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第13話 お話しをさせる話し

(もう、そんな冷たい視線は飛んで来ないよ。この世界に、そんな冷たい視線を浴びせた人はいないから。そもそも、人の姿をしているのは、私だけのような物。私だって、周りから見れば影法師かも知れないし。)


給仕役の彼女は思う。


「先生から今日、こんな事を言われました。「分かっているからって一人でガンガン答えて、君の知識振りかざしても、誤解は解けないよ?」と。しかし、冥王星探査機についての問いを出したのは、自分にケチ付けた奴に対して「そんな事言うなら」って理由で、先生が出したのです。それを言いたかったのですがー。」


「言えなかった。」


彼女が言った。旅客は頷いた。

旅客は、僅かに涙を流していた。


「知識を持っても、その知識のために怒られるなら、何故人は勉強するのでしょう。生きるため?それならなぜ生きるのでしょう?学ぶため?言いたい事を言えない。言ったら、「言った時点でー」と一方的な話をされて終了です。」


「でも、私に言えた。わけも分からず、気が付いたらこの世界にいて、この列車に乗っていて、そして、食堂車で会ったばかりの見ず知らずの私に。」


違う。


彼女は、自分の正体を知っていて、このように言う。そして、旅客はスラスラと話しをするが、実際には彼女の方から話しをさせ、彼女は受け止めているだけだ。


夜空に、DD51のガラスで出来た笛の音のように、透き通った汽笛の音色が寂しく響き、その音色を聴いた鶴や鷺が、野原から夜空の星へ向かって舞い上がると、水がめを持つ少年が、水瓶の水を魚に与えている様子が、列車の車内からも見えた。


「この世界は綺麗です。自分が作っている鉄道模型のジオラマは、銀河鉄道の夜の世界を創ろうとしてますが、この世界はまるでそれが現実になったようです。」


旅客はそれを見て言う。

そして、パンの耳の揚げパンを一つ、口に運び、紅茶を飲む。


(夜が明けたら、この旅客は影法師になってしまうのかな?人の姿のまま消えてしまうのかな?影法師になる、人の姿のまま消えてしまったなら、それは黄泉の国へ行けた事。でももし消えなければ?)


給仕役の彼女は紅茶を口に運びながら、この列車の夜が明けた後の事を思う。


小さな駅を通過する。

ネクタール駅。

不死の酒ネクタールをここまで運ぶ貨物列車が時折やって来るが、駅としては無人駅。公衆電話とホームの小さな灯りがあっという間に後ろへ向かって行ってしまった。


ーーーーーー


DD51の吐息のように、小さく短い汽笛が響き、第4種踏切を通過。


「列車に乗る直前、テレビのニュース速報で、両親が乗っている寝台特急「サンライズ瀬戸」が瀬戸大橋の上で、脱線した対向列車と衝突し、一部車両が海に落ちている映像が流れ、両親が死んだと知り、途方に暮れてました。そうしていたら、突如、一気に頭痛が襲って来て、更に吐き気、めまい、視力の障害、痙攣などが現れ、ジオラマのテーブルに倒れ掛かり、気が付いたらこの列車のA寝台個室に乗ってました。」


自分はここまで話すことが出来た。

不思議なことに、それを聞いても、給仕役の彼女は微笑みを絶やさなかった。


「私も、気が付いたらこの世界に居た。」


と、給仕役の彼女は言う。


「この進まない世界にね。その話は、また明日の朝するわ。」


彼女は小さく言った。


「自分だけ話してしまいました。」


自分は詫びる。


「誰かの話を聞くのも、ほとんど初めて。気が付いたら、と言うより記憶がある時からずっと、この世界で同じように列車に乗っている。食堂車で。」


彼女は言う。


「それは、どう言う?この世界って、この列車って一体なんなのですか?」


自分はまた、疑問を投げかけるが、微笑みが返って来るだけだった。


「大丈夫。明日の朝、分かるから。」


と、給仕役の彼女は微笑み、自分は残りの紅茶を飲み干す。


「さぁ、そろそろ寝なさい。今夜はゆっくりお休み。」


とにかく、自分は不安に思いながらも、A寝台個室へと向かった。

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