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第一話 仲間 8.体育祭(3)


「お、戻って来た。」


 校舎から出てきた青山達を見つけて、赤木が声をあげた。

 青山、桃井、黒沢の三人がそれぞれ購買のお弁当と飲料のペットボトルを持って、校舎からグランドへ続く階段を降りて来る。


 僕達を含めうちのクラスの大半は階段下の木陰でお昼を取っていて、俺と赤木もそこで三人が戻ってくるのを待っていた。その為三人も俺達を見付けてこちらに向かって歩いてきた。


「ほらよ。」

「サンキュー。」


 青山が赤木に弁当の入った袋を渡す。

「こっちは白田の分な。」と言って、僕にも弁当を一つ渡してくれた。中身はから揚げ弁当だ。


「ありがとう。いくらだった?」

「五百円。」


 僕が財布からお金を出していると、聞きなれた声が後からかかる。


「広樹君。」


 何故かその時、青山は一瞬びくっとしたようだった。


「あ、花田。」

「お昼一緒に食べない?」


 まだ花田さんはお昼をとっていなかったようで、パンの入った購買の袋を持っている。その後ろからは緑川も来ていて、少し驚いた顔をしていた。

 青山に声を掛けたのはどうやら花田さんの独断らしい。

 ま、そうだろうけど。


「うん、いいけど。」


 僕と赤木は顔を見合わせる。赤木から四人で動物園に行った話は聞いていたが、どうやら花田さんが本気で青山を狙っているというのは本当のようだ。






 僕達は階段に座ってそれぞれ昼食をとる。青山の隣に花田さんが座り、緑川は迷った末に彼女の隣に座った。

 僕達の話題はやはり体育祭の事で、午前の競技の話から段々と午後の競技の予想に移っていった。

 花田さんだけは話題に入らず青山と二人でずっと話していたけど。


「後俺達の中で出る奴がいるのは混合リレーと二人三脚。騎馬戦ぐらいか?」

「うん。そうだね。」


 桃井の問いに答えると、赤木が口をもごもごさせながら、朝と同じ質問をしてきた。


「二人三脚って何番目だっけ?」

「午後の三番目。」

「お前それ何回聞くんだよ。」


 桃井が呆れ顔で赤木につっこむ。


「いーじゃん。間違えるよりマシだろ?」

「ちょっとは覚えろよ。」

「緑川は?後二人三脚だけ?」

「そう。」


 桃井の追及を避けるように赤木は緑川に話を振る。彼女はサンドイッチを片手に、簡潔に答えた。


「あんだけ足が速いんだったら、他のも出れば良かったのに。」

「普段全然運動してないんだもん。体力続かないよ。」

「じゃ、何か入れば?」

「無理。」

「サッカー部入ればいいじゃん。」

「一応女なんですけど。」

「あ、そうだっけ?」

「階段から落すよ。」

「こえー!」


 いつもの調子で会話が進む。

 そのうち休憩終了十分前のチャイムが鳴って、皆グラウンドへ戻って行った。





 * * *


「なんか、俺達にとってはこれがメインだよな。」

「確かに。」


 午後の競技。

 二人三脚の番が来て、僕達は実行委員に指示された場所に整列する。歩きながら軽く腕を伸ばして、赤木が言った一言に皆同意した。

 クラスで優勝できれば確かに嬉しいが、高校生の体育祭でそこまで皆勝負にこだわっている訳ではない。だが、二人三脚はこのメンバーでやるからには絶対負けたくないのは確かだ。


