第一話 仲間 4.高校生(1)
体育後の更衣室。着替えながら交わされる会話は、大抵男子の前では話せない事が中心だ。
私も着替え終わってジャージを畳んでいたら、クラスの女子数人のグループに声をかけられた。「ちょっと、教えて欲しいんだけど。」という言葉から始まった会話は、いつの間にか更衣室内の女子全員が加わっていた。
「青山君って彼女居るの?」
「さぁ?」
「じゃあ赤木君と桃井君は?」
「聞いた事ないけど。」
「そういう話しないの?」
「うーん。した事ないねぇ。」
「えー!」
実際、最近クラスの女子からはこの手の質問が多い。
「ねぇ、緑川さんは?彼氏いないの?」
「いないけど。」
「じゃあ誰か狙ってる人は?」
「狙ってる!?考えた事無かったなぁ。」
「彼氏欲しくないの?」
「いたら良いとは思うけど、今は別に・・。」
すると何人か顔を見合わせながら、小さな声で囁きあっていた。
人前で言えない事なら、本人が居ない所で話せばいいのに。
「じゃあさ、あえて言うなら、誰が好み?」
敢えても何も・・。
要は私が青山達の事を好きじゃなければいいんでしょう?
「中学の時に好きだった人が、未だに好みかな。」
「へぇー!そうなんだ!」
彼女達の表情が急に嬉しそうなものに変わる。私に好きな人が居れば、目的の人に言い寄る事は無いだろうと、安心するんだろう。中学の時いいな、っと思った人が居た事は本当だし、私はその話を適当に言い繕って話をした。
恋愛に興味が無い訳じゃ無いけど、別にそれが一番じゃなくてもまだ良いと思う。それなのに好きな人が今居ないってだけで、まるで珍獣の様な扱いをされるのは心外だ。
恋愛感情を持っている事が高校生になる為の条件じゃ無いでしょう?
皆の色々なデオドラントスプレーの匂いが混じって、更衣室の中はなんだか息苦しい。
その内青山に彼女がいるのか訊いて欲しい、と言う子までいた。彼女になりたいなら、それ位自分で訊けばいいのに、と一瞬思ったけど、自分も恋したらこんな感じかもしれないと、私は彼女達に頷いて見せた。
「緑川。」
授業終わりの休憩時間中。名前を呼ばれて振り返ると、目の前に本が二冊差し出された。
目線を上げて本を持つ当人を見上げると、それは黒沢だった。一冊は私が昨日貸した小説。
「もう読んだの!?」
「読んだ。」
受け取ってもう一冊を見ると、私が貸した小説と同じ作者の本だった。
「これは?」
「読みたいって言ってただろ。」
「貸してくれるの?」
「あぁ。」
「本当に?ありがとう。」
本を渡すとさっさと黒沢は自分の席に戻ってしまった。相変わらず愛想はないが、受け取った本を見て思わず口が緩む。単純にただ嬉しかった。
本のタイトルを見て、パラパラと本をめくってみる。最後に裏表紙の本の説明を軽く読んで、それをバッグにしまった。
早速帰りの電車の中で読んでみよう。