51 ピクシーの里帰り4
「うっ、さぶぃ。」
山から下って来る冷気に当てられ、身震いをして目が覚める。
ヒリバ村は、アジョンより北の方角だからか、気温が低いのかな。
そう言えば前は、寝ている間に帰っていたドライが、狸寝入りをしてたっけ…。
そんな事を思い出し、顔がほころんだ。
起き上がり、周囲を探したが、ドライの姿は見当たらない。
まだ、帰って来ていないようだな。
すっかり目が覚めたので、外に出て山を見上げると、頂上が少し霞んでいた。
ドライに呼び掛けてみようかと、迷っていたところに、ラグも起き出して来た。
おはようと挨拶を交わし、二人並んで山を仰ぎ見る。
「ラグ、今日の予定は?」
「フィーア達の帰りを、待つ事のみだな。」
そのまま、無言で山を眺めていたら、スミスとトリルも表に出て来た。
「おはよう。二人とも早いね、アン達から何か連絡はあった?」
「ん~ん、何も無いよ。ドライに呼び掛けしようかと迷っていたんだ。」
「俺もそう思ったけど、よく考えたら、まだ半日しかたって無いしな。
あまり早く呼びかけても、私がいなくて、そんなに寂しいの?
な~んて後でセンクに、からかわれると思ってやめたよ。」
「からかわれるかどうかは別として、言われてみればそうか、半日か。
じゃ~明日まで待った方が良いかな。」
「それでいいんじゃね。そうと決まれば、飯にしようぜ。」
そう言って、ラグが荷車の方へ戻るので、ボク達も後に続いた。
―side アジョン―
「ねぇ~こんな事、やめようよ。」
デギキスが額に大粒の汗をかき、青い顔でジャンの袖を引っ張るが、
体の大きいジャンに、敵う筈がない。
「五月蠅い!お前悔しくないのか?あいつらのせいで、
ツオーネがギルド追放になったんだぞ。」
「それは、忍び込もうとしたからでしょ?
そんな事しても何の解決にならないよ。」
「お前だって不思議だろ?
同じ年なのに、あいつ等だけ部屋まで借りて、大出世じゃないか。
他にそんな奴いるのか?絶対何か秘密があるはずだ!俺が暴いてやる。」
デギキスがいくら止めても、頭に血が上ったジャンは、頑として受け入れない。
普段の彼は、俺様的な物言いをするが、その反面、意外と仲間思いだ。
なので、いくらツオーネが悪くても、処分に納得がいかなかった。
その理不尽な怒りが、クレッセントに向かってしまったのだ。
こうなったら、何を言っても聞き入れてもらえないな。
デギキスは仕方なく諦めて、不安な表情でジャンを見送った。
ジャンが向かったのは、クレッセントの部屋の前だ。
ツオーネが裏から忍び込み、罠にはまったと聞いて、正面から入るつもりだ。
あいつ等が街から離れて、留守している今がチャンスだ。
ふん、生意気だな。何だこの絵、ちょっとウルフを使役しているからって。
憤りながら、ノブに手を掛けると、足元が揺らいだ。
ジャンが下を見ると、ずぶずぶと足首の辺りまで床に沈んでいた。
何だこりゃ?慌てて足を引き抜こうとするが、抜けない。
それどころか、どんどん体が沈んでゆく。
焦ってもがく頃には、腰まで嵌ってしまい、ジャンは堪らず大声で叫び出す。
「たっ助けてくれ~誰か~。」
騒ぎを聞きつけて、他の部屋から人が出て来た。
駆け付けた人達は、ジャンを見て状況が飲み込めず、唖然としてしまう。
「突っ立って見てないで、助けてくれよ~。」
ジャンの情けない言葉で我に返り、協力して腕を引っ張るが、沈んでゆく一方だ。
このまま、沈み込んでしまうのではないかと、みんな心配して見守っていたが、
肩まで沈んだところで止まり、ホッと安堵した。
止まったはいいが、引っ張っても抜けない。
強くやり過ぎると、痛いと泣き叫ぶので、どうすることも出来なくて困った。
そこへ、仕事帰りの激昂が戻って来た。建物に入ると、何だか廊下が騒がしい。
野次馬根性丸出しで、リーが見に行くと、ゲラゲラ笑いながら振り返った。
そして、メンバーに手招きをする。
呼ばれたのでそばに行き、床に埋まった人を見て、セルジュは納得した。
「ねぇ~君、部屋に忍び込もうとしたでしょ?」
ジャンはギョッとした顔をして、目を泳がせ黙り込む。
さっきまで心配していた周りの人達は、その言葉を聞き呆れた顔で非難しだした。
「何だ泥棒かよ、同情して損したな。」
「必死に助けようとした俺等が、バカみたいじゃん。」
泥棒と判明し、誰だこいつと興味本位で詮索する声や、不逞奴だと罵る声で、
周りがざわつきだす。
しかし、いくら泥棒でも、このまま放って置く訳にもいかないし、
廊下に埋まったままだと目障りだ。
そこへ、連絡があったが場所はどこだと、周囲に声をかける二人の騎士が現れた。
