57 ガリラヤ村
日の出と共に出発して北西に向かう、薄い雲がたなびき日差しも暖かい。
絶好の旅日和だ、遊びじゃなくて残念。
スミスは、今頃 1m四方の布5千枚に付与を施しているんだろうな。
討伐計画の初手になるので、大変だが頑張ってもらうしかない。
一方ボク達3人は、シャー達の背に揺られ穏やかな初冬の風景を満喫している。
トゥとスリーも久しぶりの出番で喜んでいるようだ。
旅人や行商人の話では、道中魔物に襲われる事がよくあると聞くが、シャー達のお陰かな パーティーを組んでから今日まで遭遇した事が無い。
まぁ 小者の相手をしなくて済むので、面倒が避けられてありがたいや。
だが 襲って来るような魔物がいたら危険度は、半端ないんだろうな 要注意だね。
お昼になり休憩を取る ここから見えないけど東の林の奥がストラダム村跡だ。
あれからもう3年たつのか、思いを馳せているとスミスの愚痴が聞こえてきた。
「やっと半分終わったよ。まさかこんな所で使うなんて思わなかった」
「ノアの発案だから 文句は、あっちに言ってくれ」
「えっ みんなで決めた作戦じゃん賛成したでしょ?ボクが話した時ノリノリだったのに、今更それは無いと思うな」
「だって本当に大変なんだもん 愚痴くらい言ってもいいでしょ。これからは、ラグみたいに作り置きしとくよ」
「いい戦法だと思うぜ 泥に足を取られたところで急所を狙うって作戦」
「大型は、多くて2匹と判明してるけど小型が分からないからな」
「小型は、牙が小さいし 下手に凍らせて粉々になったら目も当てられん」
「報酬が減るから安全策だよ。それに 作物があったら魔法で全面覆う訳にもいかないし この方法なら、手分けして罠を仕掛けられるから時間も節約できるよ」
「2千枚あれば充分じゃないか?村に着くまで休憩しとけよ。みんなもそれでいいよな」
ラグの助け舟にスミスが飛び付かない訳がない、ボク達も同意したので安堵していた。
「この先に行くとそろそろ穀倉地帯に入るな、もうひと踏ん張りだ出発するか」
お腹が膨れ朝早かった事もあり眠い 仮眠をとる為午後は、各々荷車で移動した。
荷引きを交代したツヴァイも隣で寝ていて、林で食事を済ませ満足気だな。
この街道は、湖の西側 裏道なので行き交う人も少ない のどかな田舎道だ。
小鳥の囀りが聞こえると思ったら ドライの子守歌だった。
少し日が傾きかけた頃 目が覚めて外を覗くと、黄金のじゅうたんが広がっていた。
すでに半分収穫した後のようで、所々で藁が干してある 郷愁を誘う景色だ。
穀倉地帯に入ったなら、もうしばらく進めば村に着くだろう。
そして 空が少し赤く染まり始めた夕暮れ時、ガリラヤ村に到着した。
そこは、思ったより大きな村だった。
村の入口で村長の家を聞いたら、出迎えた村人が呼びに行ったので待つ事に、村長が現れ ラグが代表で挨拶を交わし、スクロの被害について尋ねたら家に招かれた。
村長の話では、中型のスクロは2頭いて 昼と夜交互に現れると苦々しい顔で話した。
昼に現れる中型は、作物を食い荒らし夜に現れる仲間の為に収穫の邪魔をする。
夜は、もう一匹の中型が現れ 小型を守りながら仲間と共に作物を食い荒らす。
麦の収穫を半分済ませた頃、中型が現れ作業の邪魔をしだした。
小型なら何とか追い払う事も出来るが 流石に中型は、手に余るのでギルドに依頼したそうだ。
そして 夕方になると昼のスクロは、引き上げ 深夜に夜のスクロが現れるので この時間は、安全ですと悔しさを滲ませ村長が語り終えた。
この穀倉地帯は近隣の村や町の台所だ、収穫が大幅に減ってしまうとアジョンを含め大変な事になる。
「今から収穫する事は、出来ないんですか?」
「暗くて手元が見えないと危ないので」
「明るければ問題ないんだね!ならいい方法があるよ」
ボク達は、外に出て大きなライトを幾つも照らし たちまち辺りは、真昼の様な明るさになった。
村人達は、驚いて家から飛び出てきたが 村長の号令で早速収穫が始まる。
全ての作物を収穫するには、何日掛かるんだろう。
これだけ明るいと不用意に近づいて来ないと思うが、用心するに越した事はない。
スクロが襲って来た時、反撃出来るようにボク達も急いで準備した。
「みんな昨日渡したライフ(命の水)飲んでみて、ウルフにも飲ませて」
「この布何枚使う?それからウルフと人間は、非対応にしてあるから安心してね」
「気が利いてるな!」「時間が無いから、取り敢えず一人50枚でいいんじゃね」
散らばって、作物の周囲を走り布を設置する 杜撰な方法だが急ぎなので仕方ない。
残りの作物全てを収穫するのは、無理だろうから どのタイミングで終了するのか疑問に思ったが、目処が付いたら村長が合図を送るだろう。
暫くすると、方々からピーとかプギャーと鳴き声が響いた。
声のした方角へ急いで見に行くと、小型がまんまと罠に嵌っている。
しかも 罠をすり抜けた小型は、いつもの事でシャー達に踏みつぶされていた。
大型は、この明るさに警戒して何処かで様子を窺っているのか姿を見せないな。
取り敢えず 仕留めた小型をアイテムバックにどんどん放り込む事にした。
