第三話 カラーレンジャー 前編 3.嫉妬(5)
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図書室の閉館時間10分前。今日が返却期限の本を持って廊下を走った。曲がった廊下の先。中の電気がまだついているのを見ると、ほっとして足を緩める。
図書室に入ると残っている生徒はほとんどいない。私はすぐにカウンターに行き、本を返却した。
すると図書委員の女生徒達が何やら困った様子で窓側を見ている。つられてそちらを見ると、一人の男子が席ですっかり寝入ってしまっていた。組まれた足の上には開かれたままの本。かけられた眼鏡がずれて落ちそうになっている。180センチを越える身長のその男子生徒を起こす勇気がないようで、困り果てた一年生の女子達は先生を呼ぼうかと相談していた。
確かに、知らない人から見れば声をかけにくい人物かもしれないけど。とても同じ一年には見えないし。
私は居眠りしている男子に近づくと、彼の大きな肩を叩いた。
「黒沢。もう閉館の時間だよ。」
酔っぱらいを起こす駅員さんみたいで、自分で言ってて可笑しくなる。私の声に反応して、最初に動いたのは黒沢の手だった。それがぴくっと動くと、次に目がゆっくり開く。焦点の合っていない目が私を見た。いつもと違ってその仕草は幼く見える。
「・・緑川・・」
「起きた?」
「・・・・お前、そ」
「ん?」
「・・・・。」
黒沢は動きが止まったかと思うと、しばらくしてずれた眼鏡を戻し改めて私を見た。
「大丈夫?」
「あ、・・・あぁ。悪い。」
黒沢はいつもの様子に戻ると、本を閉じて席を立つ。彼が言いかけた言葉は分からないままだ。図書委員の生徒達のほっとしている顔が見えた。
その後私達は一緒に図書室を出た。当然のように一緒に下校する。それがお互いに当たり前になっていることがなんだか嬉しい。
「そういえば、さっきなんか言いかけなかった?」
「・・さっきって?」
「私が起こした時。お前って。」
「・・・・。覚えてない。」
「寝ぼけてた?」
「そうかもな。」
寝ぼける黒沢なんてレアなものを見た。そう言ったら黒沢は何とも言えない顔をした。
それすら嬉しくなって、私は黒沢の横で笑った。