第三話 カラーレンジャー 前編 1.脅迫(4)
* * *
「白田ー!」
HRが終わり、下校しようと廊下を歩いていると、やけに大きな声で僕の名前が呼ばれる。振り向かなくても声で誰か分かる。
「何?赤木。」
「あ、悪り!今帰るとこ?」
「うん。」
「今日暇ならちょっと時間くんない?」
「いいけど、赤木これから部活でしょ。」
「あぁ。用があんのは俺じゃなくてあっち。」
赤木の後から姿を現したのは僕も知っている顔だった。オシャレなブラウンのフレームの眼鏡に緩めのパーマの掛かった髪を二つ分けにしている。確か、西ノ宮さんだった筈だ。丁度今日花穂ちゃんとの話に出てきた人物でもある。タイムリーな彼女の登場に、僕は心の中だけで首をかしげた。
「・・こんにちは。」
彼女は神妙な面持ちで僕の顔を見た。
赤木は部活へ行ってしまったので、僕達は学校から出て駅近くのファーストフード店に入った。僕の推測が合っているなら、学校で話すのはあまり勧められなかったからだ。僕達は飲み物だけ注文すると、すぐに本題に入る。先に口を開いたのは西ノ宮さんだった。
「白田君、生徒会に立候補するの?」
やっぱり生徒会の事か。僕は慎重に言葉を選びながら話を続けた。
「・・さぁ。まだ決めてないけど。」
「あ、そうなんだ。」
「西ノ宮さんは?」
「・・・・・。」
「もしかして、選挙のことで何かあったの?」
「・・うん。ごめんね。白田君のこと疑ってるわけじゃないんだけど。」
「何があったの?」
彼女が自分の鞄に手を入れる。そこから取り出したのは三枚の小さな紙。どれもパソコンの字で同じ言葉が書いてあった。
“生徒会選挙を降りろ”
成る程ね。僕と同じような事があったって訳だ。しかも三枚。彼女の方が僕よりも早く嫌がらせを受けていたらしい。
「赤木君に相談したら、白田君なら絶対そんなことしないし、話しても大丈夫だからって。」
「そっか。」
そこから彼女に詳しい話を聞く。いつ、どこでこの紙を受け取ったのか。こんな事をする人間に心当たりがあるのか。
だが、やはり心当たりなどはないそうだ。僕だってないのだから。
個人ではなく複数の人間に嫌がらせをすると言う事は、単純に候補者全員に同じ事が起こっているのかもしれない。
「この紙預かってもいい?」
「うん。」
「後、また何かあったら赤木か僕に必ず言って。」
「うん。ありがとう。」
結局、彼女の話からは犯人の手がかりは見つからなかった。
僕も彼女を疑っているわけではないが、念の為僕も似たような紙を受け取った事は言わないでおいた。
(赤木には口止めした方がいいかもな。)
人から相談された事をぺらぺらと話すような奴じゃないことは分かっているけど、一応帰りにメールを打っておいた。