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第5話 ぱいたっち出来れば全てよし

「よっしゃああ待ってろ女の子!この勇者ロクト様が今助けてやっからなァ!」


「待つのだロクトくん!」


 意気揚々と次元魔法を発動しようとした俺を止めたのはゴルガス。


「お前の攻撃手段は聖剣やら特大の魔法やらでやりすぎる可能性がある。ここは俺に任せるのだ」


「はぁ?」


 言ってる事は一見理にかなってはいるんだ。そうなんだけど……。


「お前ただ自分が助けて女の子のココロを独り占めしようって魂胆じゃあ……」


「うおおおお!!今助けるぞおおおお!!」


 俺が難癖付けようとゴルガスの方を向いた瞬間、巨大な筋肉の塊が俺の横を勢いよく通り抜けた。あの野郎、抜け駆けしやがって!


「喰らうのだ悪人共めえええッ!!」


 ゴルガスは手に持ったハンマーに……あぁ、魔力を込めてら。いつものやつだ。


「【破砕・魔王槌(デストロイメテオ)】ッッ!!」


 ドン引きするくらい勇者パーティの一員に相応しくない言葉を叫びながら、ハンマーをぶん投げるゴルガス。ぐるぐると回転しながら武器を持ったガラの悪い集団に飛んで行ったそれは───────


「へっへっへ……これでへぐぉっ!?」


「観念するんだなぶはぁっ!?」


「大人しくごばべっ!?」


 地面に衝突し、小爆発を生んだ。


「ってお前明らかにやりすぎだろ!馬車の中まで届いてんじゃねえのかこれ!?」


「心配は無用だ」


 改めて見てみると、綺麗に馬車に届かない範囲になるように威力を調節したみたいだ。いつも見ているこのスキルはもっと広範囲だから早とちりしちまった。


「しかし、【破砕・魔王槌(デストロイメテオ)】……いつ聞いても恥ずかしいスキル名ですね」


「し、仕方ないであろう!あの頃はそういう時期だったのだ……」


 スキルとは、武器や技術を扱い、その経験によって修得出来る特別な技。弱いスキルも強いスキルも色々なスキルがあり、武器などのカテゴリーによってスキルは決められているのだが……まれに、その人オリジナルのスキルが生まれる。それをユニークスキルというんだ。


「かっこつけて叫びながら武器で遊んでたらそれがユニークスキルになっちゃった、か。天才っちゃ天才なんだろうけど、かわいそすぎるぜ」


「全くです」


「ぐ……同情するな!その目で俺を見るでない!!」


 味方にいてくれて頼もしい限りなんだが、それはそれとしていつもスキル発動の時笑っちまう。


「ってあ!女の子!」


 助けたのすっかり忘れてた!

 俺は急いでボロボロの馬車に駆け寄り、中身を覗く。


「大丈夫か?襲ってきた奴らはもう倒したぞー……?」


 中にいたのは、長い緑の髪の女性。

 ……あれ、どこかで見た事があるような……??


「も、もしかして……ロクトくん?」


「え!あ、そうだけど……」


「やっぱりそうだ!助けてくれてありがとう。私の事覚えてる?」


 馬車から降りながらその少女は言った。

 ……えーと。いや見覚えはあるんだよ。あるんだけど……あとちょっと!もう喉のとこまで来てる……!


「あー思い出した!リーン!二年の時一緒だった!!」


「そうだよ!もう、忘れてたの?」


「あはは、すごい大人っぽくなってたからさ」


 俺は再会した学友の変貌ぶりによる照れを隠しつつ、さわやかに微笑んだ。

 再会したリーンは前より大人のお姉さん感が凄まじかった。おっぱい大きいし……いい匂いするし。


「あれ……助けたの、俺ではないか……?」


「……賢者の私でも、今のあなたにかける言葉は見つかりません……」


 後ろでなんか言ってる奴らはいるが、そんなのはどうでもいい。


「てか、なんでこんな危ないとこに?」


「ちょっと大切な用事があって……気を付けなくちゃね。助けられちゃった」


「あ、そうなん?危ないからさ、あっちにスプトっていう街があるから俺と一緒に……」


「そう、大切な……やるべき事があるの」


「へ?」


 そう言ったリーンの瞳は……どこまでも暗く、吸い込まれるような感覚に陥るようだった。


「今、ここで……やるべきことが、ね」


 ────────次の瞬間、俺の目の前に『光』が落ちてきた。正確には……魔力だ。


「ッ……!」


「お、おいリーン!大丈夫──────」


「────────私の【自動魔弓(ファンネロ)】は、悪意、殺意、敵意などこちらに危害を及ぼす可能性があるものに向かって飛びます」


 酷く冷静なサヴェルの声が後ろから聞こえた。


「危なかったですね。私が咄嗟に軌道をずらしていなければあなたは死んでいましたよ、リーンさん?」


 俺の目の前には、サヴェルによって破壊されたナイフを握ったリーンがいた。


「リーン……なん、で────」


「……なんで、ですって?」


 ……魔法でなくても分かる。

 リーンが俺に向けるこの視線で、表情で……彼女の今の感情が憎悪一色だと。


「あなたがァ!聖剣が奪ったからでしょう!?神が与えた聖剣は、あなたみたいな無能が触っていいものじゃないの!!」


「……」


 俺が、幾度となく言われ続けてきた言葉。

 それが、かつての友の口から溢れ出ている。


「本当なら私達の誰かになるはずなの……なるはずだったの!私達の信仰を!あなたは汚したのよッ!!」


「……白剣(びゃくけん)教、ですね」


 白剣教。数百年前の勇者を教祖とした宗教。世界各国に幅広く浸透しているが、このナルベウス王国は特に多い。過激派が多く、聖剣を手に入れる為に非人道的な手段を選ぶ。自分たちの教えを信じて疑わない……まさか、リーンがそうだったなんて。


