96 ミアは、ご機嫌斜め
家に戻ると、居間のソファーにクッションを抱いたミアが居たんだが、何故か恨めしそうな目でボクと兄さんを睨んだ。
触らぬ神に祟りなしだスルーしようと思いサッサと食堂へ移動したが、ボクの後ろに続いたセルジュは、袖を掴まれ見逃してもらえなかったようだ。
ダイニングテーブルの前で足を止め、そっと隣の様子を窺う。
「私 今日 お昼から休みを貰っていたのよ」
「そうだったんだ、何処へ行ったの?」
「何処って、セルジュ兄さんとお話ししたくて…」
「あれ 約束してたっけ?」
「約束なんてしてないけど、でも でも…」
本人に指摘できないが、やはりいろいろ拗らせているな ミア。
考えたくないけど、噂の出所 案外ミアなのかも?
もしそうだったらセルジュは、どうするんだろ。
でもあの後詳しく聞いた感じじゃ、ここ最近流れた訳じゃ無いようだし、う~ん。
「何難しい顔してるの?ノア」
突然耳元で声を掛けられハッとして顔を上げると、母が横から覗き込んでいた。
「うわぁ!」
「失礼ね そんなに驚くこと無いじゃない」
「いや 近いから、そんな近くに顔があったら驚くから」
「あら、部屋に入った時声掛けたわよ」
口元に手を添えコロコロ笑うその笑顔 絶対嘘だ、驚かそうとしてそっと近づいたね。
いつもなら部屋に入る前に気付くのに、隣の様子に気を取られ過ぎていたな。
「まぁ いいや、そんなことより アレ助けなくていいの?」そう言って、ミアを宥めるセルジュの声がする方へ目をやる。
「う~ん 今は、過渡期ね。セルジュが対応を間違えないように、後で話しましょう」
「ミアじゃ無くて兄さんに?」
「ミアは、甘えて駄々をこねてるだけだもの。今は、何を言っても無駄よ。セルジュが毅然としていれば、ミアもきっと落ち着くわ。これをきっかけにあの子も 少し大人になるといいわね」
内心 だといいけどと思い、澄ました顔で母の顔を見返すと「頼りがいのある優しい兄が二人いたなら、ミアももう少し違ったかもね」と呟き ボクを横目でチラッと見た。
ボクの罪悪感に訴えかけ 何をさせたいのか知らないけど、絶対嫌だから。
「母さん ボクとミアは、兄妹と言っても数分しか変わらないんだからね」
「知ってるわよ、私が産んだんだもの。でも ノアがもう少しミアを気遣ってくれたらどうかしら?と期待してるのよ」
「これに関してボクは、ノータッチで。ランクも上がったし益々忙しくなりそうだし」
「そう 合格したのね、おめでとう」
えっと思い ビックリして母を見た。
急な話なのに母が驚きもせず、すんなり昇格の話を受け入れたからだ。
ボクだって知らなかったのに。
「何驚いた顔しているの?あなたがババールへ出かけた数日後、ギルドのマスターから父さんに連絡があったのよ」
へ~流石だな、根回しを怠らないギルマス チムニー。
まだボク達には、時期尚早なので辞退すると ほんの数か月前 周りの人に話したばかりだったから、チョットばつが悪かったのに…話しやすい環境を作っていてくれたなんて、やるじゃないか!
