第二話 恋愛 5.キャンプ(5)
「んあー!牛乳飲みてー!!」
「翔・・。銭湯じゃないんだから。」
浴場を出るなり翔がでかい声で叫んだ。一日遊んでそれなりに疲れもあるが、翔には全くそれが無いようだ。
浴場は結構混雑していて、髪もちゃんと乾かさないまま面倒になって出てきてしまった。俺達はそれぞれに髪を拭きながらコテージまでの道を歩いた。
「やっぱ山の中は涼しいなー。」
風呂で温まった体に夏の夜風が心地いい。普段家では夏の夜は寝苦しいが、ここではそんな心配は要らなそうだ。濡れた髪が冷えて、それさえ気持ち良かった。
「家じゃあ、風呂上りにも熱くて汗かくもんなぁ。」
翔がタオルでパタパタと顔を仰ぎながら言った。
すると、聞き覚えのある声が聞こえくる。あ、と思って振り返ると、俺達の後ろを緑川達が歩いていた。向こうはまだこちらに気付いていないようだ。すると、すぐに花田さんが俺達を見つけて声を上げた。
「あ、青山君!」
「え、あぁ。ホントだ。」
「やば!!私スッピンなんだけど!」
「え、ちょっと、詩織!!」
「大丈夫だよ。花田さん元々綺麗だから。」
なんだか後の方でもめている。
「なんだ?」
「さぁ~?顔見られたくないんじゃね?行くか?」
横で翔と黒沢が先に行った方がいいのか迷っているようだった。
すると風に乗ってふわっとシトラスのような香りが俺達の所まで届いた。俺は慌てて顔を背けて前を向く。
「とりあえず、行こうか。」
そう言ってコテージに向かって歩き出した。せっかく会ったのにバラバラに帰るなんておかしい気がするけど、仕方ない。
今が夜で良かった。ここは街中と違って街灯も少ないから顔色なんて分からないだろう。
(中坊じゃあるまいし・・。)
女子の香りに顔を赤くするなんて情けない。
首にかけていたタオルを頭に被って、乾きかけた髪をしつこく拭きながら帰った。