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第9話 視力検査

「うぅ、お腹へった……」

「大丈夫ですか? ミツコさん」

「大丈夫よ。今日身体測定だから朝食抜いてきただけでしょ」

「え~? そこまでして体重落としたいの~?」


 オカルト研究部の5人が朝の通学路を歩いている。

 ミツコは、お腹を押さえながらふらふらしていた。


「朝だけではない。昨晩からこやつは何も口にしていない」

「えぇ!?」

「ちょっと、ミツコ。やりすぎよ。倒れたらどうするの」

「大丈夫……大丈夫……終わったら食べるから……」

「その反動でたくさん食べたら本末転倒じゃないの」

「……あっ! 倒れると転倒をかけてるんだ! うま~い、部長」

「あっ、ココちゃん、すごい。気づかなかったよ、私」

「そういうこと言いたいわけじゃないの、私は」


 午前中に身長と体重の測定が終わり、お昼時間になるとミツコは鬼気迫る表情でドカ食いしていたという。

 そして、午後から視力と聴力の検査が始まる。

 体育館では、男子高校生たちが列をなしていた。

 その中の1人に、飛びぬけて身長の高い男がいる。

 魔王だ。


「次の人、下のテープのところに立って~」


 検査員が、魔王に向かって声をかけた。


「フンッ。さっきから見ていたが、なんの意味があるのだ? これは」

「視力検査だよ。その黒い棒で左目隠して」

「……なんだと?」

「その黒い棒で左目隠してって。右目から調べるから」

「やれやれ……仕方がない。付き合ってやろうではないか」

「はいはい、ありがと。じゃあ、開いてる方向言ってね。これは?」


 検査員が、表の1番上のCを指示棒で指した。


「貴様、我を馬鹿にしているのか?」

「してないから。開いてる方向言うだけだよ」

「そんなもの、たとえ10キロ離れたとしてもわかるわ!」

「そんなに離れたら見えるわけないでしょ。いいから早く開いてる方向言って」


 魔王は、無言でくるりと回れ右をして歩いていってしまう。


「もう、なんなの? あとにもいっぱいつかえてんのに」

「右!」


 体育館の壁際に立った魔王が大声をあげた。

 検査表からは、100メートル以上離れている。


「はい、じゃあこれは!」


 検査員は上から2段目の()を指した。

 開いている方向は左だ。


「左!」

「……えっ?」


 答えられると思っていなかった検査員は、面食らってしまう。

 もしかして、表を覚えられたか?

 そう思った検査員は試しに一番下の環を指してみた。

 右上方向に開いている環だ。


「じゃあ……これは?」

「右上!」

「えぇ!?」


 その後、一番下の環をすべて答えた魔王は、視力測定不能と書かれてしまった。


 一方、女子たちは校舎にある教室の1室にて視力検査を行っていた。

 廊下にずらっと並んだ女子高校生たち。

 その先頭にはミツコが立っている。


「南出屋さん、次どうぞ」


 視力検査を終え、教室から出てきた女子がミツコに声をかけた。


「は~い。よろしくお願いしま……」


 教室に入り、検査員に挨拶しようとしたとき、ミツコは驚いた様子で言葉につまった。


「きたか、ミツコ」


 検査員は、魔王だった。


「なんであんたがいるの!?」

「検査員だからだ」

「だから、なんであんたが検査員なの!」

「誰でもよいではないか。つべこべ言うな、始めるぞ」

「え~、も~、なんかやりづらいな~。本当にできるんでしょうね? 不安でしかないんだけど」

「では、この文字からいこうか」


 魔王は、検査表の一番上の文字を指示棒で指した。


「ま」

「では、これは?」

「お」

「ふむ、これは?」

「う、って一番上のは見えるって」

「口答えするな。さぁ、初めからもう1度」


 魔王は、次々に1番上の文字を指し示していく。


「ま、お、う、さ、ま、い、ち、ば、ん」

「そうかそうか、フフフ」

「……ん? 魔王さま1番? なに言わせんのあんた!」

「フハハハハ! 次はこれだ。開いてる方向を言うがいい」


 魔王は、表の上から2番目の行の環を指した。

 開いてる方向は、上でもなく右上でもない中途半端な方向だ。


「え~? 上? なんか方向おかしくない?」

「残念。答えは、上そうで上じゃない、少し上方向、だ」

「わかるか! そんなもの!」

「では、これならわかるか?」


 魔王は、隣の環を指した。


「下! あっ、えっ? 左下! あれ? 左!」


 環は、時計回りにぐるぐると回転していた。


「上! ……右! って、回転させるな!」

「なんだ、この大きさもわからないのか?」

「見えてるの! ちゃんと見えてるんだってば!」

「しかし、1つもまともに答えられていないではないか」

「あんたが変な問題出すからでしょ!」

「仕方のないやつだ。では、これならどうだ?」


 魔王は、さらに隣の環を指した。

 右方向に開いている環だ。


「右!」

「はたして本当にそうか? ルーレットスタート!」


 ピピピピピピピと電子的な音とともに環が回転しだした。

 開いてる方向が止まったのは――。


「残念。左下だったな」

「だから回転させるな! なにルーレットって! 遊びにきたんじゃないの、私は! 視力検査!」

「フゥ、このままだと貴様の視力は0.1ということになるぞ。いいのか? それで」

「いいわけないでしょ! まともにやりなさいよ!」

「最後だ。これは?」


 魔王は、上方向に開いている環を指した。


「上!」


 その環は上方向に開いてはいるが、形が少しずつCから変化していく。

 完成した文字は――。


「Uだ。残念だっ――」

「ふざけんな!」


 ミツコのハイキックが、魔王の側頭部にクリーンヒットした。

 コンクリートの壁に、頭が埋まる魔王。


「むぅ……な、なにも見えん……」


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