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第二話 恋愛 4.夏休み(5)

 

「あった。“RESTAURANT&BAR Estoy delicioso”。こんな所でバイトしてたんだな。」


 まるで古くからある現地のレストランのような外観の店のドアに白田は手をかける。

 木造のドアにはOPENの札がかかり、開けると少し薄暗い店内にオレンジ色のランプが付いていた。BARと看板に書いているだけあって、どちらかというとそちらがメインの店の造りだった。右手にはバーカウンター。数え切れないほどの酒瓶が並び、そのラベルは全て外国製の物だ。

 周りのお客も殆どが外国人。するとその中に場違いな女性が一人、4人かけのテーブルに座っていた。


「あれもしかして、早瀬さんじゃないの?」


 僕が言うと、後ろから店に入ってきた青山は驚いてそちらを見る。


「え?なんで?あ、黒沢。」


 直ぐに店の奥から黒沢が出てきた。「悪い」と言って、テーブルに一人で座っていた早瀬さんの元に案内される。

 彼女は僕達を見ると食事の手を止めて、嬉しそうに顔を上げた。


「あれ?青山君と白田君?どうしたの?」

「あ、あぁ。」


 青山が困った顔をしているので、僕は席に座りながらちらっと黒沢の顔を見て頷く。


「この後黒沢と約束してるんだ。ついでに来たことないからこの店に行ってみようって話になって。」

「あ、そうなんだ。」


 青山はとりあえず笑顔を作って席に着く。

 此処に来れたのが僕と青山で良かった。もし赤木だったら余計な事言いそうだし、桃井だったら事情は分かっていても嫌な顔を隠さないだろう。


「早瀬さんは何食べてるの?」

「ブリトー。鶏肉とチーズが入ってるやつ。ブリトーも色々種類があるみたい。」

「へぇ。そうなんだ。黒沢のオススメは?」

「・・定番はタコスとブリトー。辛いのは食べれるか?」

「僕は全然平気。」

「俺は、辛すぎなければ。」

「じゃ、サラダとタコス、後は、まぁ、適当に持ってくるよ。」

「うん。任せた。」

「ドリンクは?」

「僕ウーロン茶。」

「じゃあ、俺はジンジャエール。」

「分かった。」


 黒沢が奥に行ってしまうと早瀬さんはまた食事に戻る。俺達は顔を見合わせた。


「早瀬さん、今日はどうしたの?」

「・・あ、ここの前を通ったらね、たまたま黒沢君が居るのが見えたから、入っただけなんだけど。」

「へぇ。すごい偶然だねぇ。早瀬さんの家ってこの辺だったっけ?」

「ううん。東町だから逆方向なんだけど、今日はこっちに用があったの。」

「そうなんだ。あ、ありがと。」


 黒沢が飲み物を持ってきてくれた。早瀬さんは直ぐにまた顔を上げて黒沢に笑いかける。


「料理はもう少し待って。」

「うん。」


 黒沢はこっちを気にしながらまたキッチンへ行く。

 最初は彼女が店に押しかけて来たので、困って僕達を呼んだのかと思ったけど、よく考えれば黒沢はそんな事に他人を頼る性格じゃない。今日は一体どうしたんだろう。

 隣で青山が携帯を開く。どうやら赤木からメールがあったようだ。


「翔は今日部活だって。」

「桃井も来れないって連絡あったよ。」

「そっか。」


(多分緑川は呼んでないんだろうな。)


「二人はこの後どうするの?」


 食べ終えた早瀬さんがオレンジジュース片手に聞いてきた。この後の事など当然決めてはいないが、下手なこと言ってついて来られても困るので言い訳を考える。


「青山と黒沢は今日家に来る事になってるんだ。」

「白田君の家に?」

「そ。ゲームしにね。」

「へぇ。黒沢君もゲームとかするんだ。」

「早瀬さんは?」

「え?」

「この後どうするの?」

「あぁ。特に予定は無いから、・・家に帰るよ。」

「そう。そういえば、夏休みに入ってから緑川に会ったりしてるの?」

「え、ううん。」

「そっか。」


 やっぱりね。黒沢が一緒じゃなきゃ、緑川には会わないか。


 話していると黒沢は料理を運んできてくれた。料理はどれもおいしくて、メキシコ料理の中にはくせのある物もある筈だけど、黒沢は僕達の口に合う物を選んでくれたみたいだ。


 食べ終えると僕達は早瀬さんと一緒に店を出た。支払いはメールの通り早瀬さんの分も合わせて黒沢が奢ってくれた。

 店の前で少し待っていると黒沢が荷物を持って店から出てくる。エプロンを外して上半身のTシャツを着替えただけのようで、バイト中と格好は大して変わらない。


「黒沢君。ありがとうね。ごちそうさま。」

「僕らもね。ありがとう。」

「ご馳走様。」

「あぁ。いいよ。」


 黒沢は早瀬さんを見る。


「帰るんだろ?駅まで送ろうか?」

「あ、うん。ありがとう。」

「じゃ、皆で駅まで行こうか。」


 僕達は駅まで早瀬さんを送った後、黒沢が何も食べていないというので、駅近くのファミレスに入った。


「今日はどうしたの?」

「悪い。・・俺のバイト先外人ばっかだったろ。」

「うん。オーナーも外人なんでしょ?」

「あぁ。だから、ちょっとガラが悪くてな。ナンパも多くて女子一人で来るのは止めた方がいいんだけど、突然早瀬さんが来たからさ。言っても帰ろうとしないし。一人で店においておくわけにも行かなかったから、とりあえず男にいてもらおうと思ってメールした。」

「あぁ。成る程ね。だから緑川には連絡しなかったんだ。」

「あぁ。」

「あの店も外人ばっかりで驚いたけど、黒沢には似合ってたな。」

「うん。そうだね。」

「そうか。」

「黒沢は体でかいから、外人と並んでも見劣りしないしな。そういや、店の中で英語でしゃべってたよな?」

「あぁ。簡単な会話しか分からないけどな。」

「すごいね。でも夜はバイトやらないんだ。」

「あぁ。夜はバーになるから未成年は入れないんだ。」


 ファミレスを出るとせっかくだからということで、僕達は場所を変えて映画を見てその日は解散した。

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