騎士は、床に埋まった泥棒を見て、困惑した顔になる。
「これは、誰の仕業かな?」
「あ~これは、泥棒除けの付与魔法だと思います。」
「ん?君は誰だね。どうして知っている。」
「この部屋の借主、クレッセントのメンバーに弟がいて、兄のセルジュです。」
「付与魔法と言ったが、どんな魔法を仕掛けたのかな?知っているか。」
「詳しい事は知りませんが、勝手にドアを開けようとすると、
罠が発動すると聞いています。」
絵の事をノアに聞いて知っていたが、野次馬が多いので種明かしを控えた。
「そうか、解除の方法を聞いているか、借主はどこだ、まだ帰らんのか?」
「今、旅に出ていて、いつ帰るかはっきり分かりませんし、
解除の方法も知らないです。」
セルジュが申し訳なさそうに答えると、騎士達は小声で話し合い、
一人の騎士が、走って応援を呼びに行った。
「後はこちらで処理するので、君達は部屋に戻るか、ここを立ち去りなさい。」
有無を言わさぬ騎士の言葉に、野次馬達は残念そうな顔をして立ち去る。
激昂もこれ以上面倒事に、巻き込まれないうちに、自室へ退散する事にした。
その頃ノア達は、ドライ達の帰りを、ボーっと待つのもつまらないので、
ヒリバ村の西門の外に出て、剣の練習に汗を流していた。
「はぁ~疲れた、休憩しよう。スミス、杖の扱いが様になって来たね。」
「ノアだって、さっきの突き鋭くてヒヤッとしたよ。」
「いいよな~お前等、武器が似ていて。」
「流石に杖で大剣は、受け止めきれないからね。」
「うん、折れちゃう。トリルの練習相手するなら、魔法解禁で!」
「魔力を纏って、体や武器を強化する方法があるってよ?」
「あ~そうだね、ボク少しなら出来るけど?」
「えっ、ノアできるの?何で使って無いの。」
「スミスが使って無いからだよ、片方だけ使ったら危ないんだ。
威力が大幅に増えるからね。」
「威力が増えるか、そりゃいいな!どうやるか教えろよ。」
「あ、でもトリルは、ラグから聞いた方がいいんじゃない?
どうせなら、大剣に魔法を纏えた方がいいと思うよ。」
「そういえば大蛇の時、リーさんが大剣に火を纏ってたな。」
「トリル、魔法ステータス、何持ってんだ?」
「俺は、氷と水だ、火なら良かったんだけどな~。」
「いいじゃん!水。父ちゃんが言ってたぞ、水は、岩をも砕くって。」
ラグはそう言いながら、その場でウォーターアローを作った。
そして、石を拾って勢いよく刺し、実演しながら説明する。
「コツはどの魔法でも同じだ、魔力をとにかく、固く鋭く圧縮するんだ。」
「それに、狙いを凍らせてから、砕く事も出来るよ。メミズの時みたいに。」
「そうか、そうだよな!俺やってみる、魔法を剣に纏う練習を頑張るよ。」
「頼りにしているよ、トリル!なんたって、ボク達の前衛なんだから。」
その後の訓練は、魔力操作の応用を色々試した。
一朝一夕で成功するものじゃ無いから、みんなコツコツ頑張ってね。
お昼時になり、停車場に戻ると村長さんが待っていた。
今朝まで、ここに泊まっていた人達は、既に旅立った後だ。
「何かお困りな事でもありましたか?」
「いえ、何もないですけど。何故ですか?」
「余程天候が悪くない限り、この村に逗留する事が珍しいので、
何か不測の事態でも起こったのかと思いまして、お話を伺いに参りました。」
ようするに、一向に次の目的地へ、出発する気配が無いボク達の事を、
怪しんでいるのかな。
「あ~その事ですか…。それは、あれです。
そうそう、人と待ち合わせしているんです。ここで!」
「あ~そう言う事でしたか。わかりました。
何か困ったことがあったら、声を掛けて下さいね。」
村長が立ち去った後、ボク達の緊張がとけた。
だが、今ボクが確信している気持ちを、みんなと共有しなくては。
「ラグの言い訳、嘘だと見抜かれていると思う人。」
「はい。」「俺も。」「当然ボクも。」
3人がニンマリ笑い、ラグを見る。
「それらしく聞こえたから良いんだよ。
そんな事言うなら、お前達が何か言えばよかったじゃん。」
「あながち嘘じゃ無いしね。人じゃなくて妖精を待ってますって、
本当の事話したら、可哀想な人と勘違いされちゃうもんね。」
拗ねてそっぽを向くラグに、
実際、頼れる男だよ、尊敬するよと、3人で宥めて謝った。
いつもの事だが、ボクはあの時、頭が真っ白で何も思い浮かばなかったし。
その日の夜になっても、ドライ達は戻らなかった。
あまり時間が掛かり過ぎると、村民の目が厳しくなりそうで困るな。
無事に帰って来てねドライ、心の中で願いながら眠りについた。
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