73 ババールダンジョン 11階層~
初心者用のダンジョン前には、今日も順番を待つ人達で溢れていて、あの日助けたババールギルドの子等が、ボク達に気付いて手を振った。
ボク達も手を振り返し、その前を通り過ぎようとしたら呼び止められ
「おはようございます。この間は助けてくれてありがとう、今日はダンジョンへ行かないの?」
「俺達今日は、11階層の方に行くからな。」
そうラグが答えると、驚いた顔をして何か聞きたそうにしていたが、言葉を飲み込んだようだ。
「あ、そうなんだ…あの、いえ足止めしてすみません、気を付けて。」
軽く会釈を返して暫く進むと次の入口が見え、二つのパーティーが順番待ちをしていた。
初心者用の入口と違い、前のパーティーが入って2~30分待ってから、次のパーティーが入って行くようで、ちょうど先頭のパーティーが出発するところだった。
残ったパーティーを見て、セルジュが「アッ…」と小声を漏らし、煩わしそうな顔をして俯く。
へぇ~兄さんがあからさまに、こんな顔するなんて珍しいと思ったら、そのパーティーの中の一人が、こっちに気付いて声を上げた。
「あぁ~セルジュ戻ってたの?意地悪ね、知らせてくれてもいいのに。」
なれなれしい態度で頬を少し赤らめた、気の強そうな美人さんだ…
ん、どういう事、二股ぁ~?ボクは少しパニックって、スキャンダル!と勘繰ったが、セルジュの性格や恋人シシリーとの、良好な関係を知ったので腑に落ちない。
一旦気持ちを落ち着かせ、彼女とのやり取りに耳を澄ます。
冷静な目で観察すると、上目使いで気を引き口説く彼女に対し、兄さんの露骨な塩対応と激昂の冷遇…何か違うなと感じホッとした。
距離を置いた位置にいる、彼女のパーティーも「やれやれ」と、呆れ顔だ。
「ねぇ~、その子達といるより私といた方がきっと楽しいわ、一緒に行きましょうよ。」
「しつこいな君…僕の気持ちを勝手に解釈しないでくれないか、さっきも言ったが弟達と一緒に過ごしたいんだ、もう放っておいてくれ。」
苛立ちを隠さずセルジュが突き放すと、サザンが加勢して追い払う仕草で
「時間じゃ無いのかタリア、さっさと行ったらどうだ?」
タリアと呼ばれた女は、悔しそうに顔を赤らめボク達を睨み、先にダンジョンへ踏み込む仲間を追った。
「不快な思いをさせて悪かったね、三か月前ここに来た頃、ダンジョンで困っていたから助けてね、以来ババールに来る度付き纏われているんだ…ハァ~。」
彼女の名を一度も呼ぶ事無く「君」としか言わなかったので、セルジュが本気で嫌がっていると察した。
タリアがいなくなったとたん、激昂も顔を緩めセルジュを揶揄い出したが、「揶揄われる対象がアレじゃねぇ。」なんて、辛辣な返しをしていたので、「品行方正だと信じていた兄さんが…」と、新たな一面を垣間見て驚きを隠せなかったよ。
ボクも「シシリーの話してないの?」と、聞いたけど「恋人の話なんかしたら、タリアの事だアジョンに突撃するぞ!」おかしそうに笑うリーの横で、セルジュが頭を抱えた。
随分アグレッシブな人なんだ…そんな事もあり出端を挫かれたが、肩の力は抜けたかな?待ち時間が短く感じた。
アジョンの資料に、11階層へ降りる手段がハッキリ示されてなかったので、多少不安に思っていたが(延々と階段を…とか)、無用な心配だったよ。
入口でプレートを翳し少し奥に入ると、転移の魔法陣があった。
あの資料にあった記号は、魔法陣を指すものだったのか…憶えておこう。
魔法陣を目にしたラグ達は、嫌な顔をしていた…あの日、下層から地上へ戻ったら、3人は転移酔いで蒼白になり、酷い気分を味わったからだ。
だが今日は、ライフを飲んでいるし、きっと大丈夫だろう。
その時、一人だけ平気な顔をしていたボクは、変人扱いされたけれどね。
「ちょっと待て、11層の戦略は?」
魔法陣に乗る寸前、サザンから唐突に問われた…そんな風に聞かれたのは、初めてだったので戸惑ったが、
