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76 ダンジョンでの野営

―22~23階層

23階層を出たセーフティーゾーンに辿り着きへたり込む、慣れない砂地を練り歩き足が悲鳴を上げていた。


「今日は、ここまでだな」


そうサザンの声が聞こえた時ボク達は、その場にへたり込み脱力したが「お前達グズグズしない!先に野営の準備をしろよ」とリーの声に追い立てられたので、恨めしそうな顔をしながらモソモソ動き出す。


22階は、太陽が照り付ける灼熱の砂漠で23階層は、凍てついた大気が蔓延る月の砂漠だった。

ライフのお陰で寒暖差による負担は軽減されたが、慣れない砂地を進む体力の消耗は著しい。


「しかし、22階と23階のスカルピには手を焼いたな~」


火を熾しながらラグが溜息を吐きボクは、Gを連想させる様を思い浮かべ顔が引き攣り頭を振り被る。


「焦げた赤茶色の集団が、砂の上を絨毯のように蠢いて滑るように移動していたのを目にした時は、ぞっとしたよ」


「スミスが咄嗟に機転を利かせ、あの布をばら撒いて足止めしたのが大きかったな!」


「偶々だよ、固まって移動してたから思い付いたんだ」


結局 サラサラの砂に生息するスカルピは、水分を重く含み粘り付く泥に対応できず、有象無象と化して壊滅したんだけど、いろいろ手間取ったんだよね。

足止めした3mのスカルピを乗り越えて後続が延々と行進してくるから、先ずそれら全てを手分けして足止めし、最後100を超える集団にとどめを刺してまわった。


22、23階層の出口を目指す間もその塊に幾度と遭遇し、その上合間合間に10m以上ある大型ワーム単体にも襲撃され…

スカルピ同様ワームの外皮も硬く歯が立たなかったが、3人の手を借りその大きな口の中に直接魔法攻撃を放ち込み何とか仕留めた。

何だろう…手に汗握る死闘を繰り広げていたはずなんだが、簡潔に話すと大した事じゃないように聞こえるのが残念だ。


話をしながらも準備は終わり、今日の反省をしつつ食事を取る。

概ね高評価を得たので気分よく食事も進み、そして腹が満たされ明日に備え早々に眠る事になった。

セーフティーゾーンだが、他の冒険者の姿もあるから当然見張りを立てる。

見張りの段取りを相談していたので「シャー達なら呼べるけど?」ボクがそう言うと、みんながハッとしてこっちを見た。


「連れて来なくても呼べるのか?」


サザンが探るような目つきで聞いてきたが、ボクは当然のように答える。


「うん、距離は関係無いよ影さえあればね」


「何って言うか…万能だな」


ポツンとオルムが呆れた顔で呟き激昂が頷いている横で、何故かラグとトリルにスミスが得意そうな顔をしていた…いや、ボクの従魔だからね?

5匹は流石に多いのでシャーシルバーアッシュの3匹を呼び出し、ボク達は安心して躰を休めた。



朝になり?暗がりの中で目を覚ます。

ボク達を含め3組のパーティーがここで夜を明かしたので、回りのゴソゴソした気配に起こされた感覚だ。

野外で寝る時、敷布一枚で横になる事が今まで無かったから、躰のあちこちが軋んだのが微妙に辛い。

ボクは、思わずため息をついて顔を顰めた。

快適な寝袋が必要だな…と心のノートに書き留めたよ。

まだ寝ている人もいるので迷惑にならないよう気遣い、他のパーティーとの間に横たわり一晩警戒してくれたシャー達に話しかけた。


((シャー達おはよう。昨夜は有難う安心して休めたよ))


3匹は、寛いだ体勢のまま盛大に尻尾だけパタパタ振り答える。

目覚めたばかりの他の冒険者が、その様子を見て一瞬ビクッと怯えたのには、可笑しいやら申し訳ないやらでボクは、思わずヘラヘラ愛想笑いをして返したよ。


シャー達を召喚した時すでに寝ていた冒険者もいたので、目覚めたら2m越えのウルフが3匹もいたら、そりゃ肝が冷えただろうな。

ボクは、固まった筋肉をほぐす為 ラジオ体操を取り入れた動きをしながら気まずい気持ちを紛らわせた。

躰をほぐしているとまだ寝ていたメンバーも起き出し〈胸を大きく広げ足を…〉のポーズで両腕を広げ思いっきしガニ股になったボクを二度見し、腹を抱え指差して笑われました…気持ちは分かるけど酷くない?

