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第8話 魔物が人の姿になるメリットってなくね?

「ねぇこれ。どう思う?」


 スプトのギルドマスター、ルリマは風通しが良すぎる独特な部屋にて、運ばれてきたティーカップに手をかけながら言った。修理しかけの大穴から、この街の風が入り込んでくる。


「なんです?これ。手紙ですか」


 緑色の髪をかき上げながら……ギルド職員の制服に身を包んだリーンはその文章を読み始める。


「そう。グランドギルドマスターから勇者ロクトへの直々の手紙」


「……中々酷い事書いてますね、これ」


 テイマーという職業の未来を担う、アルマ。その将来性を守るためという名目で書かれていた命令は、アルマをできるだけ手酷く追放する事。


「追放はともかく……手酷くって。そんな事する必要あるのかしら」


「お互い円満な形での追放なんてしっかりとした理由がないと厳しいからでは?手紙の内容通り、お互いに依存しきっていては駄目だと判断されたのでしょう」


「……あなたは、グランドギルドマスターと会ったことがある?」


「ないです」


 ルリマの独断によってギルドで働くこととなった彼女が会う機会などあるはずもなかった。


「あの男の性格からして、到底そういう冷たい、思い切った判断ができるとは思えないのよ。訳アリだったロクト達をあそこまでお調子者にさせたのは全て彼。ゴルガスなんて……今じゃ想像も付かないくらい荒れていたわ」


「……つまり?何が言いたいんです?」


 伝書鳩が手のひらから飛び立ったのを見送り、ルリマは言った。


「───────この手紙は、グランドギルドマスターが書いたものではないかもしれない」


「……何者かが、勇者パーティからテイマーアルマを抜けさせようと?それをして何になるんです?」


「分からないわ。でも……もし本当だった場合。魔王の手先という可能性もあるかもしれない」


 それを聞いたリーンは嘲笑するように言う。


「妄想がお好きなのですね。そんな事してる暇があるのなら魔王討伐に加わればよかったのでは?」


「まさか。昔の同級生が犯罪者になるなんて事があったばかりで神経質になっていただけよ。それに……」


 外の景色を映し出す、壁があった場所を忌々しく睨みながらルリマは言う。


「私はロクトが嫌い。アイツと一緒に旅をするなんて考えたくもない。アイツがあなたを投獄することを望んだから私はそれを叶えさせない」


「え……私をここで働かさせてる理由ってほんとにそんな事なんですか……?」


「何度も言ってるでしょ」


 至って真面目な顔で言うルリマに、リーンは過去の記憶を刺激された。

 剣聖の娘。次期勇者候補。約束された明るい人生を歩めるというのに、変なところまで真面目だった。

 そこまで関りの無い、同級生。


 妬みの対象。


「……その、彼の事が嫌いな理由ってやっぱり聖剣を取られちゃった事にあるんですか?」


「!」


 若干リーンの鼓動が速くなる。聞きたかった。が、明らかに聞くべきではない事。

 当時、岩の聖剣を手にするのはルリマ・グリードアだと誰もが信じて疑わなかった。ルリマの周囲の人間も、彼女自身も。幼馴染であるロクト・マイニングも同じだった。剣聖という血筋を信じ切っていた。


 だが、結果は違う。


「……いいわ。あなたには話してあげる」


「……」


 ルリマがまっすぐとリーンを見つめ、笑みを浮かべる。


「あの時。二年前。ロクトが聖剣を抜いた日」


 将来を約束されていた者と、その将来を破壊することを託された者が突き刺さる聖剣の前に立った日。


「ロクトが聖剣を抜いたのは……私のせいなの」




















 ー ー ー ー ー ー ー


















「……どうして、ここに」


 俯きながらアルマは言った。


「魔王城へ行くための道のりにこのミネスがあったまでだよ。そういうお前は?」


「……連れが、奴隷なんです。ツーキバルに家族がいるかもしれないので」


「……そうか」


 ……もう、俺達以外の仲間を見つけたんだな。

 なんだ────────俺達がいなくてもやってけるんだな。


「あーその、なんだ。なんていうか……」


「……」


「……元気か?」


(ちょっと、ロクト!!)


 小声でサヴェルが突いてくる。


(あの手紙の内容を忘れたのですか?私達はアルマを理不尽に追放したという事で通してるんですよ)


「だけどさぁ……」


 何も言葉が出てこなかった。


「魔物に襲われてたりはしてないか?ちゃんと飯食ってるか?」


「ですから!母親じゃないんですよ私達は!」


「……大丈夫ですよ。あなた達が思ってるより、僕はやっていけてます」


「……そうか」


 心配のしすぎなのだろうか。強がりに見えてしまう。いや、強がってるのは俺の方か?本当はアルマに戻ってきてほしい。でも世話になったグラマスの頼みだし、何よりアルマの可能性を俺達が潰してしまうのは嫌だ。


