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第二話 恋愛 3.片想い(1)

「緑ちゃんって私の事ウザいとか思ってる?」

「え??思ってないよ!どうしたの急に?」


 昼休みに突然詩織からそう言われて、私は驚きを隠せなかった。

 以前早瀬さんに言われた言葉が頭をよぎる。パンダのストラップの話。その事で色々思うところは確かにあった。いつの間にかそれが詩織に対する態度に出ていたのだろうか。

 いつもお昼ご飯は教室で食べるけど、今日は天気がいいので中庭にお弁当を持ってきていた。中庭へ行こうと言ったのは詩織だったから、もしかしたらこの話をする為に教室を避けたのかもしれない。

 ベンチの隣に座る彼女を見ると、珍しくむくれた顔をしていた。


「だって、緑ちゃん私に何にも言ってくれないじゃん。」

「・・・・。」

「私ばっかり自分の話して、今だって絶対なんか悩んでるのに話してくれないし。」


 詩織は怒ってるんじゃなくて心配してくれてたんだ。彼女の言葉にじんわりと熱いものを感じる。それはあの時と同じだった。


「・・・ごめん。それ、前に他の人にも言われたよ。」

「それって、青山君達?」

「え、・・うん。」

「そっか。いいなぁ~。青山君に心配して貰えるなんて。」


 一気に後ろめたい気持ちが押し寄せてくる。無意識に私はスカートのポケットから出ている携帯ストラップを見ていた。


「ごめん。」

「なんで謝るの?」

「・・だって、青山の事好きなんでしょ?」


 私は恐る恐る詩織を見上げる。すると実にあっさりとした顔で詩織は私の言葉を否定した。


「好きだけど、そこで謝るのは違うでしょ?別に緑ちゃんが青山君を好きでもいいんだよ?ただそれを黙っているのは嫌だけど。」

「え?あぁ、そっか。あ、でも好きじゃないからね!」

「それ位分かってるよ。」

「へ?そうなの?」

「青山君に興味ないのは見てれば分かる。」

「本当に?なんで分かるの?」

「だって青山君に対する態度も赤木君達と一緒に居る時と変わんないじゃん。」

「・・そっか。すごいね、詩織。」


 それを聞いてそれまでの重い気持ちが一気に吹き飛んだ。驚くほど体の中が軽くなった気がする。


「恋する乙女はそれ位見れば一発だよ。」

「そうなんだ。」


 自然とそれまで硬くなった口元が緩む。

 すると彼女はとんでもない事を口にした。


「ついでに緑ちゃんが他に好きな人が居る事も分かってるんだからね!」

「え・・えぇ!!そうなの!?」


 先程とは違う意味で私は口がどもって動揺した。手に変な汗が出る。

 私は落しそうになった膝の上のお弁当箱を慌てて両手で受け止めた。対して詩織は普段と変わらずお弁当のおかずを頬張っている。


「そうだよー。ちっとも言ってくれないんだもんなぁ。」

「え、だ・・だって。本当に好きかどうかなんてまだ分からないし・・・。気になる程度で・・・。」

「いいじゃん、それでも。好きか分からないなら、その人とどんどん仲良くなって確かめてみればいいんだもん。それで違うと思ったらそれまでだし。」

「そういうもの?」

「そ。そういうものなの。本気かどうかなんて皆分かんないもんだよ。私だって今は青山君が一番だけど、もっと他に素敵な人が現れたらその人の方が好きになるかもしれないんだし。それでも今良いと思ってるんだったら、今頑張らなきゃ。緑ちゃんみたいにのんびりしてたら、迷っている内に他の人に持ってかれちゃうよ。」


 目からうろこ、とはこの事だと思う。


「・・・・・詩織。」

「何?」

「師匠って呼ばせてください。」

「可愛くないから却下。」


 お互い顔を見合わせて笑う。先程まで悩んでいたのはどうでも良くなっていた。やっぱり詩織は詩織だった。早瀬さんの言っていた事はきっと何かの間違か、ただの噂に過ぎなかったんだろう。


「所で、気になってるって言うのは誰?」

「え!!」

「ここまできてまだ話さない気じゃないよねぇ?」


 詩織がとんでもなく楽しそうな顔でそう笑う。


「・・・・・・。」


 やっぱり、詩織には勝てない。





 * * *


「え?」

「だから緑川さんも一緒に行かない?」


 テスト5日前。休憩時間中に早瀬さんに廊下でばったり会った。

 「あ、丁度良かった」と言って彼女が話始めた内容は、私の頭を混乱させた。彼女は昨日黒沢にメールして、テストが終わったら遊びに行かないか、と誘ったと言うのだ。しかも最初から私が一緒だと言う条件で。


「・・なんで私も?」

「だってぇ。初めは二人だけだと黒沢君も遠慮しちゃうんじゃないかと思って。」

「あ、そうなんだ。でも・・。」


 正直、行く気にはならない。黒沢はどうするんだろ。


「行けばいいじゃん。」


 すると、私の横で話を聞いていた詩織が話しに入ってきた。途端に早瀬さんの顔色が変わる。


「え、でも。」

「三人だと中途半端だし、私も行きたいな~。」

「え?」


 早瀬さんが驚きの表情を見せる。私は詩織の意図が分からず呆けていた。


「そうだ!せっかくなら皆で行こうよ!テストが終わってお疲れ様って事でさ。」

「皆って?」

「青山君達も誘って!それなら早瀬さんもいいでしょ?」

「え、うん。まぁ。」

「じゃ、決まりー!皆には私から声掛けておくから。じゃあねー。」


 そう言うと、詩織はさっさと教室へ歩き出した。私も慌てて後を追う。


「ごめん。早瀬さん。後で連絡するね。」

「うん。」


 確かに黒沢が居れば早瀬さんとしては良いだろうけど、私は少し彼女の表情が硬かったのが気になった。


 詩織に追いついて彼女の姿が見えなくなると、私は少し小声で詩織に声を掛けた。


「いいの?」

「彼女も良いって言ってたから、いいんじゃない?それより駄目じゃない!」

「え?」


 詩織の磨かれたネイルの人差し指が、鼻先に突きつけられる。


「わざわざ彼女と黒沢君を二人きりにするような手助けしてどうすんの!」

「あ、でも。」

「でもは禁止。」

「えぇ!」

「とにかく皆には私から話しておくから、黒沢君には緑ちゃんが連絡するのよ?直接でもメールでもいいから。分かった?」

「・・はい、先生。」

「よろしい。」


 詩織の突然の提案には驚いたけど、確かに早瀬さんと黒沢が二人きりになる機会が無くなったのだから、私としてはほっと息を付きたい所だった。

 でも、早瀬さんが黒沢とメールのやりとりしてるなんて全然知らなかったな。






 結局テスト最終日には皆でお昼を食べた後ボーリングに行く事になった。


 白田はその中に早瀬さんが居る事に驚いていたようで、後でメールが来ていた。 黒沢うんぬんの事は白田には話せないから、とりあえず大丈夫だと返信しておいた。

 桃井は部活の集まりがあるというので、今回は不参加だったが他の皆はOKだった。


 まぁ、テスト後に楽しみが一つ増えたと思えばいっか。

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