第一話 仲間 7.準備(4)
「はぁ。」
「大丈夫か。」
「あぁ、うん。久しぶりにこんなに運動したかも。完全に運動不足。ん?」
休憩でベンチに座った所に、黒沢から目の前にお茶のペットボトルが差し出される。
「貰っていいの?」
「どうぞ。」
「ありがとう。」
遠慮せずに受け取ると、冷たい温度が気持ちいい。
自販機で買ったばかりなのだろう。黒沢は私の隣に座ってミネラルウォーターのペットボトルを開けていた。
「そっちはどう?」
「青山は運動神経いいし、走りやすい。そっちは?」
「白田が私に合わせてくれてるから助かってるよ。白田は走りにくいかもなぁ。」
「まぁ、男女の差はあるからな。」
「まぁね。足引っ張らないように頑張るよ。」
「負けず嫌いだもんな。」
「あ、五月蝿いな。黒沢達がアンカーでしょ?頑張ってね。」
「それプレッシャーかけてるんだろ。」
「正解。」
ふっと、黒沢が小さく笑う。あ、笑った時に少し眉が下がる。そういえば、前より黒沢は笑顔が増えた気がする。
「休憩中?」
青山が声をかけてきた。Tシャツの袖で、額の汗を拭っている。
「そ。飲む?」
手に持っていたお茶を差し出すと、ちょっとびっくりして青山は手を振った。
「いや、いいよ。」
あ、そっか。
「ごめん。私の飲みかけじゃ嫌だよね。」
「普通それ逆じゃないのか?」
「あれ?」
黒沢のつっこみに、青山も笑う。
「じゃ、黒沢の一口くれ。」
「あぁ。」
青山は水を一口飲むと、再び私を見た。
「緑川ってそういうの気にしないんだな。」
「うん、ごめんね。私、兄弟全員男だからさ。こういうの当たり前になっちゃってるんだよね。」
「あぁ、成る程。何人兄弟?」
「五人。」
「上?」
「上二人、下二人。」
「挟まれてるんだ。」
「そう。」
「でも男兄弟いそうなイメージある。」
「それ、よく言われるよ。」
すると、今度は赤木達が休憩中の私達に気付いて、こちらに来た。
「あー、何サボってんだよ。」
「もう十分練習したって。」
苦笑しながら青山が答える。一緒に来た桃井は私と一緒でしんどそうだ。
「あ、お茶ずりー。ちょっと頂戴。」
「いいよ。」
赤木は少しの躊躇いも無く私からお茶を受け取り、小気味良い喉の音を立てながらすごい勢いで飲んでいく。一気に半分位なくなってしまった。
「サンキュ。」
「赤木のちょっとは大っきいよ。」
「疲れてんだからいーじゃん。」
「いーけどさ。お礼は黒沢に言って。黒沢のオゴリだから。」
「マジで!黒沢サンキュー。」
「あぁ。」
青山がびっくりした顔で赤木を見ている。
まぁ、せっかく青山が遠慮したのに赤木がこれじゃぁね。
桃井も黒沢から水を貰っている。タオルで汗を拭きながら、白田が居ない事に気づいたようだ。
「白田は?」
「クラス委員の委員会があるんだって。」
「じゃあ、もういいだろ。今日は帰ろうぜ。」
桃井の一言で皆着替える為に教室に戻った。