「……アル──────」


 必死に場を包む沈黙を切り払おうと、俺が言葉を紡ごうとした時だった。


「あ、アルマ様……」


 一人の少女が、茂みから顔を見せた。茶色の髪の……獣人だ。


「ダメじゃないかアリア!危ないから隠れててって言ったのに……」


「でも……怖くなっちゃったんだもん……」


 アルマは涙目の少女を抱きかかえた。


「その子は?」


「さっき言った、奴隷の子です。大昔に撤廃された奴隷制度を今になっても使ってる連中がいるなんて……酷い話ですよ」


 まだ10歳もいってなさそうな子だ。こういう情景を見ると、魔王の前に倒さなきゃいけない敵の存在を再認識させられる。


「ア、アリアー!?どこ行っちゃったのぉ!?」


「あ、ミリアお姉ちゃん……」


「ちょっとアリア……ってアルマ様!?」


 茂みの中から出てきた少女は、アルマが抱きかかえている少女と同じ髪の色をしていて、その子より少し身長が高い。


「ご、ごめんなさいアルマ様。アリアが勝手に……」


「大丈夫だよ」


「アルマ、その子は……」


「この子……アリアの姉の、ミリアです」


「あぁ……お姉ちゃんね。なるほど。……二人目か…………」


「?」


「あぁいや、なんでもない」


 アルマは正義感が強い。きっと面倒事に頭を突っ込んで、助けた後も面倒を見てるのだろう。


「アルマ君~?周辺を飛んでいたワイバーンも倒したけど……」


「ん?」


 またもや、女性らしき声が聞こえてきた。


「ウィラスさん!ありがとうございました」


 声の正体は、弓矢を持った……エルフの女性。


「アルマ、その方は……」


「ウィラスさんです。冒険者なのですが、僕と同じで行く当てがなかったので行動を共にしています」


「あぁ……そういう」


 アルマは優しいからな。自分と同じ境遇の困ってる人なんて見捨てられないだろう。


 ……三人目か。


「そういえば、いつまでその姿でいるの?」


 アルマはそう言って赤い鳥の首を撫でた。

 すると──────鳥が、光に包まれた。


「ぷはーっ!疲れたーっ!」


「お疲れ様、ひーちゃん」


 アルマは抱き着いてきた赤い髪の翼が生えた少女をたしなめるように撫でt


「ちょちょちょちょ一旦ストップ一旦ストップ」


「え?」


「アルマお前さ、今何人と一緒にいるの?これで全員?」


「え、はい。そうですけど……」


「あぁ、そう……よかった……」


 いやよくねぇよ。


「流石に『それ』はやりすぎでしょう!?」


 勢いよく赤い鳥だった少女に指さしたサヴェル。今の俺の全てを代弁してくれた。


「エルフの女性までなら、三人目までなら私も黙っていました。でも四人目は駄目でしょう!?しかもその子、あなたがいつも連れていたちっっちゃな鳥さんじゃないですか!?」


「まぁ……そうですけど」


「なぜ人型に!?なぜ女体にィ!?」


「あ、アルマ様……あの人誰ぇ?こわぃ…………」


「こわ”っ”…………」


 幼女の一言に、サヴェルは指を指したまま静止する。


「こ、怖い?賢者であるこの私が???どっちかというとゴルガスの方─────」


 焦ってまくしたてるサヴェルだったが、それは逆効果だった。


「こわいよぉ……」


 大粒の涙が、零れ落ちた。


「──────」


「サヴェルーーーーッ!!」


 ピシッという音が本当に聞こえるような石化っぷりだった。完全に、サヴェルのメンタルがやられてしまった────!


「くっ……サヴェル君、まさか幼い子に弱いタイプだったとは……!」


「許せねぇ……許さねぇぞアルマァ!!」


「えぇっ!?僕ですか!?」


「そうだよ、お前だよ!」


 俺はサヴェルの意思を継ぎ、アルマに向かって叫ぶ。


「なんでこの短期間で女の子四人も引き連れてんだお前ェ!!」


「そ、そんな事言われても…………」


 アルマは気まずそうに自身の周りを見渡した。


「クソ……俺達が必死に魔王討伐の旅を続けてる間にお前は……女とイチャイチャしてただなんて…………」


「…………その様子だとまさか、ミネスには女性目当てで来たんじゃあ……」


「ッ!?なぜそれを!?」


「嘘でしょ……」


 ますます失望するかのようなアルマの眼差し。周りの女性陣も冷たい目で俺を見ている。

 なぜ?俺勇者ぞ?


「もーいーよご主人様。早く休もうよ」


 赤い鳥の少女がアルマの腕を引っ張りながら言った。アルマ達が俺達から目線を離し、彼らの世界に入っていこうとした──────その時だった。


 ───────強大な魔力を感じたのは。


「っ!」


 全身の肌がピリつくような感覚。魔力だけではない、この恐ろしい気配は────────?


「久しいな」


「っ!?」


 誰もが耳と目を疑った。

 恐らくこの魔力の持ち主であり、颯爽と現れたのは───────少女を背に乗せた犬だったからだ。


「犬が……喋ってる!?サヴェル、なんだよあいつ!」


「───────」


「ダメだ使い物にならねえ!」


 白い獣は少女を下ろし、徐々に俺達に近づいていく。


「千年ぶりだな──────サクラよ」


 低い声で語り掛けた。


 ────────アルマの隣の少女に。


「ほえ?あたし?」

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