普通じゃない僕たち
穏やかな日常を守るのはいったいなんだろう。
お金、愛、秩序、相互扶助―――人によって答えは違う。
僕が得た守るために必要な物の答えは「嘘」だ。
多数の理想/平和を守るために、一部の人間が真実/現実を背負う。
この答えを得たのは僕自身が命の危機を久しぶりに抱いた時だ。
「もう少し降ろしてくれー」
住宅地や商店のある大通りから外れた雑木林の中、
そこに今まで知りもしなかった古い井戸があると誰かが言ったのが始まり。
度胸試しとバカをしながら数人で好奇心で向かえば井戸は確かにそこに存在していた。
苔むして蔓が覆うところを見るにもう使ってないそれにぼんやりと視線を向ける。
言われるがまま誘われるままに、苦笑いを浮かべた幼馴染に手を引かれ足を進めた夕暮れ。
つく頃には朱色の空は地平線の下に潜って、暗くなった空に星が見えた。
誰かが言い出した、なんでも度胸試しに井戸の中に入って潜るらしい。
「古井戸だから」「誰も使ってないから」、無知と好奇心は勇気ではないのに。
ぼんやり準備を進める数人を遠目に眺めれば幼馴染も変わらず苦笑いを浮かべていた。
「咲野、もう帰るか?」
「帰りたい。……けど、帰ったらそれはそれで面倒になりそう」
「……ははは、ここまで来たら共犯だもんなー」
僕・楠木咲野はこの井戸に対しての度胸試しなんて興味はない。
幼馴染・板垣秋仁も同様である。
女子あるあるらしい面倒な絡みがある彼らに付き合っているのは仕方なくだ。
仲間意識を向けられる一方的な友情。自分と違えば面倒事の的にされる。
彼らからしてみればそんな意識はないんだろうけど、ため息が出る。
「正直、嫌な予感がするんだよな…止めるべきか?」
「無理でしょ。アイツ等話聞かずに機嫌悪くなるだけ」
「……いやぁ。マジで止めないとなんか、こう、」
―――嫌な予感がするんだ、命にかかわりそうな感じの。
「……よーっし!だいぶ下がってきたー!」
ぎぃぎぃと水をくみ上げるための部分が鈍く響く。
「どんな感じだー?」
「ちょい待って~。……?」
周囲の木々が風に揺れて、今なる音に重なっていく。
ぎぃぎぃ、ざぁざぁ、声は無く、呼吸の音が小さく混ざるのみ。
ここに居るのは僕と秋仁、度胸試しの3人。周囲に大人の姿は当然ない。
星が見えていた空を無意識に見上げれば、先ほどの星が嘘のような黒が広がる。
きゅるきゅる、水をくみ上げる部分が異常な音を響かせる。
息をのむような声が遠くから聞こえる。何か不測の事態が起きた時に聞けそうな声。
また見上げれば、未だ夏空は真っ黒に染まっている。そしてじっとりとした空気が漂い始める。
……あぁ、そっか。
「これ、贄の井戸か」
無意識に呟いた僕の言葉に井戸の中で反響した悲鳴が重なった。