55 休日
―side トリル―
「お待たせ~トリル。」
あふれんばかりの笑顔で、ティナが駆け寄って来る。
小柄な割に、ふくよかな胸と締まった体付きで、スラッと手足が伸びて…。
走るとプルンプルンしてるぞ、目のやり場に困るよ。
すれ違う奴まで二度見してるし。
息を切らし、目の前に来たティナが下から見上げた。
「今日は何処へ連れてってくれるの?」
「南門で待ち合わせなんだから、外に決まってるだろ。」
「そんな言い方しなくてもいいのに、本当にもう、照れ屋なんだから、フフ。」
他愛ないやり取りをしながら、門番に挨拶をする。
「やぁ、おはよう、今日はバラバラで行動してるんだね。」
「えっ、何の事です?」
「今朝、5匹のウルフを連れた子が、門を通って出て行ったからさ。
あんたもそうだが、ウルフを連れてる子は少ないからね、
それに、あの子のウルフは毛並みが違うから、目立つし記憶に残りやすい。」
ノアの事か、あいつ一人で出かけたのか…。昨日もだけど、何かやってんのかな。
適当な返事を門番に返して外に出た。
ティナがキャルに乗るのを手伝い、俺はロックの背に乗りゆっくり進んだ。
砂漠の方角はセンクが嫌がるな、塀の西側川上の方に行くか。
「凄く気持ちいいのね~、いつもの景色と、違って見えて新鮮だわ。」
「そうだろう、けど…寒く無いか?」
「うん、大丈夫。ありがとう、ふふ。」
こぼれる笑顔で見詰められると、何だかくすぐったい気分になるな。
「ねぇ、旅の話を聞かせてよ。何か面白い事あったんでしょ?」
「おぅ、実は…。」
もっとティナの笑顔が見たくて、話を膨らませて大袈裟に聞かせる。
俺の言葉にコロコロ笑い、頷いたり驚いたりして、笑顔のティナを見てると、
こんな休日もありだなと思うよ。誘って良かったな。
―side ラグロス―
ハァ~、休みなんて言ったけど、やる事ねぇ~し暇だな…。
溜まり場に顔を出したけど、誰もいやしねぇ、あいつ等何やってるんだろ。
ここでボウッとしているのにも飽きたな、ギルドに顔を出してみるか。
「あら、一人?珍しいわね。」
「アリスさん、そうなんですよ、休みだとやる事無くて…。」
「たまには、そんな日があってもいいんじゃない。
あっ、そうねぇ~退屈ならアレ手伝ってもらおうかな?」
「ん?アレって何です。」
「君もそろそろ1年経ったわよね、後輩の面倒を見てもいいかもね。」
「ええ、せっかくの休みなのに仕事っすか?」
ラグロスの返事を待たず、アリスは3人組に近づいて行き声を掛けている。
3人はこっちを見て、ペコっと頭を下げたので、仕方なく頷き返した。
「この不愛想な顔をしている子が、ラグロスよ、あなた達の一年先輩になるわ。」
「ラグロスさんこんにちは、あたしはベイリーです。宜しくお願いします。」
「初めまして、ジョージです。おれ達、今日初めて二つ目の壁を越えるんです。」
「オレはオマリーと言います。Fランクです。色々教えて下さい。」
「まさか、カワイイ後輩の頼みを断らないわよね!」
アリス…顔が笑っているけど、目が怖いぞ…。仕方ない引き受けるか。
「わかったよ、何か依頼受けるか…どれがいいかな。」
初めてという事は、魔物の討伐も経験していないんだな。
おっ、これなら大丈夫そうだな。Eランクだが俺が一緒なら問題無いだろ。
依頼内容<ガレー討伐>
1匹小銀貨1枚、討伐数20匹、人数3~5人、Eランク
ガレーの生息地は確か西の川沿いだったな。依頼を受け、3人を連れて門を出た。
ロッキーとムーンの背に揺られゆったり歩く。
「うぉ、凄い高い。」「いいな~ぼくも欲しいよ。」「気持ちいいね~。」
最初、怖々ウルフと接していた3人も、少し慣れて来たようだ。
「いいかお前等、ガレーは泳ぐ事も出来るし、すばしっこい。
モタモタしていると逃げられるから、素早い対応が必要だからな!」
「はい!」
3人が元気よく返事を返す。
「体長は確か、20~40㎝だったな、肉食で牙が鋭いから要注意だ。
好戦的なので、敵と認識すれば襲ってくるから、油断しないように。
後は、何か言っておく事あったかな…う~ん。」
「ラグロスさん、誰かいます。」
「ん、あれ?トリルじゃん。」
立ち止まり眺めると、トリルが楽しそうに女の子と寛いでいた。
休日デートかよ…充実していやがる。これは邪魔するしかないな!
