第三話 カラーレンジャー 前編 4.動き(13)
「泰人!」
青山は土手を駆け上がって行く緑川を見送る。彼女が男子の事を下の名前で呼ぶ所なんて初めて見たので驚いた。
土手の上には自転車に乗って学ランを来た2人の男子生徒がいて、どちらも自分達より少し若い気がする。
桃井が彼らの制服を見て呟いた。
「あれ、慶中の制服だな。」
慶中とは慶徳大学という学校の付属の中学で、この川沿いにある男子校だ。
けど、確か・・
「慶中って、結構荒れた中学じゃなかったっけ?」
不良が多い事で有名な中学だった筈だ。そんな生徒と緑川は何故知り合いなんだろう。
すると白田が俺の方を見た。
「今は昔程じゃないらしいよ。それでも番長みたいな存在はいるらしいけど。」
「すげー!番長!!見てみたいな。」
赤木が何故か嬉しそうに声を上げる。
桃井はそれよりも気になる事があるようで、白田に怪訝そうな目を向けた。
「白田、そんな事よく知ってんな・・。」
「慶中の三年生に知り合いがいるんだよ。チャットでそんな話聴いた事がある。」
「・・へぇ。」
白田の情報源の一端を垣間見た気がした。
そんな事を話していたら、緑川が戻って来た。ベンチに置いてあった自分のバッグを肩にかけると再び土手を上がる。
「先帰るね。じゃね~。」
それだけ言うと、すぐに彼の所へ戻ってしまった。
結局、
「誰なんだ、アレ。」
俺の心の声が聞こえたわけないだろうが、桃井は俺が思ったのと同じ事を呟いた。誰も答えなど分からないと思ったら、白田があっさりとそれを口にする。
「緑川の弟。」
「・・え?弟?あの、五人兄弟の?」
「そう。青山なんだと思ったの?」
「いや、なんだろうなぁ、と・・。会った事あるのか?」
「見たのは初めて。ただ泰人って名前の弟がいることは知ってたよ。確か今中学二年のはずだけど。彼が一番兄弟の中で年が近いらしくって、時々緑川と話すと話題に出るんだ。」
「あぁ。成る程・・・・。」
黒沢も知っていただろうか。
そう思って彼の方を見ると目があった。俺は肩をすくめて彼を見返す。すると小さく黒沢が笑った。黒沢も俺と同様弟の事は知らなかったようだ。
「俺達も帰ろうぜ~。腹減ったぁ。」
赤木のその一言で、俺達も河原を後にした。