62 冬の冒険者+α
トラブル無く昼過ぎに、コトネル村からアジョンへ帰って来た。
二人の商人から依頼報酬を直接受け取ったので、そのままギルドに報告して
業務終了となる。
ギルドの入り口近くの椅子に座り、カウンターに向かうラグの背中をぼーっと
眺めて待っていると、激昂が疲れた様子で入って来た。
「兄さんお帰り~今帰ったの?」
「ノアただいま。」
セルジュは深いため息を吐きボクの隣に座る、報告を上げるためにカウンターへ向かうサザン以外のメンバーも同じ長机を囲んだ。
「兄さんお疲れのようだね。」
「最近ハサラ村の先にあるババール迄何回も足を延ばしているからね、片道3日かかるのはまだいいけど、寒暖の差でからだが少し怠いかな…ノアは何してた?」
ボクは、護衛でコトネル村へ行った事とデクシラに会って来た事やコトネル村の
子供達の様子を話した。
「それでねボク思ったんだ、早くからやりたい事を選択できる自由があるって、
当たり前じゃないんだなって。」
ボクの話を聞いていたリーが、思い出したように言葉を漏らす。
「そう言えば、ババールは12歳だったな。」
「あそこは薬草もダンジョンの中にしか無いからな、地域の事情で色々変わる事もあるんだろう。」
さっきまで、眠たそうな顔で頬杖ついて話を聞き流していたトリルが、
急に身を乗り出し目を輝かせる。
「ダンジョン!」
アジョンの周辺は、自然豊かだが残念ながらダンジョンが無い…今は無いかな?
突然現れる事があるという噂を耳にするので、今後どうなるかは未知数だ。
王都から東に半日馬を走らせた場所にも、あると聞いたことがあったな。
寒くなってきた頃から、激昂が足しげく通う砂漠の中央に位置するババールの
周りには、砂上の塔と砂に埋もれた広大な地下遺跡に入口が3箇所もある二つの
ダンジョンが存在している。
資源の少ない砂漠の民の生活には、欠かせない存在なのだろう。
せめてハサラ村辺りならボク達も行けそうなのにな…。
ラグとサザンが手続きを終えたので、それぞれの溜まり場に戻り報酬の分配をして解散した。
そして明日から二日間の休みになった、やったね。
何日も家を空けたので、兄さんと待ち合わせて寄り道せずに(温泉とか)
一緒に帰った。
その晩の夕食のテーブルには、セルジュが買ったお土産の香辛料を使った料理が、
早速並べられていた。
えっ!カレーと思い心を躍らせたが、そう都合よくいかなかったよ…ハァ~。
多分ターメリック一択なんだな…ボクには辛味や風味が物足りなかったけど
懐かしかったよ。
きっと他にもある筈だ、すぐにでもババールへ出向いて、色々確かめたい衝動を
抑えるのに苦労したな。
家族は変わった薄黄色いチキンに興味津々で、最初恐々口に運んでいたが概ね好評だった。
珍しい砂漠の生活の話をセルジュが語り、ボクもデクシラやメイムの話をした。
和やかな雰囲気で食事の終わりが近づいた頃。
「最近、セルジュとノアが忙しくてこうして食卓を囲むことが減ったので、今日は楽しかったわ。」
母がテーブルにワインを置いた手を頬に添え、ほぉ~っと溜息をもらす。
その夜、ボクとセルジュは食事を終えて直ぐに部屋へ戻る事無く、家族そろって
遅くまで母の話に付き合ったのは言う迄も無い。
翌日、旅の疲れと夜更かしが相まって、昼近くまで惰眠をむさぼりました。
目が覚めて先ず、ワン達の様子見をするためディメーションを開けて覗くと、
恨めしそうな顔をしたゼクスとツヴァイの目が空腹を訴えていた。
寒くなってから、溜まり場じゃなくてこっちにいたことを忘れていたよ、
慌ててアイテムバックから肉を出して渡す、お詫びにアマパンも付けとく。
いつの間にか、生命樹の他に3本の木が新たに植えられていた。
どうせドライに何の木が聞いても「お楽しみ。」とか言って教えてくれないんだろうな…そろそろディメーションも手狭になるし、休日使って拡張するか。
遅い朝食を取るため下におりたが、誰もいなかった。
兄さんくらいいると思ったのにな、ドライも先に済ませたみたいだし…
こんな事なら部屋でこっそり食べてしまえばよかったかな…。
パンやハムフルーツを適当に皿に盛り椅子に落ち着くと、ガラス越しの暖かな
日差しで背中がぽかぽかして気持ちがいい。
これはこれでホッとするなと思いなおし、ゆっくり咀嚼した。
―side セルジュ―
木造りの可愛らしいお店の窓際の席で、テーブルの向かいに座り
シシリーが笑んでいる。
胸元には、ババールで買った薄緑の連なる花を模した宝石が揺れていた。
「ありがとう、セルジュの瞳の色と同じね大切にするわ。」
そう言いながら、横に少し首を傾げる仕草が愛らしくてくすぐったい
気持ちになる。
「喜んでもらえて僕も嬉しいよ。」
一頻りババールの土産話をしながら心地よい時間をすごし、話の流れでノアと休みが重なったとと告げた。
「だからシシリーが良かったら、ノアとミアに紹介したいなって思ったんだけど?」
