第三話 カラーレンジャー 前編 2.結成
自宅につくと今日の出来事を頭の中で整理する。
僕と西ノ宮さんに届いた脅迫状。それが僕の元へきたタイミング。生徒会立候補者のメンバー。
候補者はそれほど多いわけじゃないし、生徒会立候補者全員に話を聞いてみようか?でもなぁ、それでこちらが怪しまれる可能性もある。もし、犯人の目的が僕と西ノ宮さんだけを選挙から下ろす事なら、今回の候補者の中に犯人がいる可能性が最も高い。話を聞くにしても僕がそんな事を聞いて回れば、犯人じゃなくても何事かと疑うだろう。
「・・・・・。」
僕自身が動けない以上、協力を仰ぐしかないか。
僕は携帯を取り出して、メールを打つと一斉送信した。
いつものファミレス。翌日の放課後皆が集まってくれた。
僕と西ノ宮さんに嫌がらせのメモを渡している人間が居ることを簡単に話すと、緑川が飲んでいたアイスティーのストローをクルクル回しながら難しい顔をする。
「何でそんな事するんだろ・・。」
赤木がテーブルに片肘つきながら答えた。
「そりゃあ、候補者が少ない方が当選し易いからじゃねぇの?」
「そんなに生徒会ってやりたいものかなぁ?」
青山は腕を組みながら緑川を見た。
「生徒会役員を務めれば、内申が良くなるからじゃないの?純粋に生徒会がやりたいだけなら、こんな事はしないだろうしなぁ。」
その横で桃井は喋りながらポテトをつまむ。
「受験に有利だからか。十分な動機だな。生徒会は会長、副会長、会計、書記が二人。候補者は六人だからこのままだと一人落ちるわけだ。」
赤木は飲んでいたコーラのストローから口を離して僕を見た。
「それで?どうやって犯人見つけんの?」
「他にも同じ嫌がらせを受けてる人がいるかどうか調べればいいんじゃない?」
緑川が赤木の問いに答える。だが、僕はその言葉を否定した。
「いや、それは多分意味が無い。」
「何で?」
「もし候補者の中に犯人がいるんだったら、犯人も被害者のフリをすればいい。被害者がどんな嫌がらせを受けているか分かっているから装うのは簡単だからね。」
「あ、そっか。」
僕は改めて同じテーブルを囲む5人を見渡した。
「所で、ここまで話を聞いたんだから、皆当然協力してくれるんだよね?」
笑顔で言った僕の言葉に一瞬皆黙り込む。だが、赤木だけが張り切って手を挙げた。
「もち!何すりゃいいの?」
「現在の候補者が本当に生徒会に立候補する意思があるのかどうか。それと、昨日の昼休み何処にいたのか。」
「それだけ?」
「それだけ。」
皆あまりすっきりしない顔をする。勿論分かったとしても、それだけの情報で犯人が突き止められる訳じゃない。
「菅、水橋、三波、金井。この中で知り合いいない?それぞれの友達と知り合いでもいいんだけど。」
すると青山が手を上げる
「俺、菅と三波だな。」
「俺も三波知ってる!ちょー面白れぇんだよ、こいつ。」
赤木も三波の名を出した。僕は三波という生徒の記憶を引っ張り出す。
「確か、一学期の終わりに転校してきたんだよね?」
「そうそう。マジメな奴って訳じゃねぇんだけど、多分まだ部活入ってないから先生に声かけられたんだと思うぜ。三波が会長になったらちょーウケる。」
「生徒会なんてガラじゃないよな。」
赤木と青山の言う三波という人物像を聞くと、嫌がらせをしそうには思えない。だが、桃井が異議を唱えた。
「けど、もし生徒会に入りたいと思ったら、一番不利なのはその三波って奴なんじゃねぇの?普通なら生徒会に入るような奴じゃねぇんだろ?転校してきたばっかなら知名度もないだろうしな。」
その言葉に赤木の顔から笑いが消える。
「まぁ、・・確かに。」
「青山。菅って奴は?どうなの?」
「うーん。真面目であんまり自分から話さないけど、確かすごい成績良かったんだよな。俺美化委員で一緒なんだよ。」
「水橋と金井は?知ってる人いない?」
僕は他の候補者達の話題にも触れる。すると桃井と緑川が順に声を上げた。
「金井なら花穂に聞けば?同じクラスだろ?」
「水橋君って相馬君と仲良い人だっけ?えーと、確か陸上部の。」
緑川に青山が同意する。
「あ、そうそう。二人でよく一緒にいるよな。」
「私相馬くんなら知ってるよ。聞いてみようか?」
正直助かる。僕は緑川に頷いて見せた。
「うん。頼むよ。でも事情は話さないようにね。」
「了解。」
話が一段落した所で、何故か赤木が目をキラキラさせている。
「なぁなぁ!やっぱさぁ、ここは出番じゃね?」
期待たっぷりの表情をする赤木に、嫌な予感がしながらも緑川が恐る恐る訊いてみる。
「・・どういう事?」
赤木は満面の笑顔を見せた。
「カラーレンジャー!」
赤木の野望はまだ消えていなかったらしい。正義の味方。カラーレンジャー。
僕達は顔を見合わせて、最後には笑った。
*三波君の転校前のお話が気になる方がいらっしゃいましたら、別小説『神様の失敗談 第一話』をご覧下さい。