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「は? 『小説家』? オイ、なんだそれベル」
金髪刈り上げのいかつい男が、強い語気で言った。
「あはっ、なにそれ。そんな聞いたことないんだけど!」
続いて、同じく金髪で派手な女がそう言って笑う。
「……。僕も、そんな職業は聞いたことがない。きっと精霊協会側の設定のバグだと思う。でも、なってしまったものは変えようがないし……悪いがベル、君を、ウチのパーティから解雇させてもらう」
パーティのリーダー。心優しそうな青年だが、戦力外となってしまったメンバーをそのままチームに入れておくことはできない――レベルアップし、職業が『小説家』となってしまった男に対し、はっきりと、解雇を命じた。
戦力外通告、並びにパーティ解雇を命じられた男――ベルは、しかし特にショックを受けた様子はなかった。
ただ平然とした顔で、言う。
「役に立てなくて悪かった。今夜中に荷物をまとめて、明日の朝、出ていくよ」
せっかく貴重な上位職″賢者″になれるよう期待されてこのパーティに誘致されたが、その期待には応えられなかった。ぶっちゃけ自分は特に気にしていないが、一応、彼らには申し訳ない。
――そう思ったベル。
その夜。滞在していたギルドの寮部屋で、早々に荷物をまとめ終えると、彼は机に向かう…。
スキルを発動した。
紙とペンが、出現する。
そして、感じるままに、ペンを走らせるのだ。
″小説家″のスキル。それはまさしく職名のまま、『執筆』――小説を書くことだ。
頭で考えるのが先か、手が動くのが先か・・・自分でもわからない。
目にもとまらぬ速さで一作を書き終える。そのまま二作目へと着手する。そうして夜が更けるまで、冒険者ギルドの寮の一室の灯りが落ちることはなかった。