第一話 仲間 7.準備(1)
気が付けばあっと言う間だった。
ホームルームでクラス担任から7月頭の体育祭のチームと準備についての説明があって、それからというもの、体育祭までの一ヶ月は準備に追われる事となった。
チームはクラス対抗戦。三学年のそれぞれに6クラスあるから、計18クラスの争いになる。
最初は体育祭なんてダルいなんて言っている生徒もチラホラ居たが、周りの空気に感化されたのか、段々と皆で楽しもうと準備にも熱が入った。
出場競技の選手決め、準備に役割分担、応援の練習、旗や看板・応援グッズの作成などやる事は山ほどある。
それぞれの役割を決める日の休憩時間、有り余るほどのやる気を出す男が一人。
「えー!!いいじゃん、やろうぜ!カラーレンジャー!」
片手を大きく振り上げ満面の笑顔で立つ赤木を前に、私達の表情は一様に暗かった。
「えー、やだよ。」
「オマエ最悪。」
「赤木。いくらなんでもそれはちょっと・・・。」
「翔、本気か?」
「・・・・・・・。」
私、桃井が真っ先に口を開き、白田がやんわりと断り、青山は唖然としている。黒沢に至っては言葉もない様子だった。
皆の顔色を見て、赤木は不満そうな顔を作る。
それも無理は無い。赤木が応援合戦で、カラーレンジャーをやりたいと言い出したのだ。
「大体、うちのクラスの色は赤って決まってるんだし、色々な色の入ったカラーレンジャーは無理なんじゃない?」
「あ、そうか。」
白田の指摘に、赤木もすぐに納得したようだが、それでも皆で何かしたいと腕を組んで思案し始めた。
そしてすぐに口を開く。
「皆で同じ競技に出るってのは?」
「6人で、しかも男女混合で出る競技なんてあったっけ?」
そう言った私の疑問に、赤木はすぐに答えを出した。
「あ、二人三脚!」
この学校の二人三脚は男女の比率は関係なく、二人一組を三組作ってリレーをする。混合リレーや百メートル走などとは違い、どちらかと言えば運動が苦手な人達が出る競技だった。
すると、白田が興味を持ち始めた。
「二人三脚なら、一位を狙える確率は高いよね。」
「何で?」
「本気でやる人が出るような競技じゃないからね。逆にやる気を出せば勝てると思うよ。」
「よし!やろう!!」
赤木は俄然やる気を出すが、引っかかる事がもう一つ。
「ちょっとまって、本当にやるの?」
「いいじゃん、やろうぜ。」
「一人が出れる競技の数決まってるでしょ?」
私の意見に桃井も同意した。
「赤木、青山、黒沢が二人三脚に出るのはもったいないんじゃないのか?」
「えーっ。」
「運動神経の良い奴等が二人三脚なんか出たら、他の競技で負ける可能性が高くなるだろ?絶対皆反対すると思うぜ。」
赤木が嫌そうな顔をするが、白田が意外な言葉を口にした。
「なら、二人三脚に出ても、クラスの皆から文句が出なければいいんでしょ?」
「え?」
「どうすんだ?」
白田以外は、皆顔を見合わせた。
* * *
白田の口から次々と出る情報に、私達は唖然とした。
各クラスの50メートル走の記録、クラスメイトの出場競技の希望、他クラスの各競技出場者と勝利の予想。それぞれの情報をメモした用紙まで手元に準備されている。
「三年は受験があるから毎年大して力は入れてないけど、三年四組が騎馬戦だけ力を入れてくるみたいだね。混合リレーと百メートル走はどのクラスも速い奴が出てくる。けど意外と二百メートル走はやりたい人が少ないから穴場だよ。球入れと綱引きは狙って勝つのは難しいだろうな。特に二年一組は柔道部が多いから捨てていいと思うし。」
「・・・・・・。」
「白田、どっから聞いたんだ?他の学年の事まで・・。」
青山が恐る恐る口を挟んだ。
「親切に教えてくれた人が居ただけだよ。」
にっこりと白田が笑う。
(絶対嘘だ。)
「で?どうすればいいんだ?」
赤木だけが我慢しきれないようで、嬉しそうな顔をしている。
「赤木と青山は二人とも足が速いけど、青山の方が長距離は得意だよね?全部合わせて一人三競技までだけど、男は騎馬戦必須だから、青山は二百メートル、赤木は混合リレーに出てくれる?うちのクラスに陸部が3人居るから、百メートル走はそっちに声かけるよ。黒沢は棒倒しよろしくね。」
驚くのはこれだけではなかった。
実際ホームルームが始まると、クラス委員の白田は上手くクラスメイトを誘導して、正に打ち合わせ通りに競技の出場者が決まったのだ。
白田の言った通り、赤木が真っ先にこの6人で二人三脚に出たいと言い出すと、嫌な顔をする生徒は居なかった。赤木ならいつもの事だ、と皆思ったのだろう。
女子にも反感を持たれずに私も一安心だった。
だが、赤木は余計な一言も忘れない。
「絶対勝つから任せろ!」
何処からその自信が来るのか分からないが、その勝利宣言の御蔭でクラスメイトからは笑いが起きる。
さすが、白田は一人一人の使い方を分かっている。感心すると同時に、皆白田の事を侮れない、と思ったに違いない。
無事決まったはいいけど、それからが大変だった。
勝利宣言をした以上は絶対負けられないと、練習する事になったのだ。
早々に組み合わせを決める事になったのだが、心配が一つ。組み合わせによっては、面白くない思いをする人(つまり女子)が出てくる。
私の表情から察したのか、またもや声を挙げたのは白田だった。
「二人三脚なら身長が近い方がいいよね。黒沢と青山、赤木と桃井、俺と緑川でいい?」
「あ、うん。」
助かった。
思わず小さな溜め息が零れる。
そして私達は放課後すぐに着替えて、それぞれ練習を始めた。
「白田って生徒会から声かけられてるんだって?」
「よく知ってるね。」
「生徒会に入ったらすごい事になりそうだよね。裏から学校を支配しそう。」
「何言ってるのさ。そんな事出来るわけないだろ?」
「・・本当に?笑った顔が怖いよ。」
「失礼な事言うね。」
「白田さん、すいませんでした。」
「緑川は面白いなぁ。」
「ありがとう。」
「何?」
「色々気を使って貰って。」
「あぁ、女子ってモメると怖いからねぇ。」
「本当だよね。・・・ねぇ、」
「ん?」
「何で分かったの?」
「まぁ、見てれば何となくね。」
「そうなんだ。」