7光年の距離まで接近し、約5万6000年後にはオールトの雲を脱出すると言われている。


2号も、2018年11月5日にヘリオポーズに到達し太陽圏を離脱。約6万1000年後にオールトの雲を通過し、約29万8000年後におおいぬ座のシリウスに約4光年まで接近すると言われている。


どうするか迷うが、迷う間に身体が動いて、すっと手を挙げた。


「君はもう分かっているでしょう。気持ちは分かりますが抑えて、他の人にチャンスを与えてください。」


先生に言われ、自分は一旦引っ込む。

しかしながら、誰一人としてそれに答えられる人は居なかった。

「正解はニュー・ホライズンズ」と先生が言うけど、自分はもう分かっていた。


それに付帯するように、太陽系を離れる宇宙探査機の内、スペースシャトルで出発したものはあるかと言う話題になるが、黙り込む。パイオニア、ボイジャー、ニュー・ホライズンズ共に、スペースシャトルでは無く、アトラスやタイタンと言ったロケットで打ち上げられたので、スペースシャトルで出発したものは無い。惑星探査機の内、金星探査機マゼランと木星探査機ガリレオは、スペースシャトル「アトランティス」で出発したが、マゼランは金星大気に突入、ガリレオも木星に突入したため、太陽系から遠ざかる軌道には乗らなかった。


分かっている事。だけど、言ったらまた怒られるだろうから、言えなかった。


今日最後の授業も終わり、清掃。その後のホールルームまでの短い時間、自分は本を読む。


宮沢賢治の代表作である、「銀河鉄道の夜」。小さい頃からずっと好きな作品。

だからなのか、自分は小さな頃から鉄道と天文学が好きだ。家の自分の部屋には、Nゲージの鉄道模型のジオラマがあるのだが、そのジオラマもまた、現実世界が4分の1で後は、銀河鉄道の夜の世界観。

そんな夢物語ばかりだからか、学校では周りと話が合わない事も多く苦労もしたが、一応、友達と呼べる人も居たので孤独感に襲われる事もなかった。しかし、進級した春頃から様子が変になり、誰かに声をかけてもまるで反応せず、総スカンを受けているかのようになった。


春休みの間、自分はバイトに明け暮れつつ、時折、銀河鉄道の夜の世界観を見ようと、列車に乗りに出かけた。中でも、秩父鉄道のSLが車両基地内で脱線事故を起こして、当分の間、電気機関車で運転すると知った際には鉄砲玉のような勢いで、秩父鉄道に行き、電気機関車の引っ張る客車列車に乗ったのだが、春休みが開けて早々に職員室に呼び出されて事情聴取され、秩父鉄道に行ったその日、自分が秩父鉄道から遠く離れた山口県のSLやまぐち号の車内で、他の旅客に対して迷惑行為をしたと言う根も葉もない噂話が出回っていると知ったのだ。


迷惑行為と言ってもいろいろある。なので自分がSLやまぐち号の車内で具体的に何をしたのかを尋ねてみたが、「迷惑行為は迷惑行為」と言う回答。そして、秩父鉄道の電気機関車の引っ張る客車列車は埼玉県だけを走っていて、SLやまぐち号が走る山口県までは行かないし、そもそも秩父鉄道では山口県まで行けない。

また、SLやまぐち号はJR西日本の観光列車の一つで、何かあれば、たちまち話題になるのだが、SLやまぐち号を運行するJR西日本に確認したところ、その日にSLやまぐち号で何かトラブルがあったと言う情報は無かった。


そうした裏付けをした上で、自分は噂話が流れた翌日、秩父鉄道の電気機関車の引っ張る客車列車に乗った際の切符と日付入りの乗車証明書、写真を持って学校に行き、先生たちに見せて無関与だと言ったのだが、「銀河鉄道の夜が好きならSL(蒸気機関車)に乗っているはずだ。嘘をついて、否定するのは良くないぞ。」と、結局は分かって貰えず、「銀河鉄道の夜が好きなら、SLに乗るはずだ」と、訳の分からない言い掛かりも手伝って、ずっと冷たい目線が飛んでくるのだ。


「銀河鉄道の夜が好きなら、SLに乗る」となぜ決めつけるのだろうか。


スペースシャトル「アトランティス」

  ↓

NASAがかつて運用していたスペースシャトルの4番船。

作中で言及されるミッションの他、ロシア宇宙ステーション ミールとシャトルとの初ドッキング、ハッブル宇宙望遠鏡の最後のサービスミッション、そして2011年のスペースシャトル計画における最終飛行等のシャトル時代の要所要所で活躍した。尚、日本人宇宙飛行士が搭乗することは無かった。


ニュー・ホライズンズ

  ↓

NASAが2006年に打ち上げた冥王星を含む太陽系外縁天体の探査を行うための無人探査機。


ボイジャー

  ↓

1977年に打ち上げられた、NASAの無人宇宙探査機。

惑星配置の関係により、木星・土星・天王星・海王星を連続的に探査することが可能であった機会を利用して打ち上げられ、1号・2号とも外惑星の鮮明な映像撮影に成功し、新衛星など多数の発見に貢献。

現在も現役である。また、地球外知的生命体や未来の人類が見つけて解読することを期待し、「地球の音」というタイトルの銅板製レコードを搭載している。

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