第二話 恋愛 4.夏休み(3)
時計を見ると21時をまわっていたので、青山の「そろそろ帰るか」という言葉をきっかけに皆立ち上がった。
河原から引き上げてゴミを持って駅へ向かう。すると最後尾で黒沢と隣になったので、私は並んで歩いた。
「足は?」
「え?」
「川に突っ込んだ足。」
「もう乾いたよ。」
「そうか。」
「どうだった?」
「ん?」
「花火。」
「面白かったな。」
「ね。綺麗だった。夏って感じがするよね。」
「あぁ。」
「あ、お店。」
「店?」
「黒沢も青山から聞いたの?私があそこでバイトしてるって。」
「いや、俺の所には今日あの店に来いって赤木からメールが来ただけ。」
「そうなんだ。」
「・・・・。青山には話してたんだな。」
「ん?」
「バイトの事。」
「あぁ。うん。青山もね、バイトしたいんだって。この前その話になったから。」
「そうか。」
「黒沢は?」
「何?」
「黒沢も部活入ってないじゃん。バイトとかしないの?」
「あぁ。・・バイトはしてる。」
「え!そうなの?いつから?」
「5月ぐらいから。土日だけな。」
「そうだったんだ。知らなかった。何バイト?」
「同じ飲食店だけど、夜はバーになるから夕方まで。」
「へぇ。何料理?おいしいの?」
「美味いよ。メキシコ料理だから、辛いもんが多いけどな。ただ従業員もお客も外人が多い店だから、あんまり気軽には来れないと思うけど。」
「そうなんだぁ。一回ぐらいは行きたいけどな。」
「いいけど、誰か男連れてきた方がいいぞ。」
「え?なんで?」
「女だけだと絶対ナンパされる。」
「えぇ?本当に?」
「あぁ。従業員もしてる奴いるから。」
「・・すごいとこで働いてるね。言葉とかは大丈夫なんでしょ?」
「まぁ。少人数だけど俺みたいな日本人の従業員も常にいるから。」
「ふーん。じゃあ、皆で行けばいっか。」
「そうして。」
「うん。」
駅に着いて皆と別れる。
送っていこうか?って黒沢が言ってくれて嬉しかったけど、私が一番家が近いからと断った。夏休みに皆に会えるなんて思っていなかったから、すごい楽しい夜だった。
川で話している時に遊びに行く話しが幾つか出ていたから、今度はちゃんと前もって連絡が来ると思う。
(海に行く話もあったけど、水着着なきゃいけないから行くかは分からない。)
まぁ、楽しい夏休みになるといいな、と思った。
黒沢は早瀬さんに会ったりするのかな。夏休みの一ヵ月半は長いし、多分そんな事もあるんだろう。
皆が改札から見えなくなると、家に向かって歩き出す。
おかしいな。
会う前よりも皆に会った後の方が寂しい気がした。
* * *
「青山!」
「あ、今日も居たんだ。」
皆で花火をしてから一週間後、青山がジャージ姿でバイト先のお店に入ってきた。スポーツバックを持っているから多分部活帰りだろう。
今日は一人のようだった。
「今日は?一人なの?」
「そ。部活があったから。」
「あ、こっちどうぞ。」
「どうも。終わるまで待ってるからさ、この後空いてる?」
「え・・。あ、うん。」
「良かった。」
青山が笑う。とっても嬉しそうに笑うから、私もつられて笑った。
空いたテーブルを片付けてキッチンへ行くと、奥さんが青山に気付いたらしい。
「ねぇ。あの子前に来た栞ちゃんのお友達よね?」
「はい。」
「今日は一人なの?」
「みたいですね。」
「あら、もしかして彼氏?」
「え、いや。違います。」
「あら、そうなの。」
奥さんはミーハーなんだろうか。何故か「私オーダー取って来るわね。」といって青山のテーブルへ行ってしまった。
青山には思わず良いって言っちゃったけど、この後どうしよう・・。
バイトの時間が終わるまで、逃げてしまいたい気持ちで一杯だった。
「奥さんが青山の事すごい気に入ってたよ。」
「え?」
「すごいさわやかだって。」
「えぇ!?」
「あの子モテるでしょ、って訊かれたから、モテモテですよ、って言っといた。」
「止めてくれよ。あの店行きにくいじゃん。」
「大丈夫だよ。」
「また行ってもいいって事?」
「え?いいよ。その代わり高い料理注文してね。」
「いや。それは無理。」
駅を二つ隣に行くと、映画館やショッピングモールのある場所に出る。バイトが終わった後、私達はそこで電車を降りて大型のファッションビルに入った。ブラブラと店を見て回りながら、青山の買い物に付き合った。
バイト中はどうしようかと不安だったけど、実際二人で買い物しているといつも学校で会っている時と同じでいられた。そんなに深く考える事なかったのかもしれない。
この事、後で詩織に言った方がいいのかな。青山は女友達なんて沢山いるだろうし、変に隠す方がおかしいよね?隠されるのは嫌だって言ってたし。
買い物が終わるとまた駅に向かう。駅に着いてホームで電車を待っている時、青山が手のひらに収まる小さい紙袋をくれた。
「これ。」
「何?」
「今日つきあってもらったから。」
「え!いいのに。」
「でもせっかく買ったから、貰って。」
「・・うん。ありがとう。」
青山とは電車の中で別れて、地元の駅に着いてから袋を開けると中に入っていたのは小さなグリーンの石がついたネックレス。
とっても可愛いけどこれをつけたらいけないなんて、意識のし過ぎだろうか。
詩織に話すつもりだったのに、何故か言えなくなってしまった。