「ええ、会いたいわ。セルジュがいつも自慢してるんだもん、楽しみ。」
パッと華やいだ返事を機に二人は店を出て家に向かった、自然に腕を取り仲良く
寄り添って。
―side ラグロスー
「うっ、さぶっ!」
晩飯の後、ロッキーとムーンをもふもふしながらソファーで寝落ちして、
そのまま放置されていたらしい。
今年14歳になるラグロスの体は既に少年と言うより青年よりで、身長が伸びて
ガタイも良くなってきているので、抱っこして運ぶという選択がドアロスには
無かったようだ。
「折角連休なのに、目が覚めちまった。」
夜が明けたばかりだが、パンパンと顔を叩き勢いよく立ち上がった。
「たまには、俺が飯でも作るか。」
暫くして、朝食を作ろうと起きて来た母エレンが驚きの声を上げた。
「まぁ~まぁ~まぁ~一体どうしたの!」
徐々に音量が大きくなるエレンの声を聞きつけ、ドアロスが何事かと慌てて
駆け付けた。
ラグロスは、やり慣れない事をするもんじゃ無いなと気分を害しむくれていた。
―side スミス―
今日はお店の定休日なので、教会の裏通りにある小さな孤児院に出張ボランティアのため父さんと出かけた。
街の有志が声を掛け合って、雨漏り等建付けの調整やら炊き出しなんかも準備する予定だ。
ぼくと父さんの仕事は、魔力が消耗した魔石にライトや種火の魔力を込める事だ。
「スミス、父さんが火の魔力を込めておくから、各部屋を回ってライトの魔力を
やってくれるかな。」
「はい。」
父さんに返事をして端の部屋に入り、順番に隣の部屋へ移る事にした。
すると、部屋にいた子供達がぼくの手元をキラキラした瞳で見つめて来る。
「ねぇ、お兄ちゃん魔法が使えるの?」「ボクにもできる?」「しゅごい。」
「もう少し大きくなったら、教えるよ。」
兄弟がいないので、お兄ちゃんなんて呼ばれて照れくさかったけど嬉しかった。
ノアやラグやトリルも、こんな気持ちなのかな?何だろう…庇護欲?
一部屋終わって隣の部屋に向かうと、チビ達が付いて来た。
次の部屋が終わって、3番目に行くとき二部屋分のチビ達が後を付いて来る。
そうやって順番に部屋をまわり終わった時、ぼくの後ろには…。
父さんや他の大人達がその様子を見て微笑んでいた。
―side トリル―
親父とお袋が急な依頼で仕事に出かけたので、今日は4つ下の弟ニールの子守だ。
今年10歳になるので付いて回る必要は無いが、5月になったら見習い冒険者になるだろうから、天気もいいし少し稽古でもしてやるかな。
ニールと仲のいい近所の子を連れて、原っぱに向かい歩いているとティナが声を
掛けて来た。
「トリルお出かけ?」
「おぅティナ、親父とお袋に面倒見ろって言われてな、原っぱで遊ばせようと思って。」
「私も一緒に行っていい?」
「いいぞ、ティナが居た方が俺も嬉しいしな。」
「兄ちゃん彼女~?」「ヒューヒュー。」「ニールの兄ちゃんアツアツ。」
「お前等~厳しく稽古つけるからな、後で覚えてろ!」
やんややんやと囃し立てながら走る弟たちの背中を怒鳴りつけた。
―side ミア―
お昼休憩、食事をとりに母と家に戻ったら華やいだ笑い声が居間から響いたので、母と目を見合わす。
「お客様?」「聞いて無いわよ?」
首を傾げながら部屋に入った。
「ただいま~。」「あ~お腹空いた。」
「あ、お邪魔しています。」
その女性は、私と母を見て落ち着いた仕草で立ち上がり、挨拶をして柔らかい
微笑みを浮かべた。
「母さんミアお帰り、彼女は僕の恋人シシリー。丁度ノアと休みが重なったからね、みんなに紹介したくて連れてきたんだ。」
「まぁ~よく来てくれたわね、歓迎するわ。」
「突然お邪魔して申し訳ありません、シシリーですよろしくお願いします。」
「・・・・・・。」
私は、どんな顔をしていたのだろう?セルジュ兄さんに彼女?いつの間に?
疑問と衝撃でその後の会話が全く頭に入らず…。
多分何か一言二言話しをして、自分の部屋に駆け込んだ気がする。
―side ソフィア―
とうとうこの日が来たのね、胸を張り自信を持ってシシリーさんを紹介する
セルジュを見て、寂しくも誇らしく思ったわ。
それに、とても綺麗で優しそうなお嬢さんで嬉しかったわ。
それにしてもミアの反応は、思ったとおりだったわね。
暴言こそ吐かなかったけれど、言葉少なく「あ…ミアです。よろしく。」と言ったきり部屋に駆け込んでしまって、
結局お昼ご飯食べ損ねてたわね…その後も仕事に戻ったのはいいけどうわの空。
でも、いいきっかけになると思うわ、来年は成人するんだもの。
そろそろ兄離れをしていい年だと思っていたし…。
―side ノア―
うわぁ~一気にぶちまけるなんて兄さん思い切ったな、正直なボクの感想だ。
休日が終わったら、しばらく家を空ける兄さんはいいけど、ボクどうしようかな…この後ミアに詰め寄られる未来しか見えない。
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