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第二話 恋愛 3.片想い(3)

 * * *


 昼過ぎのボーリング場は予想以上に混んでいた。

 平日だからそれ程人は居ないだろうと思っていたんだけど、同じようにテスト終わりで遊びに来ている高校生や大学生が多い。


 ボーリング場独特の騒々しさの中、私達はそれぞれレンタルシューズと荷物を持って自分達のレーンへと向かった。


「ボーリング超久しぶりー!」


 赤木が嬉しそうに荷物を椅子の上に下ろした。

 全員で7人だからレーンは2つ分借りてある。それぞれが適当に椅子に座り、シューズを履き替えてボールを取りに行く。

 さすが、詩織はばっちり青山の隣を陣取っている。そして、黒沢の隣には早瀬さん。私は向かいに座る二人をなるべく意識しないように視線を横に動かした。すると、私の右隣には白田が座る。


「緑川は?スコアどの位?」

「あ、えーと。大体100ちょっとかな。」

「まぁ、女の子だとその位だよね。」

「えー!緑ちゃんすごい!私ほとんど100いかないよ。早瀬さんは?」

「え、私も、100まではあんまりいかないかな。」


 早瀬さんが小さく笑った。

 正直、自分から見ても早瀬さんは可愛い。小柄で色白で目が大きくて。それがちょっと羨ましかった。






「やった!」

「俺ら断トツだし!」


 イエーイ、と言って赤木・白田とハイタッチする。

 1ゲームをそれぞれ終えて、2ゲーム目はチーム戦にしたのだが、私と赤木、白田チームがスコア20以上の大差をつけて勝った。順位は続いて青山・詩織、黒沢・早瀬さん。最下位はもちろん罰ゲームがある。


「黒沢奢りな!」


 赤木が嬉しそうに言うと、黒沢が「何がいいんだ?」と訊く。私と赤木は顔を見合わせて答えた。


「「アイス!」」


 その答えに黒沢は「声でかい」と言って笑う。

 笑って少し細くなる目元に惹きつけられる。けどすぐに、黒沢の隣で一緒に笑う早瀬さんの表情が視界に入って目を逸らしたくなった。


「じゃ、買って来るね。」


 そう言って、黒沢と早瀬さんは二人でボーリング場内の売店にアイスを買いに立ち上がる。


「あ、私飲み物買ってくる!」


 突然立ち上がると詩織が二人に付いて行ったので、2ゲームだけ申し込んでいた私達はその間に片付けようと、各々ボールを持ったり靴を履き替えたりしていた。

 私は詩織と自分の分のボールを持つと、青山も黒沢の分を持ってレーン後ろのボール置き場へ二人で歩いた。


「緑川ボーリング上手いじゃん。」

「女子にしてはでしょ。皆の方が全然すごかったよ。」

「まぁ、力の差があるしな。」

「男子って真ん中に行かなくてもボールの勢いでピンが倒せちゃうからいいよね。」

「ボーリング好きなの?」

「んー。特別好きって事も無いけど。でも面白いよね。時々来るよ。」

「へぇ。・・緑川は、夏休みどうすんの?」

「え?どうって?多分親と田舎に行ったりはすると思うけど。後、夏だけバイトしようかと思っている。」

「あ、まじで!俺もバイトしたいんだけど、部活あるからなぁ。バイトは何すんの?」

「まだ全然決めてない。」

「飲食店だったら教えてよ。」

「なんで?」

「行くから。」

「え!やだよ!見られたくない。」

「じゃ、行かないから教えて。」

「なんで?」

「俺もバイト探してるから。参考にする。」

「分かった。絶対来るのは無しね。」

「はいはい。」


 ボールを置いて振り返るともう三人は売店から戻っていた。黒沢がアイスの入った袋を赤木に手渡しながらこっちを見ている。けど、直ぐに視線を外したのが分かった。


「お、帰って来てるね。行こ。」

「うん。」


 戻ると赤木からアイスを手渡される。靴を脱いでいた黒沢にお礼を言うと、彼はちょっとこっちを見て笑った。






「この後どうする?」


 白田が言うと、速攻で赤木が答える。その手はお腹に添えられていた。


「なんか食いに行こうぜ。」


 じゃあ、駅前のファミレスに行こうか、と話している所で腕時計を見ながら黒沢が口を開いた。


「悪い。俺、用があるから帰る。」

「あ、私も帰る。黒沢くん、駅まで一緒に行ってもいい?」


 そう言ったのは早瀬さんだった。どうするのかと思って黒沢を見ると、表情を見せない彼が何を思ったかは分からない。


「あぁ。」

「じゃあ、行こ。」


 二人の会話はとても自然に見えた。


「・・・・・。」


(行っちゃった・・・。)


 ふと、視線を感じて横を見ると詩織が険しい顔で私を見ていた。何してるの!と言わんばかりの表情だ。

 だって、この状況で私も一緒に帰るとかおかしくない?

 私の顔が情けないものになっていたんだろう。皆でご飯を食べに行く途中、後で今日の反省会ね、という詩織からのメールが入っていた。





 * * *


「何それ。」


 目の前の美人が眉間に皺を寄せて睨む。

 睨んでいるのは詩織。睨まれているのは勿論、私だ。

 なんでこんな状況なのかと言うと、ボーリングの翌日、詩織の宣言通り二人で反省会が開かれている真っ最中だからだ。


 今日は天気も良くて、私達の入った大通り沿いのカフェは若いお客さんで賑わっている。店の中は笑顔で溢れているというのに、詩織を前にした私の表情は硬い。


「えっ、だから、私は早瀬さんに協力するって言っちゃったし。」

「じゃあ、なんでそんな約束したの。」

「あ、でもね。その約束したのは、まだ、黒沢の事、が、その、・・・好きだって気付く、前だったし・・。」


 好きだなんて、言葉にするだけで恥ずかしくて俯いてしまう。恐る恐る詩織をちらりと見ると、彼女は大きく溜息をついた。


「緑ちゃん。いつまでもその事気にしてどうするの?あの二人がくっつくか、早瀬さんがフラれるまで待つつもり?」


 彼女の問いに対する答えを探していて俯くと、詩織の遠慮の無い溜め息が聞こえた。

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