「自分でも分かってたでしょ?あなたには勇者なんて荷が重いの。なのになんで……なんで抜いたのよッ!!」


「……あの時はそうするしかなかったんだ。俺が聖剣を抜かなきゃ……」


「うるさいッ!!」


 ボロボロのナイフを持ったリーンが振りかぶるが……それはゴルガスの手に握られ、止まる。


「で、どうするんです?ロクトはこの近くの街のギルドマスターと仲が良いので、このまま王都の牢屋へ直行出来ますが?」


「……わざわざ同志たちに盗賊団の真似事までしてもらって、計画も練ってここで待ち伏せして、私は何も成せず捕まるなんて……許せない。だから……」


 するとリーンは、とんでもないことを言い出した。


「私と決闘をして。それで私が勝ったら聖剣を渡してください」


「なっ……この状況でそれをいうのか……!?」


 腕を掴んだまま驚くゴルガス。


「私が負けたら……なんでもします」


 受け入れてくれると信じて疑わない、病的なまでにまっすぐな目が……俺を見ている。


「はぁ、呆れましたね。ロクト、この女の言う事など……」


「いいぜ!」


「「!?」」


 俺は快く、その提案を承諾した。


「な、何を考えているんです!?わざわざそんな事する必要……」


「じゃあ、時刻は今日の夜。場所は───」


「分かった!」


「え?────ごふっ!?」


 俺は呆けたようなリーンの腹を─────右手でぶん殴った。アッパー気味のな。柔らかい肉の感触が手に伝わってくる。


「が……な、何を……!?」


「決闘するんだろ?」


 よろめいたところはチャンスだ。次は……わき腹を回し蹴りでドーンだ!


「ごべっ……!!」


「オラオラァ!!」


 肩!腹!足!腹!どさくさに紛れておっぱいタッチ!その次もおっぱい!おっぱい!おっぱおっぱおっぱいィ!ふにふにふにふに。


「そしてトドメの……顔面だァーーーッ!!」


「も、もうやめっ……で……!」


 膝から崩れ落ちるリーン。流石に勇者様のパンチが効いたようだ。所々の青あざが結構目立つ。


「こうざ……降参じます……だ、からもう─────」


「────じゃあ、俺の勝ちって事で、何でも言う事聞いてくれるんだったよな」


 顔を上げたかと思ったら、絶望したような表情を見せたリーン。自分で言ったくせに。


「ま、ま……待ちましょうロクト。人を裁くのは人ではなく法です。気持ちは分かりますがここは落ち着いて……」


「そ、そうだぞロクトくん。冷静になるのだ……」


 しばらく呆然としていたサヴェルとゴルガスが慌てて俺を止めようとしてくる。


 でも、俺は何でも言う事を聞いてくれるっていう子は中々いないと思うから、遠慮なく頼む。


「牢屋の中でさ、考えてみてくれ。白剣教が本当に正しいのかって事とか、あと……世界平和の事とか」


「ロクト……あなたは……」


「ロクトくん……」


「……」


 リーンは俯き、それ以上喋らなくなってしまった。言いたい事も、聞きたい事もまだ沢山あったが、それは俺の都合だ。リーンが考えを改めてくれるとは考えにくいけど、信じてやるのが友達ってもんだろう。





ー ー ー ー ー ー ー






 サヴェルが魔法で作ったゴーレムは便利なもので、命令しただけでそれを忠実にこなしてくれる上に強い。盗賊団は、リーンが言っていた通り偽物で、白剣教徒だった。結構大人数になってしまうが、リーン達白剣教徒をまとめてスプトの街まで運んでもらう事も楽勝だ。



「─────さて。行こうぜ」


 瘴気の森から、濃厚な魔力が乗った風が吹いてくる。今の気分ならこんな風でも爽やかに俺を慰めてくれるように感じる。

 わざわざ計画的な犯行を学生時代の同級生の女の子がしてきたってのはキツいけど、落ち込んでいられない。


「……気にしないのですね、あなたは」


 サヴェルは若干心配そうに目線だけを俺に向けた。


「してるぜ。ちょっとな。……いや、本当は結構気にしてる」


 俺は小さく、【次元穴(ディメンションホール)】を唱えた。

 空中に開く、次元の穴。そこから俺が取り出すのは────あぁ、何度見ても罪悪感で胸がいっぱいになる、岩を纏った聖剣。じゃなくて……岩に突き刺さっている(・・・・・・・・・・)状態のままくり抜かれた、聖剣。


「だって俺ほんとは……聖剣抜けてないんだもーーーん!!」

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