第二話 恋愛 7.夏の終わり(2)
* * *
皆と解散した後、俺は真っ直ぐに家へ向かった。いつもならこの方向への電車では緑川も途中まで一緒だが今日は居ない。
駅に着くと電車を降りて改札を出る。するとデニムのポケットに入れていた携帯が振動した。ディスプレイには桃井の名前が表示されている。通話ボタンを押して携帯を耳に当てるとすぐに桃井の声が聞こえてきた。
『あ、黒沢?』
桃井から電話なんて珍しい。
『今平気か?』
「あぁ、今改札から出たところだ。」
『ちょっと変な事訊くけどさ』
「あぁ。」
何だ?と思っていると確かに桃井はおかしな事を訊いてきた。
『黒沢って今付き合ってるやついたっけ?』
桃井は一体どういう意図で訊いているのだろう。分からないまま素直に答える。
「・・いや、いないけど。」
『ホントに?』
「あぁ。」
『それ証明できるか?』
証明とはどういう事だ?どうしてそんなもの証明する必要があるのか俺には分からない。
「・・・・。証明する必要があるのか?」
『ある。』
「何のために?」
『お前のために。』
「・・・・・。」
その時、今日桃井は緑川と二人で何処かに寄っていることを思い出した。桃井の意図がどうであれ、もし今桃井の近くに緑川が居るのだったら、確かにそれを証明する事は俺には必要だ。
「分かった。」
俺は考えを巡らせる。
「もし俺が嘘をついていたらバイト先のメニュー全部おごってやるよ。」
『分かった。サンキュー。』
そう言うと、桃井はすぐに電話を切ってしまった。
結局何だったのだろう。その答えは分からないままだった。