第二話 恋愛 1.女の子(2)
* * *
聞きなれない声に呼び止められて振り返る。
昼休みに白田と一階の自販機にコーヒーを買いに来ていた俺は、生徒達でごった返している購買近くで誰に声を掛けられたのか一瞬分からなかった。
「黒沢君。」
もう一度呼ばれてやっと気付く。背の低い女子が笑って俺を見ていた。
「・・何?」
どう見ても知り合いじゃない。
どうして声を掛けられたのか分からないまま返事をすると、彼女は俺の態度を気に留める様子もなくポケットからピンクの携帯を取り出した。携帯にはゴテゴテとした装飾がしてあって重そうに見える。
「7組の早瀬です。突然ごめんね。びっくりした?」
「・・あぁ。」
「できればケー番教えて欲しいんだけど。」
「・・・・。なんで?」
「えー!だめ??友達になって欲しいんだけどなぁ。」
「・・・・・。」
意味が分からない。
「嫌?」
断る理由が見当たらなくて、制服のズボンのポケットから携帯を取り出す。赤外線で俺の携帯番号とメアドを送ると、彼女は
「ありがとう。後でこっちの番号メールするね。」
と言って教室へ戻っていった。
結局誰だったんだ?
まぁ、いいか。と思い携帯を閉じると指にストラップが当たった。何処にでもあるようなパンダがついたストラップ。赤木達が買ってきて緑川がつけたものだ。
(何か、これ見ると力が抜けるんだよな・・。)
俺は携帯を再びポケットに入れると、白田がいつの間にかコーヒーとお茶の缶を持って隣に居た。
「珍しいね。黒沢が逆ナンされてるなんて。」
「・・・今のか?」
「違うの?それとも知り合いだった?」
「さぁ?」
(・・そうか。黒沢はあれが誰だか知らないのか。そう言えば、呼び出された時直接彼女達の顔を見たのは僕だけだもんな。)
「黒沢はさっきの女子みたいな子が好み?」
「いや、別に・・。」
「あれ?でもメアド交換したんでしょ???」
「あぁ。どう断ったらいいのか分からなかった。」
「あー。成る程。」
(黒沢らしいといえばらしい。けど、この手の会話を黒沢とする機会って中々ないんだよな。)
「じゃ、どういう娘がいいの?」
「・・いや、どうって。特には。」
「そうなの?でも顔とか性格とか、なんかあるでしょ。」
ふと、顔が思い浮かぶ。
でも下手の事を言うと、白田のことだ。すぐに感づかれそうで怖い。
意地っ張りで、負けず嫌いで、甘えベタで、
「放っておけない、やつ。」
「へぇ~。そうなんだ。」
ふと横を見えると白田が楽しそうな顔をしている。
とっくに答えを見透かされているんじゃないだろうか。
「お前は?」
「僕?」
「そう。」
「うーん。そうだな。常識のある人かな?」
また、どうでもいい答えを・・・。
「あ、そ。」
上手く誤魔化されたような気がするけど、どうせ口で白田には勝てない。
俺は白田からコーヒーを受け取ると、二人で教室に戻った。
教室に戻るとすぐに携帯が振動した。二つ折りのそれを開くと、メール受信のマークが表示されている。さっきの女子だろうか。
メールを開くと、やはりそうだった。名前を見るがやはり知り合いではない。そこには簡単な自己紹介とこれからもメールしていいか、と書いてあった。
文章の最後が質問で終わってるだけに返信しないわけにもいかない。どうぞ、と言葉を返して携帯を閉じた。
「さっきの子?」
「・・・あぁ。」
抜け目なく白田が声を掛けてくる。なんとなく返事をしづらかったが、白田なら他の奴等に話したりはしないだろう。
すると、驚いた事にまたすぐに携帯に着信があった。また早瀬って女子からのメールかも知れないが、白田の前で開く気はしなくてそのまま放って置いた。