「俺達が知った11層の情報は、10cm~3mのヴィチョが群れて棲息していて、肉食で骨しか残らないと注意を促してたから、まずノアが凍らせて、みんなで砕くって作戦です。」
そう答えると、ヴィチョは温度に敏感で素早い動きで群がるので、魔虫を分散させないようにノアが先行して、先に凍らせた方がいいとアドバイスを貰い、「1人で先にかぁ~嫌だなぁ~」と、頭をかすめたが覚悟を決めて一歩前に出た。
―11階層
ボクは降り立った直後、フローズンミストを放つ。
見える範囲のヴィチョは大体凍り付いたが、3m前後の大きい奴は、霜付いて動きが鈍る程度だった。
なので、少し遅れて到着したラグ達に、出来るだけ霜付きのデカイ奴を中心に攻めるよう声を掛ける。
スミスは、足元にいた凍り付いたヴィチョの頭を杖で突いて砕き、トリルは、大きな獲物に狙いを定め斬撃を飛ばし、さらに周りの小物も巻き込み砕き、ラグも5本矢を次々と繰り出し飛び回る、そしてボクは、球で頭部を貫通させた。
戦い終えた後、落ちているアイテムの多さにげんなりしたけど、激昂も一緒に拾うのを手伝ってくれたので助かった。
12層を目指す間に、初心者ダンジョンに無かった罠も何箇所かあり、ラグが気付いて解除した…ボクも空間で探知できたけどね。
ラグの探索漏れで、先手を取れず何度か襲われたが、焦る事無く対応できたと思う。
基本、パーティーでの探索は、ラグ担当なので任せている。
実は、空間から派生した探知の事を、みんなに話した記憶が無いんだよねぇ~どうしたものかなぁ…
11層を事無く終えて、階段で一息ついた。
「多かったね…」「拾うのが…」「きっと苦労が報われるよ、後で…」
「トリルは殻ごと砕いたけどな。」「デカイ奴は頭を狙っただろ?」
「あの半円型の殻が、硬くて軽いし丈夫だから需要あるんだよね。」
解体の必要が無いダンジョンで、部位を壊す心配などせず討伐してもいいが、普段から注意して倒した方が有益なので、出来るだけそのように意識すると決めた。
アイテムの多さに愚痴を零していたら、セルジュが飲み物を差し出し
「中型が沢山いる時は、小さいアイテムや魔石は拾わないって、選択もあるよ。」
「なっ、それを早く言ってよ兄さん。」
セルジュが悪戯っぽい顔をして笑った横で、サザンがしたり顔で切り返す。
「俺達が初心者ダンジョンを1時間弱で回った話したろ、アイテム全部拾ってできると思うか?」
「あ…確かに。」
「聞いた情報をそのままうのみにせず、自分の頭で深く考えるんだな。」
リーが喜色満面の笑みを浮かべ、ここぞとばかりに解説し、オルムまで「そういう事も、パーティーと相談しておくもんだよ。」と、得意気に語る。
最後に「13層まで、こういう具合なんだけど~どうする?」と聞かれ、ボク達は話し合い、めぼしいアイテムだけ拾う事にした。
11層の魔虫は、テントウムシの形態だったが、12層のヒェロゥは、ヒルに似ていて食い付いたら離れないうえ、吸血する前に溶血性の毒を吐く。
傷は治せるが…壊れた赤血球も治せるのかな?どっちにしても、失った血はライフでも補えないから、更に注意が必要だな。
―12階層
11層と同じ作戦で、ボクが先に降りて凍り付かせる。
勇んで飛び掛かって来た数十のヒェロゥが、空中で凍り付き落ちて砕けた。
ヒェロゥには、使える部位が無いので、遠慮なく斬り込めるから楽だな。
やはり3mある中型は、霜付いた状態だった。
後ろで見ていたラグ達に「完全に凍らせた方が良いか?」と聞いたが、「充分だよ。」と三者三葉の答えが返って来たので、そのままみんなで駆逐した。
退治しつつ13層を目指す途中「そもそもライフを使っていれば、溶血毒も関係無いじゃん。」と気付き、そして「あ~イヤホン、まだ未使用で良かったよ。」と、複雑な顔で一人赤面してました。
―13階層
入り口付近に魔物の姿は無く、ボク達4人は13層に入ったが、激昂は動かない。
確か、ここに棲み付く魔虫は、麻痺毒持ちの10本脚を持つタープインセだったな、左右と中央に目があり、足が速く瞬発力があって…土の中に生息…んぁ?
