第一話 仲間 3.お手伝い(3)
赤木と緑川に続いて教室を出ると、連れて行かれたのは数学の教材が置いてある小さな倉庫だった。
日が当たらないせいか中に入るとひんやりと空気が冷たく、少し埃っぽい。
「そこのボードと教本持ってくれ。あ、後プリントがあるから赤木は職員室までついて来い。」
「へーい。」
先生と翔は職員室へさっさと行ってしまった。
「じゃあ私これ持つよ。」
そう言って、緑川が手を伸ばしたのは見るからに重そうな教本の山だ。
「いや、それ重いだろ?」
「うーん、重そうだけど持てない事ないし、そっちの大きなボードは持てそうにないからさ。」
確かに、ボードは俺の胸ぐらい高さがあって緑川が持つには難しそうだ。
だけど、
「じゃあ半分にすれば?もう一回往復すればいいんだし。」
「面倒くさいし、持てるから大丈夫。あ、ドアは閉めてね。」
緑川は両手で重そうに教本の山を抱えた。ボードは大きいが重さはそれほど無い。それだけに彼女に重い物を持たせるのは申し訳なかった。
それが顔に出ていたんだろう。
「青山ってジェントルマンだね。もし途中で力尽きたら半分廊下にでも捨ててくよ。」
と茶化すように言って彼女は笑った。
「容赦無いな。」
「うん。無いよ。」
あまりにキッパリと言うから、なんだから俺も笑えてくる。
「緑川のそういうトコ良いよな。」
「ソレ褒めてる?」
「褒めてるよ。」
「褒められてる気がしないんだけど・・」
「そう?」
こうゆう時、緑川は他の女子とは何処か違うと思う。考え方とか人との接し方とか。
甘えたり媚びたりするような所が無くて、変に気を使わなくていい。一緒に居るのがとても楽だ。そして何より彼女との会話は楽しかった。
“ちょっといいな”が“一緒に居たい”に変わったのはいつからだったろう。
翔が気付くぐらいだから、他にも気付いてる奴は居るのかもしれない。
(そんなに態度に出てるかな・・・)
俺達の教室が近付く。翔が騒いでいる声が聞こえてきた。どうやら俺達よりも先に教室に着いてたようだ。
「赤木声大き過ぎ。」
俺の隣で、また緑川が笑った。