第二話 教師の訪問
待て、とりあえず現状を整理しよう。
俺は、錬金術師になることを夢見ていた女の子になぜかなっている。
そして彼女は、錬金術師を育成する学園に入学したが、友達ができずに不登校気味になった。
学園の教師からは、これ以上休むと退学扱いになってしまうと忠告されていた。
アニメや漫画、ライトノベルが大好きな、感動するし嫉妬もする普通の高校生だった俺は、ある日目覚めると謎の錬金釜の中で体を丸めていた。
「意味がわからない……」
とりあえず、胸元に視線を落とすと大きな双丘があった。
「ま、胸があるだけよしとするか……」
全然よくないが、部屋の中を少しだけ歩き回った後、ベッドに腰掛けてため息をついた。
「いい匂いがする……」
その時、コンコンと小屋の扉がノックされた。
女性の声が届く。
「コミヤさん、いますか?」
クロネ・コミヤ。
それが自分の名前である。
訊ねてきたのは恐らく、学園の教師だろう。
欠席しすぎて、コミヤにはもう後がないのだ。
俺は出入り口の扉の前まで行くと、取っ手を掴んで押す。
目の前に、深い青緑の髪色をした、知的な眼鏡美人が立っていた。
彼女は、心配そうにこちらを見て訊ねてくる。
「起きてらしたんですね。体調はやはり、あまり優れないですか?」
「うーん、いや、言うほど悪くは……」
「? そうですか! よかった。顔色がいつも優れないので心配していたんですよ」
「んー、ちなみに今はどうです……?」
「今? コミヤさんは、あれ、変わりないようにも見えますが、そう悪くないようにも見えます」
「そうですか。とりあえず入ってください。お茶、たしか記憶では……あるな。うん、大丈夫」
「え⁉︎ コミヤさん、どうし……いえ、いい傾向ですね! それでは、少しお邪魔します」
夕暮れ時。部屋の中が薄暗かったので、魔道具に魔力を流して室内灯をつけた。
この魔道具というのは、元の世界でいう家電みたいなもので、電気の代わりに魔力を流すことによって、明かりを点けたり、高価なものだと演算できたりする。そう、クロネ・コミヤの頭の中に記憶されていた。
俺は台所に魔力を流して、お湯を沸かす。収納棚を覗くとハーブがあったので、お湯を注いでハーブティーを作った。それをちゃぶ台に置くと、学園の教師が目を見張った。
「驚きました。コミヤさん、どうしたんですか? まさか、ヤケを起こしているわけじゃありませんよね。まだ諦めるには早いですよ。今から少しずつでも学園に復帰していけば、必ずしも退学には……」
「明日、登校日ですよね?」
「? そうですけど?」
「じゃ、行きます」
「ええ、わかってます。コミヤさんは少し同年代の子たちが苦手で、ええええー! 来るんですか、学校に? コミヤさんが!」
ものすごいノリツッコミである。
なかなか賑やかな世界だ。そう悪くないよ、クロネ・コミヤ。