「みんな、足元に注意して!」
地盤が揺らぎ崩れ落ちる間際、紙一重で気付き目の前の岩に飛び上がった。
全身を白い短毛に覆われた5mのタープインセが、地中から姿を見せ粘ついた糸を尾から吐き出す。
あっという間に、縦横無尽に糸が張り巡らされ身動きが取れない。
咄嗟にダイヤモンドダストを唱えたが、糸だけ凍り付きタープインセは魔法を跳ね返した。
トリルの斬撃とボクのエアーカッターで凍った糸を破壊している間に、スミスが身体強化を付与しながら戦略を示した。
「ノアとトリルが囮になって、正面から攻撃するふりで左右に別れ、そこで二人の後ろに隠れたラグが三つ眼を潰して!」
「三位一体だな、任せろ!」「おぅ!」「OK!」
囮の二人は、岩の上から派手に奇声を上げ、注意を引き付け飛び掛かり、お互いの躰をぶつけ左右に割れた、そして後ろに控えたラグが、弓を立て続けに引く。
三つ眼それぞれに、5本のが矢が突き刺さったタープインセは「ギョゲェェー!」と叫び、白濁とした血をまき散らし、半身を浮かせ4脚をバタつかせた。
その横に飛び降りた二人は、後方に駆け抜け3本の脚を切り落とす。
下半身6本の足を失ったからか、方向転回することもままならない、ズルズル這いずり動きが鈍くなったタープインセの横腹をノアが切り裂き、トリルは躰の第二関節を両断した。
岩の上から見ていたスミスが、引きつった顔で指差し
「真っ二つになったのに、脚の残った頭の方まだ動いてるよ。」
「しぶといな、とどめを刺すぞ。」
薄気味悪そうな顔をしたトリルが、頭上からザクっと剣を突き立てた。
ここで階段から様子を見ていた激昂が、意味ありげな笑みを浮かべ、ようやく中に入って来る。
激昂の異様な圧を感じる中、サザンが「さて、何か気付いた事があるかな?」と聞いた。
「あ~悪い、俺が探索しなかった。」
「ボクも土に潜むと書いてあったのに、不用意でした。」
ラグとボクの反省を聞くと、ひと際低い声でサザンが釘を刺す。
「目に見えた事だけで判断しない、大事な事だ忘れるな。」
以後、罠だけで無く土の中まで探索しているラグ、大変だろうな。
ここを出たら、ボクも探知出来る事を話した方がいいのかな?でも今更って文句言われそうだし、どうしようかな…。
((ノア、任せられるところは、任せた方が良いと思いますよ。))
((何でそう思うの?シャー。))
((ゆくゆくは、三人でやって行く事になるからです。))
((そっか、そうだよね…分かったそうするよ、ありがとう。))
タープインセに何度も遭遇したが、スミスの強化、ボクとトリルの撹乱、ラグが目潰しをして、トリルが胴を断つ作戦で、順調に進んだ。
ラスト何体かは、探知して土から全身が這い出る前に胴を断ち、糸を吐く間も与えなかったよ、慣れって恐ろしい…。
14、15階層は、ヴィチョ、ヒェロゥ、タープインセとの混戦だった。
種族と数量が上がったので、手っ取り早くダイヤモンドダストで完全に凍り付かせて、魔法をはじくタープインセの討伐を優先させる事を事前に話し合った。
魔法をはじくって本当に厄介だよな、ボクが一人で対峙したらどう戦おう…。
((あら、それなら私が10本の脚を拘束しても良いわよ?))
((ノアなら、地中でそのまま圧死させる事も出来る。))
((その手があったか!シャーよく気付いたね。))
魔虫の数が倍増し出くわす機会も増えたが、すっかり慣れてしまい念話する余裕が生まれた。
寧ろ注意散漫だと怒られる事を恐れ、みんなと言うか特に激昂に気取られないように、表情を隠す事に神経を使っていた。
探索中のラグはさておき、トリルとスミスにも余裕が見られる。
「ダンジョンって、変だけど面白いな。」
トリルの問いにスミスが「何が?」と、興味を示す。
「本気で俺達を潰す気なら、最初っから全て力をぶっこんで襲えばいいのに、徐々にだろ?まるでじわじわ痛めつけて楽しんでる様な感じだぜ。」
「まぁ~結果痛めつけるというより、慣れてきちゃってるけど。」
トリルの疑問に、ボクも同じ思いを感じていた。
「確かに、小出ししている感はあるよね。」
頭を捻って考えたが、結局ダンジョンの謎は解明されないまま、15階層を出てセーフティーゾーンの階段に到着した。
そこで休憩になり昼食中にも話したが、満足する答えは出なかった。
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