第二話 恋愛 4.夏休み(2)
青山と緑川が川辺でしゃべっているのが見える。桃井はちらりと黒沢を横目で見てから口を開いた。
「おいおい、どうする?ほっとく?」
「あー?何桃井。」
花火の袋を漁りながら、赤木が顔を上げた。俺が首だけで二人の方を示す。
「あいつら。」
「ん?お!手ぇつないでるし!」
赤木は黒沢の気持ちには気づいていないんだろう。俺は遠慮なく誰もが気になっている事を口にしてみた。
黒沢は特に表情を変えずにそちらを振り向く。それを確認してから、黒沢が何か反応する事を期待して、俺はまた口を出してみる。
「ほっとくか?面白いし。」
「いいんじゃない?」
白田がしれっとした顔でそう応えると、赤木が急にごそごそとポケットに手を突っ込んだ。
「写メ撮る?」
「バーカ。暗くて写んねぇよ。」
赤木も面白がっているようだ。
「あ、戻ってきた。」
二人が並んでこちらに歩いてきた。もう手は繋いでいないようだが、緑川が何故か歩きにくそうにしている。
俺の前に来た所で緑川に声を掛けた。
「何やってたんだ?」
「川に左足つっこんだ。」
「ばかじゃねぇの?」
「うるさいな。滑ったの!」
「マジ濡れてるし。」
「すぐ乾くよ。」
すると赤木が本気で駆け出していきそうな勢いで口を挟む。
「いいな。俺も川入りたい。」
「勝手に入って来い。」
「赤木~。結構水冷たかったよ。」
「つーか。花火は?」
「あ、そっか。」
赤木は思い出したように手に持っていた花火を皆に配りだした。白田が一緒に買ったライターで付属品の蝋燭に火をつける。真っ先に花火に火をつけたのはやはり赤木だった。
「よっしゃ。きたきた。」
手持ち花火の先に小さな火がついたかと思うと、あっという間に大きな色つきの火花が飛び出す。それを持って赤木は川の方へ走り出した。
ガキだなあいつは。
「あんま振り回すなよー。」
それを見た青木が注意する。
それぞれが片手や両手に持った手持ち花火に火をつけて、少しお互いに距離をとって花火を楽しむ。
一本目が終わった俺は、大き目の下に置くタイプの花火を袋から取り出した。
「お、やるねぇ、桃井。」
「まだ何もやってねぇよ。」
「もちろん手に持つんだろ?」
「バーカ。やるわけねぇだろ。」
走って戻って来た赤木にそう言って、俺は皆が居ない方へ花火を置いて導火線に火をつけた。同時に走ってそこから離れる。振り返ると2メートルほどの大きな花火が下から上へ噴水の様に光を吹き上げる。
それから夢中で花火をやっているとあっという間に全てやり尽くしてしまった。もう一回花火を買いに行く気はないが、少し物足りない気がした。
「あー。もう終わっちゃったよ。」
「おっきいやつ買ったのに、意外と速かったね。」
ゴミを片付けながら、赤木と緑川は名残惜しそうだ。
全てゴミを袋にまとめ終えても、帰ろうと言う奴は居なかった。残ったジュースを飲みながら各々その辺に座ってしゃべる。こういうダラダラした時間もたまにはいい。
座った姿勢のまま「んー」と背伸びをして赤木が口を開いた。それに白田が続く。
「そういや、美味かったな。ピザ。」
「緑川は、夏休みはあそこでバイト?」
「そう。特に旅行行ったりする予定ないし。」
「そっか。緑川部活入ってねぇもんな。」
「皆は部活?」
緑川の問いに、嬉しそうに赤木が片手を挙げる。
「部活ー!合宿もあるし。」
「サッカー部ってどこで合宿するの?」
「学校に泊まるんだよ。いいだろ。」
何故か自慢げな赤木に俺は呆れる。
「げぇ。やだよ。」
それにもめげず、というか全然気にしてないんだろう。赤木は青山に話をふった。
「バスケ部は?」
「近場だけど、競技場と併設されてる合宿所があるんだ。そこ。」
「桃井もあんの?」
「合宿はねぇよ。夏休みの活動は2回だけ。」
「えー。いいなぁ。」
「まぁな。楽だし。」
「でも彼女と会えないじゃん。」
俺をからかうつもりで言った緑川の言葉に、何故か返答したのは白田だった。
「もう付き合ってるからいつでも二人で会えるもんね。」
「白田!!!」
驚いて口の中のコーラを吹きそうになった俺に、緑川が信じられないほど満面の笑顔で詰め寄る。
「えー!そうなの!!早く言ってよ!」
「なんで一々言わなきゃなんねぇんだよ!」
「挨拶しなきゃ!」
「いらん!」
白々しい顔で白田が祝福の言葉を述べた。
「良かったね。おめでとう。」
そして赤木が立ち上がり、ファンタのペットボトルを掲げる。
「じゃ、乾杯しようぜ!」
「はぁ!?」
「はーい、皆ジュース持って!」
「いいって!」
「桃井の彼女にカンパーイ!」