まぁ~笑いを提供できたのなら、場も和むしそれはそれでいっか。

そして、それぞれ準備を済ませシャー達を拠点に送り返し、24階層へ…


入口こそ各パーティー時間差で入場するが、入ってしまえば追いつ追われつ追い越したりで、順番なんて関係ない。

けどボク達は、タイムトライアルしているでも無く依頼でも無いので、時間をおいて3番目にセーフティーゾーンから24層へと出た。


ザザザザザザッザッブーン


左右に聳える岩壁とそこに繋がる白い砂浜、そして目の前の大海原。

遠慮して時間を空けて入った意味無かったわ、先に進んだ2パーティー揃ってずぶ濡れで立ち竦んでいました。


学習していたボク達は、アイテムバックからスノーボード仕様の板を取り出した。

(ウキウキと命名したら冷ややかな視線を向けられました)

書いてあったよね?海だって、下調べ大事だよね。

ウキウキには、衝撃を和らげるため上面に5cmのマットを貼り付け、後ろ足だけ緩く固定する作りだ。

ボクは、風魔法を使いホバークラフトの要領で渡る予定だ。

3人は、トリルがボードの裏面を凍らせ更に氷の道を作り、そして先頭のトリルをボクが引っ張り雪ぞりの要領で連なって滑って移動する計画。

言うのは、簡単だけど 何回か海に落ちる覚悟は必要かな?

ところで、この世界に来てから泳いだ記憶が無いんだが…温泉で浮かぶ事が出来たし大丈夫だよね?