夕食は、昇格祝いをする気満々だったようで、豪華なメニューがテーブルに並んだ。
これ 落ちたらどうするつもりだったんだろう、絶対受かると信じてたのか?嬉しいけど 親バカだな。
少しどんよりしているミアには悪いけど、顔がにやけてしまい こみ上げる嬉しさを隠しきれない。
食後のお茶を飲んでいると、父がいつになく真顔になりボクに質問する。
「それで ノアは、上を目指し今後も冒険者として生きるのか?」
「ん あれ、言って無かった?ボク成人したら行商人になって各地を渡り歩くと決めてるよ」
思ってもみなかった答えを聞いた家族は、ポカンとした顔で暫く静止した。
少しして「それは、初耳だね」と 父が驚きを隠さず呟いた。
「ノア そんなこと考えてたんだ」
セルジュは、何故か満面の笑で嬉しそうだ(謎だ)ミアは、うん 興味なさそうだな。
「あ そうか、ラグ達に話したから すっかり伝えた気でいたよ」
そこから、王都へ旅した時に別の場所をもっと知りたいと感じた事 扱う商品は、プレゼントしたペーパーナイフや雑貨品 そして香辛料など日持ちする食材あとは、現地調達したものを運んで別の場所で売ろうと考えてる事 そして、その準備を進めている事などを説明した。
話し終わった後、両親が感慨深げに深く溜息を吐き「知らぬ間に子供は、成長するのね」なんてしんみりさせちゃったので、少し申し訳なく思えた。
翌日 父に連れられ商業ギルドへ赴く。
ボクが手掛けたステンレスの類似品が無いかの確認と、無ければ登録をしておくためだ。
「商品として売り出すつもりだったなんて、そうならそうと早く言ってくれれば…」などお小言を頂きました。
あの頃は、ボク以外に作る人がいないと思い込んでたからな。
けど 他の転生者の存在を最近感じるようになったので、今更だが暢気に構えていて失敗したかなと反省。
看板商品の一つにする予定なので、これを誰かが先に登録していたら 何か他に考え直さないと。
ステンレスのインゴットと、どの鉱石から何を取り出しどういう配合かなど、専用の用紙に細かく書き込み提出する。
確認作業に時間が掛かるので正式な手続きは、3ヵ月先だと説明を受けギルドを後にした(頼む無登録であってくれと、思わず祈ったよ)
「ノアがあのナイフで商売する時は、うちの店にも卸してもらおう。鉄で作ったがあのナイフとは、比べ物にならなくて商品化しなかったからね」
ギルドからの帰り道 父がそう言ったので「買取でお願いします」即座に返答したら、ふっと笑いを漏らし「商人してるじゃないか」と拳でトンと軽く肩を小突かれた。
昨夜 母にあ~言ったが、少しミアの様子を見ておくかと思い直し、そのまま父と一緒に店に寄ろうと考えたけど ふと思い出す。
そういえば 今朝セルジュが、次の依頼の準備をすると言って、ミアの誘いを断ってたよな。
相手をしてもらえなかったミアの機嫌は、今頃さぞかし悪いんだろうな…あっ やっぱ寄らずに帰ろうか。
父が店に戻り、答えが出ないまま店の前で迷っていると、店の奥にミアの姿を見つけた。
お客と商談している姿を見て、なんだ元気そうじゃんと胸を撫で下ろす。
あの様子なら話しかけても大丈夫そうだなと判断し、棚の影で話が終わるのを待つ。
お客様の要望に沿った商品を幾つか用意し、性能は勿論お値段もちょっとお高い品物をお買い上げ頂いたようだ。
ネゴシエーターとメンタリストのなせる業ってとこかな、お客を乗せるのが上手いや。
「有難う御座いました」と聞こえたので、声を掛けようとしたけど そのままトークタイムに入ったようだ、どうしよ 少し待って長くなるようなら撤退するか。
「ミアちゃんの接客は、気持ちよく買い物が出来て楽しいわ」
「そう言って頂けると嬉しいです。ありがとうございます」
「いずれお嫁に行っちゃうのよね、そう考えると今から寂しいわね」
「お嫁になんか行きません。この店の礎となりセルジュを支え続けます」
「あら、そうなの?なら安心ね」
ボクは、愕然とした。
セルジュと結婚しますとハッキリ宣言した訳じゃ無いが、匂わせてる。
もしかして、店を手伝った頃から言い続けてるのかな…そうなると、年齢層や噂の範囲は?
そっとその場を離れ、少しでも早い方が良いな 今夜にでもセルジュに告げ口じゃなくて、報告しようと決心した(手遅れって気もする がな)
家の前で足を止め考え込んでいたようだ。
さっきの客が、盛んに何やら話しながらボクの後ろを通り過ぎて行く。
気になったので、さり気なく後に付き聞き耳を立てる。
「セルジュさんとミアちゃんが、お店を継げば安泰よね」
「でも、その後どうなるのかしら。子供とか難しいんじゃ?」
「あそこは、もう一人男の子がいたから その子の子供を養子にすれば問題ないんじゃない?」
「なら安心ね」
余りの衝撃で、その場で立ち止まり蹲る。
何が どうなって そうなった?落ち着けボク!何とか気持ちを立て直し、肩を落として家に帰った。
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