第六話 超火力アイテム
裏山は、学校の敷地内にある小さな山だ。
敷地内といっても、魔物が生態系を作っている歴としたフィールドだ。油断していると怪我をするし、中には大怪我した生徒や遭難した生徒もいるという。
事実かどうかは定かじゃないが、自分は今、そこの出入り口に立っている。
同級生たちは次々に裏山の中へ入っていく。パーティーを組んでいる者も多かったが、腕に自信がある者や理由のある者は、勇気を出してソロで実習に挑んでいく。
「まだ子供なのにすごいなー」
元の世界に、こうして魔物の潜む山の中に一人で入っていける同級生はどれくらいいるだろうか? 仲間と一緒だって厳しいと思う。
今、クロネ・コミヤちゃんの手には折りたたみ式のスタッフが握られている。ポシェットの中には、こういった実習に備えて、家であらかじめ錬金してきたアイテムがいくつか入っていた。どれも簡単なものばかりだが、一応スキルの厳選は済ませている。
クロネ・コミヤちゃんは不登校だったが、家にいても錬金術の修行は怠っていなかったようだ。おかげさまで裸装備で実習に挑むことはなかった。
しかし、俺もつい昨日までは普通の男子高校生だったのだ。いきなりファンタジーの世界で魔物と戦うなんて少し恐いかもしれない。裏山の中にいるのは比較的低レベルなモンスターとはいえ、コボルトなんかは今のコミヤちゃんたちのレベルじゃ敵わないと思う。
「慎重に……」
俺は勇気を振り絞って、裏山の中に入った。
カサカサと木々が揺れて、今にも上からスライムが降ってきそうだ。
「ごくり……」
えっと、たしか実習内容は、品質75以上の薬球を作ることだ。つまり、素材の方も品質が75を超えているものを選ばなくてはならない。観察眼も最低限必要となってくる。
「つまり、薬草と液体系の素材が必要。茂みの中を移動しつつ、川に出られたらいいけど……のわっ!」
茂みの奥へ進もうとしたら、いきなり背中を押されて転けた。
「いっつー。膝擦りむいちゃった。コミヤちゃんの大切な体なのに……ん!」
背後を見ると、ポヨンポヨンと青いゼリーが跳ねている。
丸い目がついており、かわいい。
「この子、もしかしてスライム……?」
ポヨンポヨン。
半透明で、少し、ほんの少しだけ……。
「おいしそう……」
じゅるり。コミヤちゃんは育ち盛りだし、今朝はババナしか食べていないのだ。
と思っていたら、スライムがまた飛びかかってくる。
「わわっ!」
俺は横跳びして避けて、スライムに折りたたみ式のスタッフを叩きつけた。
ポヨンっ!
「〜〜っ!」
スライムのゼリーが少し飛び散って、やつはビヨヨンと震えた。
「勝機っ!」
俺はスライムにペチペチと折りたたみ式のスタッフを叩きつけていく。
スライムはゼリーを飛び散らせまくって――沈黙。どうやらゴリ押しで倒したようだ。
ポシュン!
スライムは霧になって消える。
よく見ると、ゼリーがまだ少し残っていた。
「ドロップアイテム。スライムゼリー。役に立つといいけど」
俺はスライムゼリーを小瓶の中に入れた。
「しかし、コミヤちゃん体力ないな……」
俺は折りたたみ式のスタッフで体を支えながら、深呼吸する。
すると、再び茂みがガサガサと揺れ出した。
「またスライム……⁉︎」
俺がそちらを見ていると、ヌッと赤い目をしたオオカミが姿を現した。
「もしかしてこの子、コボルト……⁉︎」
コミヤちゃんたちのレベルじゃ敵わないとされるモンスターだ。
足もなかなか速そうだし、逃げる途中に噛みつかれたり引っ掻かれたりしたら痛いだろう。
「覚悟を決めるしかないか……! あ、そうだ!」
「グルル……」
俺はポシェットの中に手を入れて、家にあった錬金アイテムの『爆球』を取り出す。
「どれくらい効くかわからないけれど、それっ!」
「わう――」
瞬間。
――カッ!
閃光が辺りを覆った。
ドオォォン…………!
大地を揺るがすような爆炎が立ち上る。
「へっ……」
思わず、腰が抜けてしまった。
コボルトが一瞬で光に呑まれて消し飛んだ。
付近の木々がへし折れて、チカチカと未だ火が残っている。
ガクブル……。俺は、ポシェットに震える手を当てた。
これだけの超火力アイテムだとは思わなかった。
「クロネ・コミヤちゃん。君って一体、何者……⁉︎」