 僕達のリレーの順番は赤木・桃井からスタートして、僕と緑川、青山・黒沢の順番。僕は緑川と一緒に襷の受け取り地点に並んだ。

 軽くアキレス腱を伸ばしながら、緑川がゴール地点を見る。


「勝てると思う?」

「僕はいけると思うよ。」

「白田が言うと説得力ある。」

「どうも。」

「そういえば今回の事もそうだけど、どっから情報仕入れてくるの?」

「企業秘密。」

「ふふっ。企業?超怪しい会社っぽい。」

「心外だね。」

「白田が社長なら裏ですごい儲けてそう。」

「利益を追求するのは社長として当然の義務だよ。」

「あはははっ。じゃ、私そこに就職しようかな。」

「どうかなぁ。面接で落ちるかもね。」

「あ、ひど。」


 緑川とそんな事を言っている間に、発砲音と共に最初の二人がスタートした。


 赤木・桃井ペアはスタートから飛びぬけていて、どんどん他との差を広げている。

 僕の予想通り他のチームに足の速いメンバーは殆ど居ない上に、練習などしていないからその差は当然だった。


 すぐに二人が僕達の地点まで来て、赤木から僕が襷を受け取る。僕達は「せーの。」という掛け声と共にすぐにスタートした。


 緑川は運動神経の良さからか、女子だが一緒に走りやすい。練習から既にペースを合わせるのが楽で、僕がクラス委員の仕事があるからメンバーの中で一番練習時間も少なかったのだが、全然問題は無かった。

 僕達がスタートしてからも他のチームは追いつくことはできず、そのままアンカーの二人に襷を渡す事が出来た。

 青山・黒沢は本当に足を縛っているのかと思うくらい、あっという間にコースを駆け抜けて行った。

 それを見送ると、僕達はコースから出て足の紐を外す。乱れる呼吸を整えながら、緑川とゴールの方を見た。まだアンカーまでいっていないチームが居る中、青山達はダントツ一位でゴールした。


「やった!」


 緑川と顔を合わせて喜びの声を上げる。

 すぐにグラウンドの中心を突っ切ってゴールへ行くと、すでに赤木・桃井も揃っていた。僕達は全員順番に手を叩き合い、赤木が「よっしゃ!予告通り!」とはしゃぐ。

 黒沢の顔にも汗をかいた顔に笑みが浮かぶ。顔を横に向けるとクラスの皆も盛り上がっていた。


 体育祭で一番楽しかった瞬間だった。この六人だからこその喜びだと、僕達は誰もが思っているに違いない。






 閉会の挨拶と共に体育祭が終了する。

 結果は午前と変わらず三位に終わった。残念ながら優勝には至らなかったが、優勝しても粗品がもらえるだけだし、僕としては十分満足だ。何より楽しかった。


 生徒達は片付けに入る。

 僕も自分の荷物や椅子を片付けて、その後クラス委員の仕事でテントの片付けに行かなくてはならない。急がなくては、と他の皆より早く自分の荷物を取りに行くと、先に女子数名がクラスの応援席で片付けを始めていた。

 そこには緑川も居たので、僕は声を掛けた。


「緑川、お疲れ。」

「うん、お疲れー。」


 僕が荷物をまとめていると、緑川に女子から声がかけられる。ふと見ると、僕は知らない他クラスの女子だった。


「緑川さん。今ちょっといい?」

「いいけど、なんですか?」

「うん。ちょっと来て。」

「?ごめん、詩織。先行ってて。」

「分かった。荷物持っていこうか?」

「ううん。いいよ。ありがとう。」


 そうして、緑川は校舎の方へ他クラス三人の女子と一緒に行ってしまった。

 花田さんはさっさと自分の荷物を持って教室へ向かってしまったが、僕は嫌な予感がしてその場に留まる。あまり女子の人間関係は分からないが、それでも彼女達の表情を見れば好意を持って緑川に声をかけてきたのではない事は分かる。

 

 どうする?後を追ってみるべきか。

 杞憂であればいい。だけどそうじゃないなら・・。


 頭の中で可能性を挙げてみる。

 緑川が声をかけられた理由。僕が口を挟んだら、彼女達はそして緑川はどうするか。

 多分、彼女達から何を言われようと、緑川なら他からの手助けは求めないだろう。そして何があったとしても、彼女が俺達に相談する事はないに違いない。


「白田?どうした?」


 思想にふけっていたのだろう。声をかけられるまで、黒沢が後ろに居た事に気付かなかった。

 黒沢は僕が目線を向けている方を見る。だが、もうそこには緑川達の姿は無い。

 黒沢なら多分大丈夫だろう。そう思って、周りに聞こえないように僕は黒沢に囁いた。


「緑川が、他のクラスの女子に呼ばれて行っちゃった。」

「・・・大丈夫なのか?」

「分からない。」

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