第三話 カラーレンジャー 前編 4.動き(12)
一通り文化祭での打ち合わせを終えると、皆そろそろ帰ろうかとベンチから立ち上がる。すると土手の上から声がした。
「栞!!」
名前を呼ばれたが、ここでは私の事を栞と呼ぶ人が居ないので、てっきり詩織の事かと思ってしまった。けどここに詩織はいない。呼ばれた2度目にやっと聞き覚えのある声であることに気付いて、私は声の主を見上げた。
「泰人!」
見慣れた顔がそこにいて驚き、私は土手を駆け上がった。泰人は学校からの帰りのようで、制服姿で自転車に乗っている。隣にも自転車に乗った男子生徒が居た。泰人が私の顔を見た後に、ちらりと土手の下を見る。
「こんなトコで何やってんの?」
「ちょっと遊んでた。」
私が隣の子を見ると、泰人が紹介してくれた。
「あ、これ、ダチの春。」
「あぁ。慶中の。こんにちは。」
「あ、ども。」
少し長めの黒髪をした春、という泰人の友達が私に会釈してくれた。泰人の中学の友達に会うのは初めてだ。
「チャリ乗ってく?」
「やった!ラッキー。今日荷物多いんだよね。ちょっと待ってて。」
私は荷物を取りに慌てて土手を降りる。泰人の中学はこの川沿いにあるので、丁度彼の下校時に会えたのは幸運だった。
「泰人って姉ちゃんと仲良いよな。」
「そうか?春ん所の方がいいだろ。」
「そんなことねぇよ。」
「春んちのねぇちゃん美人だよな。今度家行ってもいいか?」
「嫌だ。」
「シスコン。」
「うるせぇ。」
荷物を持って2人の下へ戻ると、何やら言い争っている。私は首を傾げて2人を見た。
「何喧嘩してんの?」
「してねぇし。」
「これ籠に乗る?」
「何これ?重っ」
「学祭で使うの。」
泰人は文句を言いながらも、籠に荷物を積んでくれた。
「早く乗れよ。支えてんの疲れる。」
「ハイハイ。」
私は泰人の後ろに乗ると、下に居た皆に手を振って別れた。
自転車に乗りながら受ける風が気持ちいい。人にこいで貰っているなら尚更だ。
しばらく川沿いを走っていると泰人が前を向いたまま話しかけてきた。
「あの中のどれか彼氏?」
「皆友達だよ。」
「あっそ。」
今までこんな話したことないのに珍しいな。
そう思っているとその話題はもういい様で、その後は春くんも交えて他愛のない話をしながら家に向かった。