第10話 ブルートレインの食堂車
やはり食堂車を突破して、B寝台車の様子を見に行く事はできず、食堂車で食事をしてしてみる事にした。
しかし、そうと決めたはいいものの、どこに座ろうかとウロウロしてしまうので、給仕役の女性には(なんだこの客)と思われただろう。最も、ただウロウロしていた訳ではない。ウロウロしながら、内装を見てこの列車は何かと言う情報を得る。
ウロウロして、B寝台車側のラウンジの方に座った。
「この内装、オシ24の700番台だな。やっぱり「出雲」か「あさかぜ」かな?機関車がDD51であるから「出雲」か?編成は違うけど。」
と、つぶやく。
「オシ24の700番台は、1987年、「あさかぜ1・4号」のグレードアップ改造により登場した食堂車だが、「出雲」にも使用されていた。ならば、「出雲」か「あさかぜ」か、DD51が牽引しているところからみると、「出雲」って考えられる。ただ、編成は見たところ、オハネフ、オハネが2両、食堂車、A寝台車、電源車。まるで鉄道模型の基本セットの内容だ。」
などと、ブツクサ言っていたら、
「メニューです。」
と、給仕役の彼女が食堂車のメニューを自分の座った卓に置く。
「あっ」と、自分は初めて彼女に気付いた。
給仕役の彼女だけは、人の姿をしている。だけど、他の調理師やクルーは皆、影法師の姿をしている。
「どうもー。えっとー」
どこかぎこちない返事をした自分。
影法師の姿の者ばかりの列車内で、初めて他人と言える存在の彼女に安心したのだが、彼女の他に人の姿をしている者は無く、それがかえって不気味だからだ。なので、メニューに目を落としつつも、彼女にも視線を飛ばす。他に誰も居ない食堂車。居るのは給仕役の彼女と、自分だけ。
コップに水を注ぎながら、彼女は「お決まりの頃、お伺いします。」と言う。
自分は少し慌てながらメニューに目を通し、「えっと、じゃ、ハンバーグセットで、パンで、飲み物は紅茶をー」と注文。
何故慌てたのか?彼女が消えると、何が起こるか分からず、怖かったからだ。
「はい。ハンバーグセットですね。紅茶は、いつ頃お持ちしましょうか?」
「食後にー」
「かしこまりました。」
かなりアワアワしながらも注文してしまった。当たり前の話しだが、注文を取ると給仕役は厨房に向かう。1人になる。列車の外を見る。列車の外を、自ら光を放つ水面を持つ川が流れている。夜空は宝石箱をひっくり返したような星が輝いていた。
星々の光で出来た空間を、DD51が牽引するブルートレインはそれなりのスピードで進む。
(この列車、なんなんだろう?)
と、思いを巡らせる。
分かったことは、食堂車の内装とDD51ディーゼル機関車が牽引している等の列車の編成。たったこれだけの情報だが、一番近い列車はやはり、寝台特急「出雲」だ。
だが、ブルートレインの寝台特急「出雲」はとうの昔に廃止され、285系寝台電車を使用した「サンライズ出雲」だけが残っている。確かに、尾久車両センターには「出雲」の廃止後も、そしてブルートレイン全廃となった今も、「出雲」で使用されていた食堂車オシ24だけが何故か残っているが、問題はなぜ、とうの昔に廃止されたブルートレインにいきなり乗っているのか?
そして、これが一番重要な問題。「出雲」が走っているのはいいとして、走っている場所だ。
「出雲」は東京ー出雲市(浜田・米子行きもあった)間を走っていた。
途中、山陰本線の区間では、保津峡や餘部鉄橋を通過し、大山の麓を走っていたのだが、山陰本線に乗った事は無くとも、列車の外の自ら光を放つ水面を持つ川が流れていたり、その中洲に青白く後光が射す白い十字架が立っていたり、そして、夜空には白く透き通る光を放ちながら、白鳥の群が飛び交っている等のどこかも分からぬほどに綺麗で美しい世界を見れば、ここが山陰本線でない事は分かる。
(まさか、この列車はあのジオラマの世界を走っているのだろうか?なら、自分はジオラマの世界に入り込んで来たのか?とても信じられないよ。)
いや、その可能性については、既に感じていたのだが、認める事が出来ない。
そうなると、今度は転移転生や次元跳躍等、現代科学では説明が付かない難しい話になってくる。
おかげで軽度の頭痛までしてきた。
厨房から、ハンバーグセットのリヨン風サラダをトレーに乗せて、給仕役の彼女がやって来るのに気付いた。
「セットのリヨン風サラダでございます。」
「ありがとうございます。」
と、短い会話。
改めて、セット内容を思い返すと、
「メニューは「北斗星」の?何なんだろうこの列車。」
と、またわけの分からない事が起きた。
少なくとも「出雲」なら、メニューの中に「出雲」のオリジナルメニューがあるだろうが、その確認を怠ってしまった。
一番手っ取り早いのは、列車のヘッドマークやテールマークを見る事だが、編成中間に緩急車が無いので難しい。駅に停まった時に見られる可能性はあるが、そもそも、いつ駅に停まるか分からない。
「どうしたものか」と首を傾げながら、サラダを口に運んでいるのを横目に、給仕役の彼女は厨房から、ハンバーグセットのパンとハンバーグをトレーに載せて、自分のところへやって来る。
「カンカンカン」と、踏切の音があっという間に通過して行く。窓の外には、光を照らして丹頂鶴が舞っていた。




