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「お前さん、一体誰だ? どうしてシィナのことを知ってる?」


『質屋』――とは体の良い呼び名、実態は盗品の横流しをしている、闇市場の店。


 その店主は、突然店にやって来た見知らぬ男を、怪訝そうな目で見る。




 ベルはスラム街へと走った。ベニヤ造りの簡素な平屋が無造作に建ち並び、複雑に入り組んだ街中を懸命に走り回り、その店を探し当てた。


 シィナが以前から利用している店だ。街で盗んだものをここで売って金にしている。

 小説で、それを知っていた。どうやらその事実は、改変されていなかったようである。




 店に入り、主人に尋ねた。

 「シィナはどこにいるか」――と。



「事情を話している時間はないんだ。シィナの身が危険だ、彼女はどこにいる?」



「あいつの身が危険だ……ってのは、俺も承知してるよ。あいつが冒険者から盗んだ短剣には呪いの術式が組み込まれてた。ふらふらになってたが、それでも店から飛び出して行っちまったよ。――可哀想だが、今頃はもう、その冒険者に捕まって、街の警備隊に突き出されてるかもしれねえ」


「いいや。警備隊に突き出しなんかしない。やつらは、あの子を街の地下施設に連れ込むつもりだ」


「は? 街の地下施設? ……お前、さっきから何を言って……」



 店の主人は眉間のしわを一層深めて、ベルを見る。


 だが、やはり事情を説明している時間はない。ベルは、「悪い、邪魔した」と短く言って、すぐに店を出ようとした。



 ――だが、店の主人はそれを慌てて引き留める。




「ちょ、ちょっと待て。……街の地下施設ってのは、もしかして、大昔に使われてたっていう監獄のことじゃねえのか」


「……知ってるのか?」



「俺は長年このきたねえスラム街で暮らして来てるんだ。そのぐらいのことは知ってる。……そこで何か怪しい取引がされてるって噂も聞いたことがある」


「そうだ。――人身売買さ。スラム街の子らを攫って、各地の変態富豪家に売ってる。あいつらさ。シィナが短剣を盗んだ、冒険者パーティ、やつらが主犯だ。おそらく領主も一枚噛んでいる」



「なんだって!? オイ、じゃあ、シィナも……!」


「ああ。きっと攫われた。すぐに助け出さないと……」




「あんた、地下施設を知ってるんだな? 場所はどこだ」


「……スラム街の西の方に、旧いトンネルがある。今は使われてない下水道管路につながってる。そこから、旧監獄につながってるはずだ」


「そうか。……わかった、ありがとう」



「ちょっと待て! ……お前さんが何者かはどうでもいいが、しかし、お前ひとりで行ってどうするつもりだ? 領主も一枚噛んでるっていうなら、警備隊も動いてくれねえだろう」


「そうだろうな」



「その冒険者パーティは所詮きたねえ金で成り上がったやつらだろうが、だが確かな実力もあるはずだ。一人じゃ無謀だ。――それとも、お前はなにか強力なスキルを持ってんのか」



「スキルは……」



 ″小説を書くこと″。

 そんなもの、戦闘の役には立たない。だからこそ、『太陽のキャノウプス』を追い出されたわけである。




「正直、まともなスキルは持ってない。ハッキリ言って、勝ち目はないと思う」



 でも、引き下がろうとは思わない。



 ベルは、自分でもその感情が不思議ではあった。


 自分の書いた小説の登場人物。それが実在していた。

 だからといって、彼女とは面識はないのだ。

 しかも、こうして彼女を助けようとしている今でも、まだその姿を直接目にしてさえいない。彼女の方も、ベルのことなど認識すらしていないはずなのだ。



 本来ならば、赤の他人だ。

 だが、そう思えない。



 彼女のことを放っておけない。



「どうやってシィナを助けるかは――行き道にでも考える。考えが浮かばなかったら……そのときはそのときで、賭けで突っ込むさ」


 言っていて自分でも呆れるほど、無謀である。



「じゃあ、俺はそこへ向かう。情報くれて助かった」



 ベルは、わずかながらの笑みを見せて、今度こそ店を出ようと扉に手をかけた。




 ――だが、またも店主が止める。


「お、おい、ちょっと待て!」



 何度止められようとも、意思は変わらない。ベルは店主の制止を無視してそのまま店を出ようとしたのだが、――次の店主の言葉に、ぴくりと動きを止める。



「お前、首から提げてるその懐中時計――そいつは強力な魔法具じゃないか」



「……え?」

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