30匹くらい捕獲した頃、流石に小型も警戒したのか近寄らない。
ゼクスやツヴァイの餌の在庫に丁度良かったのにな、まぁ~明日があるか。
ある程度収穫を終えたのだろう、ドライを通してラグから終了の連絡があった。
村長の家の前に村人が集まり、歓声が上がり肩をたたき合い喜んでいる。
ボク達の姿を見ると、走り寄り口々に感謝の気持ちを伝えてきた。
「到着した早々、有難うございました。明日もよろしくお願いします」
「お任せください ご要望に沿えるよう頑張ります。それより 泊まるところってあるのかな?」
「すみません。旅人が立ち寄る事が滅多に無いので宿は、無いんです」
「予想は、していたので大丈夫。スクロの警戒をしたいので収穫が終わった あそこで野営していいかな?」
ボク達は、スクロが現れた方角と麦の間で野営する事にした。
牙を抜いた小型のスクロを健闘を称えゼクスとツヴァイに分けると、喜んで新鮮な肉に食らいついている。
夕食後 スクロが来た方角に今度は、丁寧に罠を敷き詰めた。
罠の設置が終わり、明日も早いのでサッサと寝る事にする。
見張りの順番を話し合っていたら、ウルフ達が交代で見張りにつくと志願したので、安心して任せたよ。
翌朝 ボク達が食事をしていると、シャーが昨夜の報告を告げに来た。
「あの後 魔物は、現れずとても静かな夜でした」
「それは、良かった。昨夜中型は、姿を見せなかったけど昼は、来るかな?」
「来ると考え 準備だけは、していた方が良いね」
ボク達は、刈り取られた場所に布を4枚使い2m四方の罠を5か所設置した。
上手くおびき寄せ どれかに足を踏み入れてくれたらこっちのもんだ。
中型が現れるのは、昼間なので村人は、早朝からせっせと刈り入れをしている。
少しでも多く収穫したいのだろう。
シャー達を休ませ 交代したボク達が見張りをするのは、いい。
だが 傍から見ると、きっとブラブラしているようにしか見えないな、村人に申し訳ない気分だ。
昼時になり村人は、足早にそそくさと家へ戻る そろそろお目見えになる頃合いか。
そう思い西の方角 小高い山が見える方へ目をやると、中型スクロの姿を確認した。
悠然と歩き 近くで止まる。
生命樹の元で鋭気を養ったウルフ達が、気配に気付きやる気を漲らせ現れた。
ボク達は、スクロと対峙し暫くにらみ合う。
痺れを切らしたスクロは、前足で土を何度も蹴り突進する素振りを見せた。
((みんな鋭い牙に注意だ。作戦通り飛び付かず罠に誘導するんだよ))
今にも飛び掛かりそうなシャー達に注意を促し、ボク達もスクロに背を向け罠に向かい駆けだした。
追い付かれそうになるギリギリのところで罠に辿り着き 振り返る。
するとスクロは、左前脚だけ罠にはまった状態だった。
ボク達が用心深くジリジリ近づくと、嵌った足を抜こうと必死にもがき出した。
「残念。一度嵌ると抜けないんだよ!」スミスが得意げに胸を張る。
ラグが、弓で急所の鼻をアイスアローで狙い撃ちすると刺さった場所から凍ってしまい、鼻の穴が塞がって呼吸が苦しそうだ。
トリルは、覚えたての水を纏った大剣で首を目掛け振るうが、まだ力不足のようである。
壮絶な叫び声をあげ 口から膨大な涎をまき散らし暴れていたが、急にピタッと動きを止めた。
とうとう観念したのだろうかと思った次の瞬間、もの凄い跳躍を見せ ベキ バリバリ ブシャ嫌な音が耳に届き スクロがいた場所を見ると、血だまりの中に捥げた左前足の断面が残っていた。
そしてスクロは、怒気を漲らせ 罠を飛び越えた位置に立ち塞がっている。
ボク達は、声を掛け合い距離を取り体制を整えた 罠は、あれだけじゃない。
片足が無くなり走るのは、難しいだろう だがその考えは、間違いだった。
確かにスピードは、落ちるが 千切れた足から血をまき散らし狂ったように突進してくる。
ボク達は、別の罠に誘導するため全力で走った。
その様子を見ていたゼクス達は、側面からスクロに次々と飛び付き 牙を剥き爪を立てた。
シャー達は、影から喉元に食らい付き引きずられている。
ボク達の為、必死にスクロの足止めをしているのだろう。
罠に辿り着き振り返ったボク達は、ウルフ達に呼び掛けた。
「もういい充分だ!」「ありがとう。もういいよ」
傷だらけになったウルフ達は、スクロから離れその場で伏せる。
スクロは、血走った目でボク達を睨み そのまま全力で突進してきた。
怒りで理性が吹っ飛んでいたのか、勢いよく全身を罠に投じ地中に埋まってしまった。
ボクは、身動きが取れない状態になったスクロの心臓を狙い 一気に突き刺す。
スクロは、短い悲鳴を上げその場で果てた 最後は、あっけなかった。
やっと中型スクロを一匹仕留めたよ 残り後一匹か…
仕留めたスクロを解体し、夜に備えそのまま反省会を開かないとね。
いくら再生するからって、怪我をすれば痛いに決まってる。
ライフは、怪我をする為にあるんじゃない、怪我をしても安心する為にあるんだ。
傷付かない方がいいに決まっているのだから。
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