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第7話 転校生

 次の日の朝、ミツコとげっそりした魔王が学校へ向かって歩いている。


「もう~、ずっと女の子の姿でいればいいのに」

「フンッ。我は性別など超越した存在。別にどちらでもいいが、男のほうがしっくりくるのだ」

「おはよう、二人とも」

「おはようございます」

「おはよ~、ミっちゃん。魔王」


 3人のオカルト研究部員たちが合流した。


「ねぇねぇ~、昨日はどうだったの?」

「ココ、下品よ」

「どうだったって? あっ、すごかったよ!」

「えっ!?」


 3人が顔を赤らめる。


「す、すごかったんだ~……」

「ミツコ……あなた……」

「な、なにがどうすごかったんでしょうね……?」

「大きくて抱き心地もよくて、気持ちよかったよ!」

「えぇ!?」


 ひそひそ話を始めた3人。

 大きいってなにが、だからあんなにげっそり、などと聞こえてくる。

 その後、ミツコが昨日の出来事を事細かに説明することで、なんとか3人の誤解は解けたようだった。


「ところで、魔王は私たちの授業中はどうするの?」

「あっ、考えてなかった。そのへんで待たせといたら?」

「ミツコ……」

「それはかわいそうですよ」

「我のことなら心配いらん」

「どうするつもり? 不安でしかないんだけど」

「フフフ、まぁ大船……タイタニック号にでも乗ったつもりでいればよい」

「沈むでしょそれ」


 2年C組。

 オカルト研究部員4人の属するクラスである。

 朝のホームルームが終わり、生徒たちは歓談している。

 前の引き戸がガラガラと開くと、場面が唐突に廃校のように汚い教室へと変化した。

 なぜか兵士たちを引き連れ、ジャージ姿の魔王が教壇に立つ。


「魔王……」

「ウソ……」


 2年C組の生徒たちに動揺が広がる。


「着席せよ」

「着席ぃ!」


 魔王の言葉に追従し、兵士が怒鳴り声を出す。

 しぶしぶといった様子で座る生徒たち。


「皆の者、初めまして。今日転校してきた魔王、ボケール・ド・ドナイヤッチュウネンである。よろしくな」


 自己紹介を済ました魔王が黒板に向かって文字を書きだした。


「おい、ふざけんなよ。これなんなんだよ」

「この人たち誰なんですか?」


 生徒たちは当然の質問をするも、魔王はそれらを無視する。


「この法律がなにか知っているか?」


 黒板には――。


 BR法と書かれていた。


 生徒たちは、誰ひとりとして答えられない。


「はい、ダメ。ダメ。この国はもうダメになってしまったのだ。なぜダメかというと――」

「魔王、トイレ行ってもいい?」

「もう少し我慢しろ、ココ。我は初めてなのだからな」


 魔王が黒板に書かれた文字を指さす。


「バトル・ロワイヤル。そこで今日は皆の者に、ちょっと殺し合いをしてもらう。最後の1人になるまで。反則はない」

「魔王、言ってる意味がよくわかんないんだけど……」

「これからビデオを見てもらう。寝るなよ。そこ! 私語してんじゃねぇ!」


 魔王がナイフを投擲する。

 生徒の額に深々と突き刺さった。


「きゃああああああああ!」

「うわああああああああ!」


 倒れた生徒に近づいていく魔王。


「すまんな。我が殺しては反則だな」


 魔王が生徒の額からナイフを抜き取る。


「あ~もう~、びっくりした~。なにすんの、あんたいきなり!」


 額をさすりながら、倒れていた生徒が起き上がった。


「えぇっ!?」


 し、しまったぁああああ!

 どうやっても死なないんだった!

 この世界の人間どもは!

 ど、どうする。

 これじゃ殺し合いもクソもないぞ。

 だって誰も死なないんだから。

 ただの茶番じゃないか。

 やる前に気づかなかったのか?

 誰だよ、こんなこと考えたの。

 ……私か?

 私だ。

 普通の登場じゃあ面白くないから、ちょっとインパクトのあることしようと思って……。

 クソぉ、登場前に戻って自分を殴りつけたい。

 やり直し……。

 やり直したい……。



――テイク2



「皆の者、初めまして。今日転校してきた魔王、ボケール・ド・ドナイヤッチュウネンである。よろしくな」


 自己紹介を済ました魔王が黒板に向かって文字を書きだした。


「おい、ふざけんなよ。これなんなんだよ」

「この人たち誰なんですか?」


 生徒たちは当然の質問をするも、魔王はそれらを無視する。


「この法律がなにか知っているか?」


 黒板には――。


 KAS法と書かれていた。


 生徒たちは、誰ひとりとして答えられない。


「はい、ダメ。ダメ。この国はもうダメになってしまったのだ。なぜダメかというと――」

「魔王、田植えに行ってもいい?」

「もう少し我慢しろ、ココ。我は腰痛なのだからな」


 魔王が黒板に書かれた文字を指さす。


「墾田永年私財法。そこで今日は皆の者に、ちょっと開墾してもらう。最後の1人になるまで。農機具はない」

「……KESじゃねぇの? 墾田永年私財法だろ? Eじゃ――」

「そこ! 私語してんじゃねぇ!」


 魔王がなにかを投擲する。

 生徒の額に深々と突き刺さった。


「きゃああああああああ!」

「うわああああああああ!」


 倒れた生徒に近づいていく魔王。


「すまんな。書き間違えたのはわざとだ」


 魔王が生徒の額から抜き取ったものは――。


 鎌だった。



――テイク3



「皆の者、初めまして。今日入社してきた魔王、ボケール・ド・ドナイヤッチュウネンである。よろしくな」


 自己紹介を済ました魔王が黒板に向かって文字を書きだした。


「大変申し訳ございません。私が失念しておりました。今日の予定をお聞かせください」

「私の勉強不足で大変恐縮ではございますが、この方たちの紹介をしていただけると幸いです」


 生徒たちは当然の質問をするも、魔王はそれらを無視する。


「この法律がなにか知っているか?」


 黒板には――。


 RK法と書かれていた。


 生徒たちは、誰ひとりとして答えられない。


「はい、ダメ。ダメ。この国はもうダメになってしまったのだ。なぜダメかというと――」

「魔王、一服行ってもいい?」

「もう少し我慢しろ、ココ。我は嫌煙家なのだからな」


 魔王が黒板に書かれた文字を指さす。


「労働基準法。そこで今日は皆の者に、ちょっと働いてもらう。最後の1人になるまで。残業代はない」

「いつもお世話になっております。魔王様。大変申し訳ございません。再度、お伺いしてもよろしいでしょうか」

「これからビデオを見てもらう。寝るなよ。そこ! 寝るんじゃねぇ!」


 魔王がなにかを投擲する。

 額に命中した生徒が床に倒れた。

 が、ほかの生徒たちはチラッと見ただけで騒ぎもしない。

 倒れた生徒に近づいていく魔王。


「すまんな。パワハラは反則だな」


 床に落ちていた、さきほど投げたものを拾って倒れた生徒を助け起こす。

 魔王がやさしく生徒に握らせたそれは――。


 眠気覚ましドリンクだった。


パロディ元は映画の『バトルロワイヤル』です。

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