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第14話 A寝台車の夜

「ズドドドド」とジョイント音を奏でる貫通幌を通り抜け、食堂車からA寝台車に戻る。


「ピィーッ」と、汽笛が聴こえると、湖を渡る橋に差し掛かる。

横目でA寝台車の窓から湖を見ると、列車の汽笛に驚いて湖に飛び込んだ女神が、魚に姿を変えて泳いでいるのが見えた。


車端部まで行ってみると、そこには車掌の姿は無く、列車無線からは雑音や電子音は聴こえてこない。聴こえるのは、先頭のDD51が、風を切る音。


A寝台個室に入った時、短いトンネルを抜ける。

夜空の星には薄く、星座絵が描かれている。


DD51が汽笛を鳴らすと、野原から馬が駆け出し、背中から羽を出して夜空に描かれたペガススに向かって飛び立つのが見えた。


そして、A寝台個室のベッドに横になる。


オロネ25のA寝台個室は狭いの一言。


個室には座席兼寝台。だが、座席としては堅く、寝台にすると座席の背もたれが邪魔になる上、幅が狭くて平均的な体型の自分でさえ、床に落ちそうになる。

窓際には洗面台。だが小さくて使い難い。水がすぐ外に溢れる。蓋をするとテーブルになるが、足がつかえて使い難い。腰を下ろすと目の前は壁。おまけに鏡が貼り付けてあって自分の顔と睨めっこになる。


自分は、「あけぼの」のA寝台車に無理して乗った事があるけど、あちらはもう少し広くてベッドも大きかったが、これでは「あけぼの」のB寝台個室よりも酷いだろうし、快適性なら「北斗星」や「北陸」等のB寝台個室の方が上手だろう。最も、「あけぼの」のB寝台個室は個室の中で立つことさえままならない程、狭いものだったが、「あけぼの」の場合はA寝台とB寝台の差と思えば良かった。


だが、このA寝台個室と来たらそうはいかない。

何しろA寝台なのに「B寝台個室の方がまだいい」と思わせては、A寝台としての立場は無い。このA寝台個室と「北斗星」や「北陸」のB寝台個室の差は、個室の中に洗面台が有るか無いかだ。そして、A寝台個室に付いている洗面台の使い勝手の悪さを考えると、もはや無いも同じで結局はB寝台個室の勝ちだ。


このA寝台個室車両オロネ25(14系のオロネ15も含む)は「出雲」に限らず、「あさかぜ」や「富士」等の寝台特急の華型たる東海道・山陽本線の列車にも連結されていたが、全盛期にはブルートレイン街道といわれた東海道・山陽本線の寝台特急が一気に衰退したのは新幹線や飛行機等の高速交通の発達の他に、普通のB寝台よりA寝台個室は2倍近い料金だったり、B寝台でさえ料金は飛行機と大差無い物なのにも関わらず、その料金の割に合わないサービスにより、旅客が離れたと言う要因もあるだろう。


最も、高速交通の発達で寝台特急が衰退期に入り始めた頃、寝台特急を運転していた国鉄は慢性的な赤字に加え、ストライキばかりやっていたこともあり、寝台特急のサービス改善などする気も無かったのかもしれないが。

その後、国鉄末期からJRになった辺りの東海道・山陽本線の寝台特急にはB寝台個室が連結され、その際に「あさかぜ1号」 等の列車のA寝台個室にも体質改善が行われたのだが、300系や500系のデビューや「のぞみ」による新幹線のスピードアップに加え、空の便や安価な高速バスが発達し、寝台列車の体質改善は一部を除き、既に出遅れだった。


とにかく、自分はこの狭く、マッチ箱のようなA寝台個室の堅くて狭い寝台に身体を投げる。


(いろいろな意味で眠れるワケない!)


と思ったものの、すんなりと眠りについてしまった。

食堂車の給仕役用の寝台の彼女も深い眠りの中だろうか?


ただひたすらに、DD51のヘッドライトの灯りが前方を照らして、列車は走り続けてようやっと、夜空が白み始める。

「ピーッ」と、暗く寂し気な汽笛が夜明けの空の下に響くいた。

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