第二話 恋愛 3.片想い(4)
カフェで向かいの席に座る親友は情けない顔で私の様子を伺っている。行儀が悪いとは知りつつも、私は片肘ついて彼女の言葉を待った。
「・・・・。それしかないかも、とは思ってる。」
あぁ、ダメだ。この子。
「二人がくっついてもいいの?」
「嫌だけど、二人がそれでいいなら、仕方ないし・・」
はぁ、とわざと聞こえるように大きな溜め息をついてから、私は顔を怒ったような表情に変えて緑ちゃんの顔を見た。
「緑ちゃん。」
「はい。」
「バカ。」
「はい・・」
「この状況をどうにかしようと思わないの?」
「したい、けど」
「『けど』は要らない。」
「はい。」
「とっても簡単な方法があるじゃない。」
「えっ!何?」
「早瀬さんに私も黒沢君が好きだって宣言するの。」
「・・・・・。えぇ!?」
「一度約束しちゃったのは仕方ないわよ。だから、好きになったからもう協力できません、って正直に言えばいいの。そうしたらもう彼女に協力しなくてもいいでしょ。」
「それは、そうだけど」
「『けど』は禁止って言ったでしょ。」
「・・はい。」
「言うの?言わないの?」
「言ったら分かってくれるかな?」
「彼女がどう思ったって関係ないわよ。敵なんだし。」
「あ、そっか。」
(早瀬さんは最初から、緑ちゃんが黒沢君の事好きだって知ってる筈だし。だからこそ、緑ちゃんに協力させるように仕向けたんだろうしね。)
どうもこの友人はそういう考えには至らないらしい。なんだかんだいって、お人よしなのだ。本人は自覚がないけど。
緑ちゃんみたいな子は今まで自分の周りに居なかった。自分みたいに流行りやオシャレ、かっこいい男性を追いかけるのとはちょっと違ったタイプだからだ。
それでも彼女と一緒にいるのは、居心地が良いからだ、と自分では思う。緑ちゃんは自分の良い所も悪い所も全部認めてくれている気がする。
おまけに、
(こんなに恋愛下手じゃあ放っておけないわよねぇ。)
「頑張ってね。」
「えっ・・・。あ、うん」
「絶対言うのよ。」
「・・はい。」
ずっと表情の硬かった緑ちゃんの顔に笑顔が戻った頃には、頼んだオレンジジュースの氷がすっかり溶けていた。