第四話 丘の幽霊
――記憶。ワタシが目を覚ますと、よくわからない場所にいた。
ベッドで寝ていたようで、体を起こすとカーテンを透かして朝日が入ってくる。
本棚には沢山の書籍が並べられていて、表紙には見たこともないような可愛らしい女の子などが描かれていた。カラフルで、しばらく書籍類を観察していると、絵本……のような作品も見つけた。これは、まんが……知らない記憶を、なぜか知っている。
ワタシはこうこうせい。家族も、友達もいる。感動するし、嫉妬もする、ふつうのこうこうせい。
さっき、たしか自分は禁断の錬金術を行った――
◆
「うう……」
また、夢を見ていた。
昨夜は甘卵焼きを食べた後、疲れて寝てしまった。
俺は手を見て、足を見て、むにっと自分の胸を揉む。
「やはり、パイがある……」
どうやら、元の世界には戻れていないようだ。
ここは、異世界。自分は錬金術師の育成を専門とする学園に通っていて、これ以上欠席を続けるわけにはいかない状況だ。
だから、今日学園にいく。
俺は歯を磨いて、顔を洗って、寝癖を直した後、寝巻きをするすると脱いでいく。
しかし、クロネ・コミヤは美しい女の子だ。
年齢は十代前半。同学年の男子なんか、優しくされたらすぐ好きになってしまいそうなくらいの美少女だ。
そして、胸が大きい……。
赤色のワンピースの上に、学園の目印である黒外套を羽織って、バッグの中に荷物をまとめる。
小屋の外に出た。
今日から、入学早々暗いことで有名になったクロネ・コミヤの快進撃が始まる。
だけど、さっきの夢。不思議な内容だった。
「まるで、元の世界では、クロネ・コミヤが俺になってしまったような……」
小高い丘を降っていくと、カラフルな町並みが見えてきた。
荷馬車が通り、屋台が活気を帯び、人が行き交っている。
町の人々は、クロネ・コミヤを見るとギョッとした。
「あの子は、まさか丘の幽霊……⁉︎ 時々、洗濯物を干しているところを見かけるが……」
「ここまで降りてくるなんて……!」
「人嫌いな魔女っ子という噂は本当なの……⁉︎」
いいえ、魔女っ子ではなくて錬金術師見習いです。
俺がニコッと笑ってペコリと頭を下げると、ますます町の人々たちはギョッとする。クロネ・コミヤ、大物だ。
朝の町には荷馬車や人が行き交っている。
とりあえず、学校につく前に屋台で食料を買うことにした。
「えっと、今の手持ちはニ〇Gだから、果物でいいか。異世界のフルーツ、食べてみたいし……」
果物屋を見つけたので、近づくと店主のおばさんがニコッと笑った。
「いらっしゃい! お嬢ちゃん、丘の上の子だね」
「あ、はい。久々に町に出てきました」
「心配してたんだよ。その黒外套を羽織ってるってことは、やっぱり錬金術師見習いさんかい? この果物の中で一番おいしいものを買っていくといいよ。……って、まだわからないか。ごめんね、今年入学したばかりなのに、無理言っちゃって」
「いえ、このババナ……? をください」
ババナ、というかぶっちゃけバナナである。黄色くて、若干バナナよりふさが太くなっているような気がする。
果物屋には色とりどりのフルーツがあったが、このババナだけ品質値が七〇%を上回っていることにちゃんとコミヤちゃんは気づいているのだ。えらいね〜。
錬金術師になるためこの子が猛勉強したことを俺は知っている。なにせ、自分のことだからね。彼女は楽しくインプットする大天才なのだ。
「あら、すごい! こんなに沢山の種類の中から、素早くいいものを選べるなんて。お嬢ちゃん、大物になるかもね……」
「ありがとうございます! 5Gですね」
俺がガマ口財布を取り出すと、店主のおばさんはにっこりと笑った。
「初回特典! お代はいいよ」
「え、でも」
「お嬢ちゃん、今日はがんばって学校へ行く気なんだろう? 外の世界は恐くないって、ちゃんと教えてあげなきゃ。お代はいいから、また今度来てくれるかい?」
「はい。また来ます。ありがとうございます!」
「いいんだよ〜」
俺がババナを持ってペコリと頭を下げると、店主のおばさんは快活に笑った。それからババナをバッグに入れて、学園に向かった。




