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第一話 仲間 6.噂(3)


「緑川。」

「あ、黒沢。おはよー。」

「これ。」

「あ!どこにあったの?」


 朝、校門に入った所ですぐに後ろから黒沢に声をかけられた。わざわざ追いかけてきてまで声をかけるなんて珍しい、とか思っていたら、黒沢の手から出てきたのは私が昨日なくしたパンダのストラップだった。


「・・教室に落ちてた。」

「そうなんだ。良かった。気付いたら昨日なくなっててさ、探してたんだ。ありがとう。」

「おう。」


 教室へ向かって歩きながら、早速携帯に付け直す。

 よく見ればストラップは綺麗なままで、紐が切れたり金具が取れたりもしていなかった。


「普通に付けてたつもりなんだけど、簡単に取れちゃうもんかな?」

「携帯振り回したりしたんじゃないのか?」

「してないよ!あ、黒沢は?ちゃんとつけている?」

「・・・・。」

「つけてないのね?」

「・・ない。」

「でも捨てたりもしないでしょ?どーせ貰ったまま鞄の中に入れっぱなしとかじゃないの?」

「良く分かるな。」

「貸して。」


 黒沢は鞄の中をごぞごぞとしばらくかき回した後、袋に入ったままのストラップを取り出した。


「携帯も。」

「・・・・。付けるのか?」

「携帯に付けなきゃどこに付けるの?」

「・・・・・・。」

「はい。携帯貸して。せっかく買ってきたのにもったいないじゃん。」

「・・・・・・。」


 黒沢は複雑な顔して携帯を渡してくれた。多分、付けるのには抵抗があるんだけど、私達が買ってきてくれたものだから無碍には断れないのだろう。


「ホラ、できた。かわいー。」

「・・・・・。」

「ね?皆おそろいなんだから外さないでよ。」

「・・嫌がってたんじゃなかったっけ。カラーレンジャー。」

「もう最近は慣れたよ。集まったメンバーも面白い奴ばっかりだし。いいんじゃない?」

「赤木が正義の味方やりたいとか言い出さなきゃいいな。」

「あははははっ。本物みたいに?確かにそれは阻止しなきゃね。でも赤木は毎日サッカー部で忙しそうだし、それはないんじゃない?」

「だといいな。」






 黒沢と二人で教室に入る。挨拶しながら自分の席へ歩いていくと、桃井を見つけた。私は昨日の事を思い出して、口元が弧を描くのを我慢できないまま桃井に声をかける。


「桃井、おはよう。」

「お、おう。」


 桃井が私の顔を見て、瞬時に嫌そうな顔をする。失礼な。


「あれー?どうしたの?元気なくない?」

「なんでお前はそんなに嬉しそうなんだよ。キモイ。」

「ねぇねぇ、私部活入ってないんだけどさ。」

「だから?」

「茶道部、見学に行ってもいい?」

「は!?ふざけんな!どうせお前茶道に興味ないだろ!」

「えー、そんなこと無いよ。いーじゃん、部員が増えるかもしれないんだから。」

「お前は絶対入れん。」

「なんで!ケチ!」

「動機が不純なんだよ、お前は!」

「えー、不純ってどういうこと?わかんなーい!」

「むかつく。死ね!」


 朝からやりあってる私達を見て、なんだなんだと皆が集まってきた。そこに白田が呆れた顔で口を開いた。


「緑川、茶道部って先生がとっても厳しいって有名だよ。」

「あ、そうなの?」

「どーでもいいから、とりあえずお前は茶道部に近づくな。」

「いーよ。文化祭で見に行くから。」

「しつけーな、お前も。」


 いつまでも止めない私達に赤木も入ってくる。


「なぁなぁ、何の話―?」

「なんでもねーよ。」

「聞いてよ、あのねー。」

「あ、お前赤木に言うな!ややこしくなるだろ!!」

「なんだよ、桃井ヒデー。」

「ねー。」

「なー。」

「お前ら二人ウザ過ぎ。」


 ふてくされる桃井をよそに、


「朝から何やってんだ?」


と、青山も来た。


「文化祭で桃井の茶道部に皆で行こうって話。」

「は!?いつからそうなったんだよ!」

「そうだったんだ。」

「俺も行くー!お茶出してくれんだろ?」


と、嬉しそうに赤木が手を挙げる。すると白田も今までの会話はそ知らぬふりで、乗ってきた。


「僕も。」

「白田、テメェ・・。」

「へぇー。桃井って茶道部だったんだ。あ、俺も当然行くからな。お客さんは多い方がいいんだろ?」


 何も知らない青山は素直に笑顔でそう言った。

 さすがにそれには桃井も何も言えないようで、不機嫌な顔をするだけだ。

 赤木はいつものように黒沢にも声をかけた。


「あ、黒沢もなー!」

「タダ?」


 黒沢の問いに桃井が鼻を鳴らして答える。


「そんな訳ねぇだろ。」

「・・・・考えておく。」

「あ、ちょっと待て!やっぱり黒沢は来い!」

「えーなんで!ずるい!」


 桃井の訳の分からない贔屓に私は抗議の声を上げた。


「うるせぇな。なんだかんだ言ってお前らは来るんだろ!だったらストッパーは多い方がいい。青山と黒沢は絶対来いよな!!」

「ストッパー?」


 青山は首をかしげた。だが、黒沢は大体の事情は察しているようで、


「白田も居るだろ?」

「コイツは駄目だ。俺が困っていても放置するだけだ。役に立たない。」

「ひどいなぁ。僕桃井に何かしたっけ?」

「お前の場合は何もしなのが問題なんだよ。」


 そんな事を言われても相変わらず白田はにこにこしている。だが、桃井の言っている事も的を得ていて、実は一番やっかいなのは白田かもしれない。


「でも、文化祭ってまだまだだろ?それよりも先に体育祭があるんじゃないか?」


 青山の言葉に、私たちは「あ。」と声を上げた。

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