第三話 カラーレンジャー 前編 3.嫉妬(2)
* * *
「お、緑川じゃん。」
「相馬君。今日部活は?」
「木曜は休み。」
「そうなんだ。」
「駅の裏にジェラートの店ができたの知っている?」
「え?本当?知らなーい。」
「今日暑いし、食べに行こうよ。」
「あ、うん。いいよ。」
最近急に相馬君に話しかけられる機会が増えた気がする。まぁ、きっかけは水橋くんの事を聞くために私が話しかけたことなんだけど。
その日、下駄箱の所で相馬くんに会った私は、彼の案内で新しくできたジェラート専門店へ行った。お店は学生や主婦の人で賑わっている。私はオレンジ、相馬くんはメロンのジェラートを頼んだ。比較的狭い店内は席が空いてなかったので、表にあるベンチに座って食べることにした。
「甘いもの好きなんだ?」
隣に座る相馬くんに話しかける。彼は嬉しそうにジェラートのスプーンを舐めた。
「あぁ。ケーキとかはあんまり食べないけど、アイスは食べるぜ。」
「暑い日はアイス食べないとね~。」
「そんな事言ったって、女子って冬でもアイス食べてるじゃん。」
「あはははっ。食べるよ~。コタツに入りながらとかね。」
「緑川。」
「ん?」
「付いてる。」
そう言って、相馬君が私の唇の横に触れた。アイスが付いていたようで、拭った指を紙ナフキンで拭いている。
「あ、ごめん!」
「いや、いいって。」
やけに触れられた感触が頬に残る。相馬くんは笑ってまたメロンのジェラートに取り掛かる。
「緑川さぁ。」
「ん?」
「あの中の誰かと付き合ってんの?」
「あの中?」
「ホラ、緑川のクラスの皆が言ってんじゃん。カラーレンジャーって。」
「あぁ。付き合ってないよ。」
「ふーん。そうなんだ。仲良いよな。」
「あ、うん。」
そこからは何故か沈黙か続いてしまった。なんとなく気まずい思いをしながらジェラートを食べ終える。
「食べた?」
「うん。美味しかった。ありがとう。」
「いや。また来ようぜ。」
「あ、うん。」
駅に向かって二人で歩く。路地裏を抜ける所で「あっ!」と相馬くんが声を上げた。
「何?」
「手かして。」
「手?」
「握手。」
「??」
言われた通り手を出す。相馬くんも手を出して、握手をしたと思ったら、突然そのまま腕を引っ張られた。
「えっ。」
気付くと私は相馬くんの腕の中にいた。一瞬だけだけど、ぎゅっと力が込められる。けれどすぐにその腕は離れた。
「ごめん。」
相馬くんは少し顔を赤くしながら笑う。
「え、あ・・。」
「帰ろ。」
「・・・うん。」
なんて言葉を口にすればいいのか分からずに、私はそのまま家に帰った。なんとなく罪悪感のようなものが胸の底に残っていた。