第2話 勇者でも泣く時は泣くからしょうがない
「うぅ……ぐすっ」
涙と共に、アルマとの思い出が溢れてくる。一緒に魔物を倒した。一緒に美味いもんを食った。一緒に笑いあった。そんなに長い付き合いでは無かったが……大切な仲間だった。
追放なんて……したくなかったよぉもおおおおお!!
「うぇええええ!!うひっ……うぇえっへええええ!」
「お前ガタイの割に泣き声高くてキモイからやめろって言ってんだろゴルガスぅ!」
「し、仕方ないだろ!アルマくん……うぇええええ!!」
隠れていた隣の部屋からやってきたのは俺達勇者パーティの盾であり拳であり筋肉であり筋肉、ゴルガス。屈強な肉体と気持ちの悪い泣き声を持ち、魔物達を震え上がらせる。
「全く……西の勇者パーティが聞いて呆れますね」
「なんだとサヴェル!」
モノクルを触りながら続いてやってきたのは若き天才こと、賢者サヴェル。歴代最年少で賢者の称号を貰ったらしいけどこの生意気な態度は年相応。あと俺と同じ金髪なのもキャラ被りでムカつく。
「魔王討伐を志す者ならば、この程度の出来事で泣いていてはキリがありませんよ」
「つってもよサヴェル。じゃあなんでアルマに追放を言い渡す役、お前がやってくんなかったんだよ」
「え……」
サヴェルのモノクルをいじる手が少し速くなる。
「お前この程度じゃ泣かねえんだろ?じゃあ俺の代わりにやってくれても良かったじゃねえか」
「パ、パーティのリーダーはロクトです。パーティから追放するのだからそれを言うのはあなたでなければ……」
「俺が言う役だったとしてもわざわざ隣の部屋に隠れなくてもいいだろうがよ。お前もアルマを見送ってやればよかったじゃねえか!ごちゃごちゃ言ってるけどよ、お前もアルマがいなくなるのが悲しいんだろ!?」
「……」
一瞬の沈黙を置いて、冷静を保っていたサヴェルの表情が解けるように崩れ始めた。
「……わ……わだじだっで……わがれだぐながっだんでずよ!!うわあああああ!!」
「うわっと!?危ねえよ!お前急に無詠唱で魔法撃つなァ!!」
整った顔をぐちゃぐちゃにしたサヴェルは涙を流し始めると同時に、水魔法を俺に向かって発射しやがった。
そして俺が避けたその魔法は……しゃがみながら泣いているゴルガスに命中した。ゆっくりとその首がこちらを向き、一瞬だけゴルガスが泣き止んだことで生まれた静寂は即、破壊された。
「うぇえええええ!!うぇええあええあえええええええええん!!アルマくぅうううううん!!」
「うおわやべぇ!こいつ周りがもう見えてねえ!」
結果、高音で喚き散らしながら斧を振り回す狂戦士……というよりも魔物が誕生してしまった。
なんだ……こいつら。どう考えても俺の方が辛いだろ。泣いてるアルマの顔見ながら酷い事を言ったんだぞ?本当はずっとパーティにいてほしかった……のに……!!!
「テメェら……舐めてんじゃねえぞおあああ!!俺の方が悲しいもん!!!【次元穴】ッ!!」
俺は次元魔法を唱え────次元の穴から顔を見せた勇者の象徴、聖剣の柄を握る。
「喰らえええええッ!!」
そんで、考えなしに、思いっ切り振りぬいた。
ドゴォォォォン!!という轟音と共に、その部屋からは街の景色が見えるようになり、天井には青い空が映し出された。
いやぁ新鮮でしょ?いいよねぇギルドマスターの部屋が街中から丸見えって。街の事しっかり見れるし好感度上がるだろ!また勇者として善行をしてしまったな……!
「いやいやいやいやいやいや!!ふざけんじゃないわよあんたら!!」
ぶるんっ。
「嘘でしょ……?信じられない。いつまでも旅に出ないでここら辺で適当に弱い魔物倒して毎日酒飲んでる勇者一行もどきを!ようやく支えてくれるしっかりとした子が来てくれたなって思ったのにアルマ君を追放!?そんで私の部屋破壊!?意味わからないわよ!!!」
ぶるんぶるんっ。
「ちょっと!!聞いてるの!?ロクトォ!!」
「いでっ!」
スプトの街、の中の冒険者ギルド、の広場、のど真ん中で……俺達三人は正座させられ、そんで俺はギルドマスター、ルリマに拳骨をくらった。
「ごめんごめん。スライムが現れてな……話を聞くどころじゃなかった」
「え、魔物!?いったいどこに……」
「ここに」
俺がルリマのでっかい胸めがけて人差し指を伸ばしたとと思ったら、瞬時に彼女の剣が斬り落とそうとしてきた。急いで指を引っ込めるが、ルリマは周りのギルド職員に羽交い絞めされながら俺を罵倒してくる。赤く、長い髪が乱れるが、ゆっさゆっさと荒ぶるおっぱいの方にどうしても目が行ってしまう。
「このドアホ!馬鹿!ゴミクズ!変態!人でなし!聖剣泥棒!!」
「せ、聖剣泥棒はねぇだろ。はぁ、どうしてお前は俺の良さが分かんねえのかな。ま、性格最悪なルリマさんにモテたところでって感じだけどな~」
「あああああああ!!殺す!幼馴染の私がこんなになるまで放置してたのが悪かった!責任を取ってこいつは私がここで殺す……ッ!!」
四人がかりで抑えられているはずのルリマがじりじりと俺との距離を詰めていく。あれ?これちょっとやばい?
