最終話 終着駅
疎な影法師の姿の旅客の中に、給仕役の彼女は昨夜の人の姿の旅客を探す。もうまもなく、食堂車の朝の営業が終わる頃。
(夜が明けて、あの旅客は影法師になってしまったのかな?影法師になる、人の姿のまま消えてしまったなら、それは黄泉の国へ行けた事。でももし消えなければ?)
給仕役の彼女が思った時、
「おはよう御座います。」
彼女の背後。A寝台個室の方から、震える声で挨拶される。昨夜の旅客だった。
「おはよう。」
と、給仕役の彼女は微笑んだ。
ーーーーーー
真っ青な顔をしていたが、それでも給仕役の彼女を見て、自分は微笑んだ。
もう、影法師の姿の旅客は居ない。
居るのは自分だけ。
影法師の姿の給仕長が、物も言わず、顔にも出さず、ただ、給仕役の彼女にティーポットとティーカップを2つ、そして、2人分のパンケーキとチョコレートソースとバターを渡した。
「改めておはよう。朝食は食べられる?」
給仕役の彼女が言うのに、自分は頷いた。そして、自分は口を開いた。
「物騒な話しになりますがー」
悪夢を見たと誤魔化そうとしたけれども、給仕役の彼女は、
「貴方は死んでいる。私は、昨日の夜から分かっていた。でも言わなかった。」
と言った。
やはり、あれは夢だけど、夢では無く現実だったのだ。
「この列車は何なのか、夢で見ました。夢で、一度、元の世界を見たのです。でも、そこには、死んだって言う両親が帰って来ていて、両親は、「死んだと言うのは単なる誤認で、確かに列車の事故に遭ったが、予定より遅い便に乗っていて、その列車で一晩明かしたのだ。」と。この時点で変だと思いました。だって、両親は「サンライズ出雲」に乗っていて、「サンライズ出雲」の後発の列車は無いはずでした。深夜バスもありません。それから、どうした事か、学校に行くときも、街はゴーストタウンにー」
震えながら、自分は夢で見た現実を話す。
「列車の窓に、ニュースが流れて、自分の家が放火され、自分は死に、ジオラマで自ら死後の世界を作り出し、そこに転移したと知りました。」
「そう。この世界は、貴方が作ったジオラマの世界。だから、時は進まない。ずっと同じ。」
「ー。」
自分は震える。
「私も死んだ。車に撥ねられ、身体が吹き飛ばされ、気が付いたらここにいた。ああ、私は死んだのだって実感した。私は、あなたが食堂車に乗せた、食堂車の給仕役の人形になり、あなたはその旅客となり、その後、他の人も載せようとした最中、あなたは死んだ。だから、他の人は皆、影法師。曖昧な存在。」
彼女は自身の正体を話す。
「どうして、両親は居ないのでしょう?」
自分は言う。
両親も死んだのならば、この列車に乗っているはずだ。
「南十字線に乗った。鷲の停車場から。」
彼女は言う。
「私とあなたは、あなたがジオラマの列車に乗せた人となって、この世界に転移した。でも、あなたは両親達を乗せる前に死んでしまった。だから、両親はこの列車には乗れず、南十字線で、天上へ行く列車に乗った。」
「自分はこの後、どうなるのでしょう。」
「私のように、列車でずっと旅をすることになるか、或いは、影法師になってしまうか。貴方が影法師になったなら、私も影法師になるでしょう。」
頷いて、自分は、パンケーキを食べようとした。
「あっ、待って。」
と、彼女は言うと、チョコレートソースで何か書き始めた。
書き終えると、自分に見せる。
「「禍福は糾える縄の如し」「私は、この世界でどうなるかわからない。貴方もどうなるか分からない。だけど、災禍と幸福とは糾った縄のように表裏一体であり、一時のそれに一喜一憂しても仕方がない。」
自分はパンケーキを口に運び、紅茶を飲む。
2人が食事を終えた頃、列車の外は町になったと思えば、駅に着く。
片田舎の町の駅。
待避線や留置線、貨物ホームに加えて小さな機関区がある。
あの駅だ。
DD51が汽笛を鳴らし、列車はホームに滑り込んで行く。
そして、列車は駅に停車した。
自分は、食堂車の隣のA寝台車のドアから、ホームに降りた。
給仕役の彼女もまた、ホームに降りて橋上駅舎への階段を登って行く。
それまで乗っていた列車は待避線に入って行き、入れ替わりでEF15に牽引される貨物列車が入線して来たと思うと、夕方の駅をまた、貨物列車は発車して行った。
夕方の駅は濃い霧に包まれ、世界は見えなくなっていた。そして、列車もまた、霧の中へと消えていくのだった。




