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第二話 恋愛 5.キャンプ(7)

 

「緑ちゃん。」

「ん?」

「夏休み、青山君と会った?」

「え?」


 お風呂から帰ってきて、詩織と二人で他愛の無い話をしながら身支度していた時に突然彼女がそう言った。私の心臓の音が大きく鳴る。顔から熱が引き、手に汗が出るのを感じた。


「カレー作ってる時、青山君が緑ちゃんと買い物行ったって言ってたから。」

「あ、・・・・。」


 馬鹿だ私。言うなら、自分から言わなきゃならなかったのに。どうしよう。詩織の声が怒っているように聞こえる。


「ごめん。」

「謝るような事したの?」

「ごめ、・・・してない。でも、言ってなかったから・・。」


 詩織がイライラいているのが伝わってきた。

 どうしよう。何を言ったらいいのか分からなくなってくる。そんな時に青山に貰ったネックレスの事が頭をよぎった。

 言うべきだろうか。言えば詩織が良く思わないのは目に見えている。でも、言わずにその事が後で分かった時、もっと傷つける。恋愛ではなく友情が。青山がネックレスのことまで詩織に話すとは思えない。

 ぐちゃぐちゃと考えて言葉が何も出てこない。その内に、詩織は長い髪を掻き揚げて立ち上がった。


「男子のコテージに飲み物貰いに行って来る。」


 詩織は一人でコテージを出て行ってしまった。


 私、どうしたら良かったんだろう。

 青山と買い物に行ったのだって、前もって約束してたわけじゃない。青山が誘ってきたからで、あの状況じゃ断わる事だって難しかった。

 私の何が悪かったの?青山と遊んだ後、すぐに詩織に連絡すれば良かったの?だってそんなのおかしいじゃん。普通、友達が好きな人と遊びにいった事報告する?余計に怒らせるかもしれないのに。


「・・・・・。」


 結局、嫌われるかもしれない事ばっかり気にして、私何もしなかったな。詩織にも青山にも嫌われたくなくて、でもそれが結局上手く立ち回れなくてこういう結果になってしまった。

 楽しいはずのキャンプが、どうしてこうなっちゃうんだろう。


 10分経っても詩織は戻ってこなかった。もしかしたら男子のコテージで皆と喋ってるのかもしれない。私は詩織を怒らせてしまったのだ。呼びにきてくれたりはしないだろう。


(そういえば、早瀬さんも戻ってこないな・・。)


 近くの自販機にミネラルウォーターを買いに行ってもう30分近く経っている。何かあったのだろうか?心配になってポケットから携帯を取り出しメールしてみる。

 するとすぐに携帯の着メロがなった。






「あれ?赤木だけ?」


 男子のコテージのドアをノックして開けると、中に居たのは赤木一人だった。赤木はホテトチップスを食べながら音楽を聞いている。でもなんで一人なんだろう。少なくとも詩織が居ると思ったのに。


「皆は?」

「桃井と白田は風呂。黒沢と早瀬が川に行って、広樹と花田がそれを覗きに行った。」


 その言葉に入口で靴を脱ぎかけて止まってしまう。

 黒沢と早瀬さんが二人で・・・。

 そっか。だから中々早瀬さん帰って来ないんだ。そういえばメールの返信も無いままだ。それで詩織は・・ん?


「ねぇ。」

「何?早く入れば?」

「覗きって何?」

「だから黒沢達を覗き行ったんだって。」

「・・・・・・・何で?」

「面白そうだからじゃねぇ?俺らも行く?」

「えぇ!?止めときなよ。」


 だって黒沢と早瀬さんは二人で抜け出してデート中って事でしょ。そんなの覗きに行くなんて二人が気の毒だし、何より見たくない。

 すると背中越しにドアが開く音が聞こえた。


「うわっ、あっぶねぇ!」

「あ、ごめん!」


 帰ってきたのは桃井と白田だった。私がドアの前に立っていた為、危うくぶつかる所だったのだ。


「お前、狭いんだから早く入れよ。」

「ハイハイ。」


 桃井に急かされて慌てて靴を脱ぐ。


「あれ?まだ黒沢帰ってきてねぇの?」

「青山も居ないね。」


 中の様子に気づいた桃井と白田に、赤木がもう一度同じ説明をする。


「広樹は花田と黒沢達を覗きに行った。」

「はぁ?青山が?」

「花田さんが連れて行ったの?」

「そ。花田がすごい勢いで連れてった。」


 詩織・・・。実際その様子を見ていなくても想像がつく。


「あぁ、だから緑川一人になっちゃってこっちきたんだ?」

「赤木が呼んでくれたの。」

「花田に言われたんだよ。緑川が一人になるからって。」

「そうだったんだ・・。」


 詩織を怒らせてしまった後なのに、私の事を気遣ってくれた事に複雑な気分だった。後でちゃんとお礼を言わなきゃいけない。きっと詩織が欲しいのは謝罪の言葉じゃないはずだから。

 色々考えていたのが顔に出ていたのだろう。白田に指摘された。


「どうしたの?元気無いね?」

「えっ!そうかな?一日遊んで疲れたのかも。」


 相変わらずお菓子を片手に赤木が私を叱咤する。


「まだ早ぇよ。夜はこれからだぞ!」


 すると桃井が時計を見上げた。


「しかしあいつら遅ぇな。俺らが風呂行ったのと同時だったから、もう40分位経つんじゃね?」

「一時間過ぎたら僕達も行ってみる?」

「え!?行くって?」


 まさか白田も覗きに行くなんて言う気なんだろうか。


「友達が夜に落とし物探しに行って、一時間経っても帰って来なかったら、心配するのは『当たり前』でしょ?」


 なるほど。すると赤木が茶化す。


「さすが白田!口が上手い!」

「どうも。」


 あれ、ちょっと待って。

 白田の言葉に引っかかって私は疑問を口にする。


「落とし物って?」


 私の疑問に答えてくれたのは桃井だった。


「なんだ。聞いてなかったのか?早瀬がピアス落としたって言って、二人で探しに行ったんだぜ。」

「そうだっんだ・・・。」


 ほっと胸をなでおろす。デートじゃなかったんだ。しかし、すかさず白田が私の顔を見た。


「なんだと思ったの?」

「いや、別に。・・単に遊びに行ったのかと。」


 すると赤木が片手を挙げて楽しそうに言う。


「なぁなぁ、賭けねぇ?」

「え?」

「一時間で帰って来るかどうか。俺帰って来ない!」


 それに桃井も乗っかる。


「じゃ、オレは帰ってくる。」


 どうしよう。と思っている間に、白田が口を開きかける。


「じゃあ僕は・・」

「あっ!ちょっと待って!」

「何?」

「なんか白田が選んだ方が正解な気がするから先に言わせて。」

「えぇ、そんなことないでしょ。」

「あ、俺もそれなんか分かる。」


 白田は否定したが赤木が同意してくれた。その位白田の意見は私達にとって信頼の置けるものなのだ。


「じゃあ、緑川はどっち?」


 私は、


「・・帰って来ると思う。」

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