第二話 恋愛 2.メールアドレス(5)
「黒沢さぁ、さっきの」
隣を歩いていた青山が、前を向いたまま声を掛けてきた。
「本当に、緑川からじゃなかったのか?」
昼飯の後、俺達は次が体育の授業なのでジャージに着替えて移動していた。たまたま青山と二人になって体育館へ続く渡り廊下を歩いている時にそう訊かれたのだ。
「・・。あぁ。青山は?」
「俺も違うよ。体育祭で昼飯買った時に声掛けてきた女子がいただろ?あの子。黒沢は?」
「・・・早瀬って女子。」
「へぇ。うちのクラスじゃ無いよな。何組の子?」
「さぁ。メアド交換して欲しいって言われただけだからな。」
「モテるな。黒沢。」
「それは青山だろ。」
「可愛いの?」
「ん?」
「その子。」
改めて早瀬さんの顔を思い出す。一般的に言えば可愛い方なんだと思う。だが、そのまま可愛いと口にするのも何故か抵抗があった。
「・・・・・。多分。」
「興味ないんだ?」
「無いな。」
「女子に?それともその子にだけ?」
青山はやけにこの話題を引っ張ってくる。俺は考えながら言葉を選んで答えた。
「・・・・・。今の所、早瀬さんには興味ない。」
「そっか。」
「・・・・・・。」
「じゃあ、どんな子がいいとかあんの?」
以前白田にも同じ事を聞かれたが、同じ答えを青山に返すのは違う気がした。青山に対しては誤魔化したりするべきじゃない。誰に確認した訳ではないがそう思ったので、俺は素直な気持ちを口にした。
「・・緑川。」
「・・・・・。やっぱ、そうなんだ。」
「・・・・・・。」
どうやら、青山も俺に対して同じように思っていたようだ。
「俺も。」
「・・・・。」
「知ってた?」
「なんとなく。そうかとは思ってた。」
「あー、もしかして、俺分かりやすい?」
「いや、そんなことはないけど。」
「ありがとな。」
「ん?」
「いや。話してくれて。」
「あぁ。青山に嘘をつく気はないよ。」
「そっか。」
青山は少し眉を下げて笑った。
こんな風に素直に笑えたらいい、そう思った。