「よぉ~ト・リ・ル。お楽しみかね?へへへ。」
「うわっ、ラグ!何でこんなところに?この3人は誰だよ。」
「暇なんでギルド寄ったら、アリスに捕まって、おもりを押し付けられたんだ。」
「そうか、ご苦労様。何処に行くんだ?」
「この先にガレーが生息しているだろ、討伐に向かう所だ。
そんな事より、その子を紹介しろよ。」
「あぁ~ティナだ、ティナこいつは俺達のリーダー、ラグロスだよ。」
「ギルドで顔を見掛けた事はあるわね、宜しくラグロスさん。」
「ラグでいいよ、宜しくな!ティナ。可愛い子だな~羨ましいぜ。」
トリルが手伝うと言ったが、これ以上お邪魔しちゃ悪いので断った。
街の塀から離れて、川に沿って歩くと木立がある。
「この辺りの木の根元に、穴を掘って巣を作っているはずだ、探してくれ。」
下草を払いながら探すと、ガサガサっと葉がこすれ合う音がして、
ベイリーめがけ一匹のガレーが襲って来た。
「きゃー!」
「ベイリー怯むな!土魔法で囲むんだ。」
次々現れるガレーを土壁で囲み、ジョージは弓でオマリーが槍を使って仕留めた。
素早く逃げ出したガレーは、ロッキーとムーンが踏み潰している。
「まだ食べたらダメだぞ、討伐部位が必要だからな。」
初めて魔物を仕留めた3人は、手を取り合い興奮して頬を上気させていた。
ふっ、かわいいな。そういえば俺達も、あんなだったけな。
「いつまで浸ってるんだ?日が暮れちまうぞ。討伐部位の牙を抜いてしまえ。」
食べ残しのガレーは、穴を掘って燃やして埋める、これで3人の依頼は終了だな。
後はギルドに送り届ければ、俺の仕事も終わりだ。
金にはならなかったが、初心を思い出したし、いい暇潰しになったよ。
―side スミス―
「スミスせっかくの休みなのに、店の手伝いでいいのか?」
「うん、父さんに色々教えて貰えるし、それに相談したい事もあるんだ。」
「相談?珍しいね、何かな。」
「ん~と、ランクがまた、上がるかもしれないんだ。」
ミスドは驚いた顔をしたが、直ぐに真剣な顔に戻った。
冒険者になり、やっと1年過ぎたところだ。
息子の付与魔術士としての腕を疑う訳じゃ無いが、随分早いペースでランクが
上がっている気がする。
「スミスは、どう思っているんだ?」
「ぼく、Cランクなんて自信ないな…」
直ぐに飛びつくと思ったが、意外に慎重だな、これなら大丈夫か。
「そうか、父さんが口出す事じゃ無いかもしれんが、少し早いと思うよ。
まだ13歳だしね、経験も少ないし慌てなくていいさ、仲間とよく相談しなさい。」
父の言葉に素直に頷いた。
そうだよな、今まで中型はそこそこ戦ったけど、大型の討伐はメミズだけだし、
あれだって激昂のサポートが付いていた。僕たち、全然経験足りていないよな。
みんなは、答えを出したんだろうか。今頃何してるのかな…。
「新しい魔道具を作るけど、見るかい?」
「うん、今行くよ。」
ぼくは心躍らせ、上機嫌で作業場へ向かった。
―side ノア―
あ゛ぁ~のぼせたかも知れない
明日話し合う、Cランクの件をあれこれ考えていたら、湯につかり過ぎていた。
湯から上がり裸のままゴロンと寝転がる、地面がヒンヤリしていて気持ちいい。
「ゼクスとツヴァイがこちらに向かっていますね、激昂も一緒のようです。」
「何て格好してるの、ノア。」
「ゲッ!兄さん、シャーもっと早く教えてよ。」
「よぅ~ノア、いい格好だな、それに一人か珍しいな。」
リーに冷やかされ、慌てて服を手にした。
「たまの休みだもん、一人で考えたいときもあるさ。」
生意気だなとか一丁前なんて口々に囃し立て、激昂も風呂に入った。
「そういえばミアに聞いたんだけど、馬返すよ。」
トーマス商会の事は、兄さんの耳に筒抜けらしい、次期社長だから仕方ないか。
人攫いの馬だから、扱いも良くないだろうし、兄さんはあんな値段が付くと
思ってなかった様だ。
「今更そんな事言われても困るよ。」
「じゃ~来月、ノアの誕生日に何か欲しい物を贈るよ、何がいい?」
「ん~欲しい物なんて無いかな、そうだ、だったらまた狩りに連れて行ってよ。」
「そんな事でいいの?欲がないな。」
「俺達は何も貰って無いからな、連れて行く義理は無いぞ。」
リーが冗談めかして言ったけど、ボク達を連れて行く事に異存は無い様だ。
激昂は風呂につかり、仕事の反省会をしていた。
兄さんが一緒に帰ろうと言ったので、風呂には入らず横で話を聞きながら待つ。
暫くすると、そろそろ帰るかと、サザンが話を締めて帰路に着いた。
兄さん手綱を買ったんだな、言ってくれればワン達のどれかを貸したのに。
ボクも何で気付かないかな…。
街の近くに着いて、西の方角を見るとウルフに乗った二人組?
あっ、トリルだ、デートだ、リア充かよ~あいつ。
「ノア、何だ激昂と一緒だったのか?」
「違うよ、さっき会ったんだよ、激昂は仕事の帰り。そんな事よりデート?
紹介してよ。」
トリルは、少し照れながら彼女を紹介してくれた。
その時、ラグは後輩の面倒を見ているよと教えてくれる、ラグにも会ったんだ。
街に戻り、激昂は依頼の報告にギルドへ向かい、
トリルは明日溜まり場でなと言って、彼女を家に送って行った。
さて、ボクも家に帰るか、明日からまた、慌ただしい日常が待っている。
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