「お、おいゴルガス、サヴェル。あれ持ってないか?あいつからの手紙……」
右を向いてゴルガスを見るが……無言で首を横に振るだけ。だが、俺とゴルガスは信頼を寄せながら左を向いた。
「フフ……想定済みですよ」
「さっすがサヴェル!頼りになるぜ」
「うむ。やはり賢者の称号は伊達では無いな」
そう言ったサヴェルは懐から……びっちょびちょの手紙を取り出した。
「サヴェル。お前それ……」
「何でしょう?」
「さっきのお前の水魔法で……」
「違いますが???これはゴルガスの涙です。あぁ汚い汚い」
「いや俺ではないぞ!?どう考えてもその量はサヴェルくんの水魔法だろう!」
「という訳でこれを受け取ってください、ギルドマスター」
サヴェルは立ち上がり、ルリマに手紙を渡そうとするが……会話を聞いていたのか、ルリマは露骨に嫌そうな表情をした。
「えぇ……これって本当に……」
「はい。申し訳ありませんがゴルガスの涙で濡れてしまっています。ほら、ばっちぃので速く」
「あ、はい、分かりました……」
「流石に俺の扱い酷いのではないか……?」
再び目に涙を貯めようとするゴルガス。気にすんなって。そういう時もあるさ。
「な……これは……グランドギルドマスター直々の命令!?」
びちょびちょの手紙をつまみながら読むルリマが驚きの声を出す。
「そう。グラマスがわざわざ俺達に、な」
手紙の内容はこう。
・アルマを出来るだけ手酷く追放しろ。
・アルマはお前たちなんかの元にいていい人材ではない。
・お前たちもアルマに甘えすぎ。
・いいからさっさと魔王討伐に迎え。
「って結局あんたらのせいじゃない!!」
「わぷっ」
そう言ったルリマは手紙をゴルガスの顔に叩きつけた。びたーん!という音と共に水滴が跳ねる。きたねっ!
「いやいや……この命令がなければもう魔王討伐に向かってる頃だもんなぁ!?」
「当然!(手紙を顔から剥がしながら)」
「もちろんです(意味なくモノクルをクイッとしながら)」
「あんたらは全くもう……はぁ」
ルリマはため息を吐き、腕を胸の下で組んだ。
「これはついさっき聞いた噂だけど、『東』の勇者はもう出発したらしいわよ」
「「「!!」」」
─────この世界に勇者は四人生まれる。というか、勇者を選ぶ聖剣が四本ある。その聖剣は俺達のナルベウス王国と、軍事力トップのコンロソン帝国、獣人大国のツーキバル、そして魔女が巣くう魔女の森にそれぞれ一本ずつ管理されてる感じになってる。そして四人の勇者は本来なら力を合わせて魔王討伐に向かう、っていうかその方が普通に考えて良いんだけど……国同士のめんどくさいのがあるんだろうね。俺はよく分からないけど。他の国より先に魔王を倒せって王様に言われた。
東の勇者っていうと……コンロソン帝国だ。
「軍事帝国の勇者はきっと強いわよ。【黒の聖剣】は最強の聖剣と言われている上に、優秀な仲間だって従えてるはず」
「はっ!強さってんなら俺は結構な方だと思うし、仲間の優秀さなんて負けるわけないな。戦士のゴルガスに賢者のサヴェルに……テイマーの……」
「うぅ……アルマくん……」
「…………ぐすっ」
「アルマぁぁ……」
「え。なによこの空気」
ダメだ。また涙が出てきちまう。
「────でも、そろそろ俺達も本気を出さないとだよな」
「「!」」
勇者という存在に憧れていたアルマ。俺はその憧れを汚してしまったかもしれない。でも……あいつがどんなに遠くにいようとも、聞こえるくらいの名声を、俺は響かせてやる。
「行こうぜ魔王討伐!三人でも俺達なら行けんだろ?」
「もちろんだ!アルマくんがいないのは痛いが……その分俺達が頑張ればよい!」
「フッ。当然です。この賢者サヴェルが付いているのですからね!」
「あぁ。じゃあお前ら!魔王討伐の第一歩。まずは─────」
俺は天に向けて拳を突き上げ、腹から声を出す。
「気合を入れる為に酒だッ!!出発は明日な!!」
「いやさっさと出て行け勇者モドキ!!!」
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