激昂の準備は、すでに終わっていた。

土魔法で硬く固めた板に4人で乗り風魔法で浮かべて進むようだ。

ボク達が砂上でタイミングを計ったり色々な準備をしていると、先のパーティーの一組から不穏な空気が漏れ出ていた。


「おい、お前等!随分準備万端だな~俺ら困ってるんだよね」


「助けてくれないかな?ただで」


如何にもと言う馬鹿丸出しの台詞で脅すなぁ…激昂は後ろに控え無言で見守っていた。

ボク達が何も言い返さず呆れた気持ちで視線を交わし考え込んでいると、もう一組の善良そうなパーティーが馬鹿者たちを引き留めた。


「よせよ!見るからにまだ子供じゃないか」


「あぁ~?だから言ってんだろ!どうせこいつ等が先に進んだって意味ねえだろ」


「だからって、俺達もそうだがあんた達が準備を怠った代償をこの子達に払わせる理由にはならない」


保護者の激昂が高みの見物を決めているのに、善良そうなパーティーに馬鹿者を押し付けて先に進む事は出来ないな…

ボクは、さり気なく右耳の後ろをトンと軽く突いた。

その仕草でクレッセントは、気付いたようだ。


「ラグとトリルから使用できる許可が無いけど緊急事態って事でいい?」

「おぅ、仕方ねぇ~な」「とんだ馬鹿だな」「馬鹿丸出しだね」

「だからと言って、他人に擦り付けるのもな」

「ラグの言う通り寝覚めが悪くなる」


うん みんなわかってるね。


「試した事無いんだけど、電気ショックで気絶させるのはどうかな?」

「あの人たちずぶ濡れだよ、加減できるの?ノア」

「あ~どうだろ…」


いい案だと思ったが、慎重なスミスの忠告に素直に頷いた。


「おっそうだ。足元氷で固めたらどうだ?」

「足死んじゃうから、使えなくなるから」


トリルの思い付きもスミスに駄目だしされ…


「あっ泥でいいじゃん。スミスまだ残ってる?」

「うん あるよ」


嬉しそうに頷くスミスから布を受け取り、早速ボク達は両手で布を広げ善良君達に気を取られ背中を晒している馬鹿者たちの足元に沼を作った。


「おぉー!なんだこれ」「しっ沈む!」


馬鹿者たち5人纏めて足首まで沈ませそこで留め置き、3時間後に自動解除する設定をスミスが施した。

まぁ~こんな傍若無人な輩は、そのまま放置し朽ちてしまってもボク的にはなにも困らないんだが、スミスは優しいよ。

馬鹿者たちの処置を終えたボク達は、善良君達にお礼を言う為向き合う。


「俺達は、Dランクのクレッセントです。庇ってくれて有難うございます」


代表のラグがチーム名を名乗り謝意を述べてから、ボク達もそれぞれお礼を伝え、控えていた激昂もスッと前に出て


「俺達は、Cランクの激昂こいつ等の保護者として同行し、対処の仕方を見守らさせてもらっている」


「今回こいつ等を助けて頂き感謝します」


「どうもありがとう」


因みに、馬鹿共があまりに五月蠅いのでコッソリ遮音効果を付けたシールドで囲いました。

善良君達6人は、互いに肘で突き合いながら少し笑み照れていた。


「あぁ~ご丁寧に…えっと僕等は、Cランクの止まり木です」


「でも、僕等そんなに役に立ってないなぁ~」


「そんな事無いです」「後ろ向きだったから楽に罠を設置できたし」


なんやかんやで話が弾み、その後止まり木も一緒にこの階層の出口を目指す事となり、激昂が土板の面を広げ相乗りする事となった。


いよいよ海を渡るが、当然海の海獣も存在する訳でボクの雷とラグのエレクトアローで敵を蹴散らしながら突き進んだ。

トリルは、氷の道作るのに忙しく斬撃を飛ばす余裕が無いので悔しそうだ。

順調に海面を滑り渡っていたが、見渡す限り海のど真ん中に差し掛かった時に巨大なオクトパスとエンカウントしちゃうなんて(ハァ~)本当に運が無い。

それまで魔力をギリギリに抑え海面すれすれを滑るように走っていたトリルは、一気に魔力を増幅させ急上昇した。

氷の壁を高架線みたいに作り出して慌てて干した生命樹の実を口に含んでいたよ。

そんなトリルの努力をオクトパスは嘲笑うかの如く太くうねる足で叩き崩す。


「トリル無理しないで、ボクが風で浮かすから」


「ノア大丈夫か?」


「うん、厳しいけど浮かすだけなら何とか」


球を浮かす練習が、ここで生かされたな!

叩き落とされる事無く空に浮かぶボク達の事をオクトパスは、睨みつけた。

激昂の板は、ボク達よりはるか上で停止してこの戦いを見極める気でいる。

その下に木の葉のようなボク達の板が漂っていた。


「先ずあの足を切り落とすぞ!」


ラグがそう声を張り上げるとアイスアローを撃ち出し次々と凍らせる。

そこを身体強化されたボクとトリルが、それぞれインパクトや斬撃を飛ばし凍った足を打ち砕いたが…スミスの絶叫がむなしく響いた。


「えっえぇぇ~!足が…砕いた足が生えて来るよ」


砕かれた足を次々と再生し、ボク達に向けて伸ばすが届くことなく空を切る。

届かないことに業を煮やし今度は、赤黒い肌をぬめらせ暴れると次第に海が荒れ高波が発生しその波に乗ったオクトパスが高みに登り詰め襲い掛かって来た。


「うわっ、サーフィンかよ!」「サーフィンって何?」


「それどころじゃない!」「巻き付かれた~」


冷静に対処連携しスミスを巻き取った足を凍らせ砕き助け出した後、もう一度空に浮いて態勢を整える。


「どうする?」「う~ん」「煮るとか?」「海をか?」

「あっ、オクトパスを中心にシールド張って器を作り、内側だけ温度を上げるのはどう?」

「それやると、ノアが空間使いだってバレるじゃない?」

「俺達が一ヶ所に固まって、魔力の出所を誤魔化しつつ先にシールド張るとか?」

「う~ん、どうだろうね…まぁ俺達をよく知らない止まり木には効くかな」

「倒さなきゃいけないんだから、他に手が無ければやるしかないよね」


方針が固まりボク達は押しくら饅頭状態になる。

上で観戦している激昂や止まり木には、どう見えているんだろうと想像したらぷっと笑えた。


「何笑ってんだよ」「呑気だな」「ポンコツそういう所だよ」

「えぇ~この状態上から見たらどうなの?って、つい考えちゃって…」

「あっ」「確かに」「この状況で考えるか?普通」


4人の余計な力みが消えリラックスした状態になった、いい事だ。

ボクは、蛸壺を思い浮かべオクトパスの周りを包む。そしてその内側に熱を込め一気に沸騰させた。

徐々に煮え立つオクトパスから辺り一面にいい匂いが漂って来て、上空に居た激昂と止まり木も海面近くまで下降してきた。

本来なら切り分けて食すところだが此処は、ダンジョン…

無情にもオクトパスは、消え去り先が三股に分れた槍と表面が深い蒼の楯がシールドの底に残されていた。


「やったな!煮るとは、思いつかなかったぞ」


止まり木は、仲間内で遠慮がちにボソボソ話していたけど、激昂が敢えてシールドの事に言及しないでくれてほっとした。

ん…ありがたいな。

そして、トリルが板に氷を張り直し氷の道を作りボクが引き出口を目指し海路を進んだ。

オクトパスの後は、大型の海獣に襲われる事無く中型ばかりだったので、ラグとボクでサクサク処理し対岸の出口へと無事辿り着いた。


「少し早いが、何か軽く口に入れて休憩しよう」


「よく頑張ったね、魔力と体力の回復に努めるんだよ」


サザンの音頭とセルジュの励ましに素直に応じた。

結局、苦も無く楽に24階層をクリアできた止まり木は、非常に恐縮していたが、逆に何もさせなかったボク達にも非はあるので困ってしまう。


「なので気にしないで下さい」


「分かりました、お互い様って言う事で」


そして、疲れていない止まり木が先行する事になり最後は、いい笑顔で別れを告げた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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